神様の使いとお月見_08
「ずいぶん汚れていないか?」
頬を拭われ、ドキンと心臓が揺れた。
月読様は自分の袖口で私の顔の汚れを拭き取ってくれる。
「あっ、汚れちゃうので……」
「構わぬよ。しかし何をしたらこんなに汚れるんだ?」
「あ、はは……それはいろいろありまして……」
私は神使であるモフ太が来ていること、お月見団子を食べてしまったこと、煤まみれで跳びはねたために透さんと掃除したことを、かいつまんで話した。
「それで、蕎麦とな?」
「はい、お腹が空いたので透さんとお蕎麦を食べようってなって、月読様も一緒にどうかなーって思って」
「今宵は十五夜だ。月を眺めながら食べるのも悪くない」
「わあ! それ素敵ですね。お月見パーティーしましょう」
見上げた空にはまん丸い月がぽっかり浮かぶ。幻想的な風景に心が洗われるようだ。
「して、ずいぶんと透と打ち解けたようだな」
月読様はニンマリと微笑む。先ほど透さんに「葵」と名前を呼び捨てにされたことを思い出して心臓がドキリと揺れた。
落ち着いて、私。ただそれだけのこと。何を意識することがあるの。
それなのに少し、声が上ずる。
「えっ、そ、そうですか?」
「そうであろう?」
月読様はクックッと、たいそう楽しそうに笑う。
確かに、少しずつ透さんと仲良くなれている気がする。感情の起伏の少ない透さんに食事に誘われたし、モフ太のことで一緒にすったもんだもした。そのおかげか砕けた話し方にもなったし……。
それが、打ち解けたかどうかは、わからないけれど。
「そうだと……いいです」
ぼそりと呟いた声は、月読様に届いたのかどうか。
ふっと目尻を落とした月読様はそれ以上何も言わず、静かに社務所に入っていく。私は思いがけずドキドキしてしまった胸を押さえながら、慌ててその後を追いかけた。




