神様の見える人_01
ある遅番の日。
出勤した早々、店長が飛んでやってきた。
「望月さん!」
「あ、おはようございます」
「お客様がお待ちよ」
「はい?」
早く早くと急かす店長に続いて、慌ててエプロンを着けて店内へと急ぐ。ただの花屋に勤める私に、どうやらご指名があったらしい。
……ご指名???
まさか神様の類かと勘ぐったけれど、そもそも店長は神様が見える人ではないし、不思議な存在を怖がるタイプの人。
「すっごいイケメンだから! どんな知り合い? 後で教えてね」
「は、はあ……」
目をキラキラさせて興奮気味に喋る店長に、私は首を傾げながら曖昧な返事しかできない。だってイケメンの知り合いなんていないし。
そういえば以前出会った月読様は、綺麗な顔をしていたな、なんて考えながらお客様の元へ急いだ。
レジの横にお花を配送するための案内カウンターがある。そこに、私を指名した男性が凛とした佇まいで立っていた。年格好は私と同じか二十代後半くらいだろうか。
「お待たせして申し訳ありません」
声をかけると、彼は静かに顔を上げる。
長い睫毛に縁取られた瞳が私を捉えると、ほんのりと目尻を落とした。
店長が興奮するイケメンというよりは、どことなく憂いを帯びた線の細い綺麗な男性。(まあ、イケメンには違いないのだけど)
「望月と申します。どのようなご用件でしょうか」
椅子に座るよう促しながら、ネームプレートを提示する。どう考えても彼と知り合いではないから、私への指名は間違いなんじゃないかと思ったのだけど――。
瞬間、ほのかに甘い香りが鼻をかすめた。
これは……白檀の香り?
「斉賀透といいます。突然訪ねてすみません。望月さんのお話は、常々聞いております」
「えっと……?」
初対面なのにまるで知っているかのように話されてドキリとする。意味がわからず目をパチクリさせる私に、斉賀さんはニッコリと微笑んだ。そして少し声を潜める。
「咲耶姫様をご存知ですよね?」
「えっ!」
思わず大きな声がでてしまい、慌てて口元を押さえる。
咲耶姫様は以前山の中で出会った神様だ。人と話すのは何千年ぶりかと言っていた。そんな咲耶姫様を知っている斉賀さんは何者なのだろう。
「……斉賀さんは神様ですか?」
そうだとしか思えなくてそう言ったのに、斉賀さんは可笑しそうにくすりと笑って「いいえ」と否定した。




