星降る夜に神様と、まさかの女子会をしました_21
「些細なことですれ違っていたんですね。分かり合えてよかったです。すごく素敵でした。私も、火の神様と咲耶姫様みたいな素敵な恋がしたいです」
まあ、濃厚なキスは置いといて、お互いに想いやるという当たり前のようで難しいこと。今の私にはまったくできていなかったこと。
人を愛するってそういうことなのかな。
ぼんやりとそう思う。
「まずは玲と別れないとなぁ」
昨夜大喧嘩した玲とのことを思い浮かべて、私は苦笑いをした。
「そうか。だが、何はともあれお前がきっかけをくれた。私は火の神でもあるが同時に縁切りをもたらす神でもある。お前の悪い縁を切ってやろう」
「悪い縁?」
ふわりと柔らかく下ろされ、私の足はようやく地に着いた。
「また咲耶姫のところに遊びにきてくれ。あんなに楽しそうにしている姫を見たのは久しぶりなのだ。あの笑顔を引き出したお前に嫉妬してしまうよ」
「はい、ぜひまたお願いします。女子会とても楽しかったです。ちゃんと咲耶姫様にお礼を言うのを忘れていました。伝えていただけますか?」
「わかった。咲耶姫からもこれを預かっている」
火の神様は袖に手を入れた。
そして差し出されたものは、キラキラと輝くぐいのみグラスだった。
「これは咲耶姫様の大事なもの」
火の神様に作ってもらったお気に入りのぐいのみグラスだと言っていた。そんな大事なものがなぜ差し出されているのか。
「受け取れません」
「いいのだ。咲耶姫には新しいものを作ってくれと頼まれておる。これは咲耶姫の気持ちだ。受け取ってくれ」
そっと両手で受け取ると、朝日に照らされたぐいのみグラスがキラキラと輝いた。日本酒を注いだときとはまた違った素敵な輝きだ。咲耶姫様との思い出がよみがえり胸が熱くなる。
「大事にしますね」
「俺からはこれをやろう」
火の神様の手には一輪の花が添えられている。
私の肩にかかる髪を優しく救い上げ耳にかけると、その花を耳の横の髪に挿した。
「よく似合っているぞ」
そう言って目を細めた火の神様はとても美しく魅惑的で、図らずもドキドキと胸が高鳴った。
火の神様は屈託のない笑顔をもたらすと、踵を返す。
突然ぶわっと風が吹き抜けて、私は思わず目を閉じた。ゆっくりと目を開けると、そこは自分の家の前だった。
まるで夢を見ていたようなそんなふわふわとした朧気な感覚に陥ったが、手の中には紛れもなく存在するぐいのみグラス。耳の横を触れれば花があった。
私は花をそっと外してみる。
花びらがフリルのように幾重にも重なったそれは、トルコキキョウだった。
花言葉は“感謝”や”希望”、“よい語らい”を意味する。
「もうっ、罪作りですよ、火の神様」
私は空を見上げて呟いた。
早朝の清々しい風が優しく吹き抜けていった。




