神様と酒盛り_05
台風の影響で天気が悪く、雲が厚い。向かう途中で雨が降り出し、風に煽られた雨がフロントガラスを叩きつける。
『お主に会えてよかったわい。この雨じゃわしは流されてしまうからの』
「お役に立ててよかったですよ」
とはいえ、この雨は私も運転が怖い。いつもよりゆっくりとしたスピードで市街地を抜け、小高い丘をそろそろと登っていく。ありがたいことに、名月神社に近づくにつれ雨が弱まった。神社横の駐車場に着く頃には雨はすっかり上がっていて、雨の止み間のうちに少彦様とモフ太をカバンに詰め込んで、神社の石段を駆け上がる。
石段を登り切った境内では月読様が待ち構えたように立っていて、私は驚きのあまり声を上げた。
「月読様!」
「アオイが来るのが見えたのでな、しばし雨雲を止めてもらった。早くこちらに入るがいい」
月読様に続いて社務所に入る。その瞬間、雨がまたザーと降り始めた。
「ありがとうございます。助かりました」
「いや、構わぬが。今日は一体どうした? こんな早い時間に。舞いの練習にはまだ早かろう」
「はい。実は……」
私はカバンを開けて少彦様を両手に乗せる。ちょこんと乗った少彦様は、月読様に向かって右手を挙げた。
『よう、月読よ。久しいの』
「少彦か。こんな場所に何用だ?」
『火の神に頼まれての、結婚式用の酒を造りにきたのじゃよ』
少彦様は持っていた杖を一振りする。すると大きな樽がいくつか出現した。
『お主たち、手伝ってくれぬか?』
「わかりました。ほら、モフ太もだからね」
「ええー」
「出雲の神様に言いつけるわよ」
“出雲の神様”という言葉を出すと、モフ太はぴっと姿勢を正す。よっぽど厳しい神様なのかしら。




