神様の使いとお月見_09
部屋中に広がるお出汁のいい香り。
テーブルに並べられたどんぶりに、モフ太が今にも食べようとしているところ、ちょうど月読様が現れてモフ太は慌てて箸を置く。
「出雲のうさぎか。焚き上げの灰が荒らされていると思ったが、お主の仕業であったか。真っ黒ではないか」
「はっ、ははあっ。この度は咲耶姫様のご結婚に際し、我が主よりお祝いを申し遣ってやってまいりました」
長い耳と前足をぺたんと床にくっつけて、まるで土下座でもしているかのようなモフ太。あんなに自由に暴れまわっていたのが嘘みたいに、月読様の前では大人しい。これが神様の威厳ってやつなのかしらと感心していると、透さんがすっと横に来る。
「月読様、来てくれたんだ」
「うん、今日は十五夜だからお月見パーティーしましょうって話してたの」
「やっぱり葵がいるといいね。月読様も嬉しそうだ」
透さんは閉められていた雨戸をガララと開けていく。涼しく新鮮な夜の空気が部屋に流れ込んだ。空には大きな月が煌々と輝いている。まさにお月見日和だ。
開け放たれた窓から外に足を投げ出す。
月読様と透さんとモフ太と、月を眺めながら蕎麦をすすった。
「たまにはこういうのも、いいものだな」
月読様がぽつりと呟く。
私は透さんと顔を見合わせ、ふふっと微笑む。
「私もこういうの、好きです」
「僕も、いいと思う。だけど――」
透さんはそうっと私に耳打ちする。
「次は二人で食事に行こう。今日は行けなかったから」
約束だ、と目尻を柔らかく落とした透さんから目が離せなくて――
「うん、約束ね」
頷いた私の目の前に、モフ太がぴょんっとやって来る。
「何の約束だ?」
「な、何でもないよ! もう、モフ太ったら、お蕎麦こぼれちゃうでしょ」
妙に照れくさくなって、残りの蕎麦をかき込む。
透さんの作ってくれた蕎麦はとても美味しくて、優しい味がした。




