星降る夜に神様と、まさかの女子会をしました_02
「なあ、夜景見に行かねぇ?」
「今から?」
ファミレスを出て、玲の運転する車は家とは反対方向に進んでいる。玲の無計画な行動は、私に同意を取らないまま勝手に行き先を決めた。
「私明日も早番なのよ」
「そんなの余裕だろ?」
玲は休みなのか、はたまた授業が朝からないのか知らないけれど、時間なんて関係ないといった様子だ。私は明日は早番で、朝七時までに出勤しなくてはいけない。
渋る私と行く気満々の玲の間には、気持ちに温度差が開く。玲は今までも、私の仕事のことをこれっぽっちも理解しようとしなかった。
私は年中無休の花屋に勤めている。土日も関係なくシフト制で、早番遅番勤務も週交代だ。
まだ入社して一年、経験も浅いので仕入れなどはしていないが、それでも早番はある。開店前の業務は、仕入れた花が長く鮮度よく保てるように、水の管理や温度、それに湿度にも気をつけながら店内ディスプレイを行う等、それなりに忙しい。むしろ仕入れなど任されるようになったら、もっと朝が早くなる。
そういうことを玲に言っても、彼は「ふーん」と聞いているのかいないのか、はたまた興味がないだけなのか、次のときにはもう忘れている状態だ。それに私の仕事をバイト感覚で見ている傾向があり、その点も気に食わない。
そもそも普段デートで車なんて使わないのに、今日は親に借りた車でデートしたいだなんて言ってきた時点で、玲の中では夜景を見に行くことは決まっていたのかもしれない。それならそうと先に言ってくれれば、私だってちゃんと準備したのに。
夜景は魅力的ではあるけど、もっと計画性を持って行きたいし、明日は仕事で早出の私の事なんてお構い無しな行動は、やっぱりどうかと思う。
何を言っても決定権のない私は、玲に従うしかなく――。
街灯のある道路から一本外れると、とたんに暗くなる。それでもまだポツンポツンと街灯はあり、民家も立ち並んでいた。けれどそのうち民家もなくなり街灯もなくなり、そして次第に道が狭くなった。
山へ入ったのだ。
明かりのない真っ暗な山道を、ものすごいスピードで走る。カーブに差し掛かるとヘッドライトの光を受けた反射版がキラキラして、ようやくそこがカーブだと認識した。
「ねえ、スピード落として。危ないよ」
「大丈夫だって! 俺のドラテク見せてやるよ」
得意気に言うが、ドラテクとか正直どうでもいい。道幅は狭いし、対向車がトラックだとセンターラインをはみ出すくらいなのだから、すれ違う度にその距離感の近さにヒヤッとする。
「ねえ、カーブとか対向車とか、ちゃんと見えてる?」
「はあ? お前俺を信用してねぇの?」
「信用とかじゃなくて、事故したらどうするのよ?」
「バーカ、ビビってんじゃねえよ」
心配する私をよそに、玲はドヤ顔で運転を続ける。
「ひゃっ!」
「ヒャッホー!」
目の前にガードレールが迫り、思わず悲鳴が漏れた。メーターをチラ見すると100キロを超えている。100キロで急カーブを曲がるとか、一気に寿命が縮む思いだ。
ドン引きする私。
楽しそうな玲。
私たちの温度差は天と地ほどになった。
とにかくもう、生命の危機さえ感じた。
玲への不信感と怒りは募るばかりで、早く車を降りたい、家に帰りたいとばかり考える。そうこうしているうちに少し開けた場所に出て、ようやく車が止まった。
私は深いため息をつきながら、まわりを見渡す。
他にも何台か車が止まっていて、人もまばらにいるようだ。
そこは、小さな展望台のようだった。