星降る夜に神様と、まさかの女子会をしました_04
「嘘でしょ?」
もう見えなくなるほど遠くに行ってしまった車を見つめながら、私は一人呟いた。
待ってと呼び止めることもできない。走ったって追いつけやしない。彼女を山に置き去りとか、まったくもって信じられない。どんな鬼畜だよ。
それでも私はまだ玲を信じていた。きっとほとぼりが冷めたら迎えに来てくれるんでしょうって。だって私は玲の彼女だもの。いくら玲でも、こんなところに彼女を置き去りにするほど酷いやつじゃない。一人になって頭を冷やせば帰ってきてくれる。星を見せるためにここに連れてきてくれた、優しい心の持ち主のはずだから。
けれど、待てどくらせど車は来ない。それどころか、まわりにいるカップルさえもどんどん帰り始め、さすがに私も焦りを隠せなくなってきた。
気付けば私は、知らない山で一人ぼっちになっていた。
いい加減、玲に電話しよう。
謝って迎えにきてもらおう。
そうしないと帰る術がないのだ。
カバンから携帯を取り出して、私は愕然とした。
まさかの圏外だったからだ。
やばい。
まわりを見渡しても明かりひとつない。
玲に急に連れてこられた山だから、どこの山かもさっぱりわからない。
ただ言えることは、ここは少し開けた展望台だということ。だからここを動かなければ少なくとも遭難することはないだろう。この綺麗な星空なら何時間でも見ていられる気分だ。
だがそれは、すぐに甘い考えだということを思い知らされることになる。
少しずつ寒くなってきた。
まわりは真っ暗。
明かりは携帯のみ。
ただ星空が、吸い込まれそうなくらいに綺麗だった。
急に心細くなってきて私は両腕で体を抱えた。
いやいや、負けてたまるか。
身震いしながらも私は意思を強く持つ。
あんな男、別れてやる。
ううん、もう別れたも同然だ。
玲とのやり取りを思い出しながら、私は心の中で憤った。これから先、玲と上手くやっていく自信がない。今までどうやって過ごしてきたのかさえ忘れかけている。
別れようとは言っていないけど、山に置き去りにされたのだから、こんなのもう別れたようなものだろう。
謝ったって、絶対に許してやらない。彼女をひとり山に置き去りにするとか、本当にありえないんだから。
考えれば考えるほど悔しくなって、胸が痛いくらいに締めつけられる。玲が悪いのか、はたまた自分にも悪いところがあったのか、今の私には判断がつかないほどまったくもって冷静な気持ちにはなれなかった。
と同時に、雫が頬を伝ってしっとりと濡らしていく。それは次から次へ頬へ流れ落ち、ああ私は泣いているのかなとぼんやりと思った。悔しくて泣けるなんて、本当にもう胸が詰まりそうだ。
「ん?」
私は空を見上げた。
涙ももちろん出ていたけれど、次から次へ頬へ流れていたのは天からの雨だった。
「嘘っ?!」
ポツリ、ポツリと降りだし始め地面を濡らしていく。コンクリートが濡れて湿気を帯びる、降り始めの雨の匂いがした。
山の天気は変わりやすいとはよく言ったものだ。
さっきまであんなに綺麗に星が見えていた。
雲ひとつない快晴の夜空だった。
それなのに、今ではうっすらとした雲がどんどん星空を覆い隠していく。
天気のスピードに気持ちがついていけず、私はオロオロと焦り始めた。