星降る夜に神様と、まさかの女子会をしました_03
エンジンはそのままに、ヘッドライトが消された。街灯はなく、とたんに暗闇が広がる。
「ここさ、星が綺麗なんだよ。穴場スポット」
「……そうなの?」
先程とはうって変わって急に優しい声色で話す玲に、私は少し落ち着きを取り戻す。
「葵、星好きだろ?」
「うん、好き」
私はフロントガラスから空を仰ぎ見る。
ガラス越しからでも確認できる無数の星は、街中で見るものとは全然違った。
――星が綺麗な穴場スポット
だから連れてきてくれたんだと思うと急に嬉しい気持ちがわきあがり、自然と頬も緩んだ。なんだかんだ言いながらも、玲なりに私を喜ばせようとちゃんと考えてくれてたんだよね。
車から降りようとドアノブに手を掛けると、ぐっと体を引き寄せられて玲にもたれかかる形になった。
顎をぐいっと引き寄せられて、そのまま唇が重ねられる。腰に手を回され更に体が密着する。と同時に、キスも深くなっていった。
そのままゆっくりと座席にもたれ掛かった。玲は私に覆い被さるように体を捻り、座席が倒される。おもむろに服の上からまさぐるように手が触れていき、ゾワゾワした気持ちになった。とたんに耐えられなくて、私は顔を背けながら「やめて」と拒んだ。それなのに玲は聞こえないとばかりに触る手をやめない。
玲と体の繋がりはまだない。
キス止まりだ。
チャンスは何度かあったけど、私の心の準備ができなくてずっと拒否していた。
──初めては怖いから
──わかったよ
そうやり取りしたときの玲はとても優しかった。
私の気持ちは分かってもらえてると思っていた。だから今までもこれからも、ちゃんと私の気持ちを尊重してくれるものだと疑っていなかった。
なのに今?
ここで?
なぜ?
彼に対する不信感が身体中からわきあがってくる。
ビーーーーーー!!!!
全力で玲を押し返したら彼の肘がハンドルに当たって、クラクションが大きな音を立てて鳴り響いた。
暗闇にまばらにいたカップルらしき人たちが一斉にこちらを見ている気がして、私の緊張は大きくなる。
「はあ」
玲は冷たく呆れたようなため息をつくと、身を整えながら言う。
「お前さ、なんなの? そんなに嫌なわけ? 俺たち恋人だよな?」
「そうだけど、私初めてだから怖いし、ここでなんて嫌だよ」
「いつまで逃げるんだよ」
「……逃げてるわけじゃないし」
「はぁ、ちょっとは俺の気持ちも考えろよ」
「そんなっ、じゃあ私の気持ちはどうなるの?」
「お前っていつも自分ばかりだよな」
「はあ? 玲こそ自分勝手じゃん。星を見るために来たんじゃないの? 何しに来たの? スピードだって出しすぎで危なかったし、私の事全然考えてないじゃない!」
「うるせえ。もうお前マジうぜえ。消えろ」
「なにそれ、消えてやるわよ!」
お互い感情のまま好き勝手なことを言い放つと、険悪な沈黙が訪れた。玲は私をチラ見すると、これ見よがしにチッと舌打ちをする。その態度に更に腹が立ち、私は怒り心頭のまま黙って車を降りた。
感情のままドアをバンっと閉めると、振り向きもせず一人とぼとぼと歩き出した。
ああ、ムカムカする。
腸が煮えくり返りそうだ。
当てはないけれど、とにかく振り向かずに歩く。少しでも玲から離れたい。あんなやつ、こっちから願い下げだ。
だけど絶対、玲が追いかけてくると思った。
ごめん、言いすぎた、悪かったって。
それで私もごめんってして仲直りして……っていうお決まりのパターンだって思ってた。
なのに。
ブルルンとエンジン音が聞こえて、私は慌てて振り向く。ヘッドライトが点いたかと思えば、あっという間に玲の車は走り去っていった。