星降る夜に神様と、まさかの女子会をしました_14
咲耶姫様が語りモードになったので私は自然と姿勢を正す。他人の恋愛話は何だかドキドキわくわくしてしまう。特に神様ともなるとどんな恋愛なのだろうと興味津々だ。
私の頭の中では先ほどの厳つい神様と咲耶姫様が交互に現れる。”結婚を約束した恋人”というワードが強すぎて、若干緊張してきた。
咲耶姫様はまたふーっとひとつ息をしてから、顔の痣をそっと触った。顔全体に大きく広がる赤い痣は、もう痛くないのだろうか、今後消えることはないのだろうか。
「ある日この山で火事が起こった。それはひどい火事だった。あっという間に山全体に火が回ってしまった。私は彼らを助けようと奔走したが、たくさんの木々や動物たちが犠牲になってしまった。そのときに、私は顔に火傷をおったのだ。それがこの痣だ。あとから駆けつけてきた火の神は、私を見ると驚いた顔をした。そして不甲斐ないと言い顔を背け逃げていったのだ。さぞかし醜かったのだろう。私の皮膚は焼けただれていたのだからな」
「ひどい。そんなことが……。痛かったでしょうに、つらかったですね」
「火傷は痛くはない。人間とは痛みの感覚が違うのでな。それよりも山を守れなかった事のほうがつらかった。私は山の神なのだからもっとしっかりと守らねばならなかった」
「でも火事はどうすることもできないじゃないですか?」
「そうだな。だが私は山の神だ。もっとできることがあったはずなのだ。だから火の神も私を不甲斐ないと言ったのだろう」
「そんな、あんまりです」
山の神だから山を守らなければいけない。それはそうなのかもしれないけど、大火傷を負った咲耶姫様に不甲斐ないだなんて追い打ちをかけるような言葉、一体火の神様は何を考えているのか。
本当に、火の神様といい玲といい、男ってやつは何でこうもデリカシーがないのか。神様と一緒にしてはいけないのかもしれないけれど、何だか考えるとムカムカしてくる。
私が一人憤っていると、咲耶姫様は切なそうに目を伏せた。
「それにな、私はこの顔を火の神に見せたくないのだ。見舞いだなんだと言ってやってくるが、私を見ると憐れむような顔をする。醜いのだろう。だからもう、私たちは恋人ではないのだよ」
儚げに微笑んだ咲耶姫様は、痣なんて関係なくとても綺麗だった。
好きな人にひどい言葉を投げかけられて、傷付いてもそれでもまだ好きで、しかも痣を見せたくないと言う彼女はとてつもなくピュアで素敵な恋をしている。恋人ではないなんて言いながらも、かつての恋人に戻りたいのなはないだろうか。そこには確実に“愛”が存在しているように思う。
私の玲に対する想いとは全然違うこと思い知らされるようだった。私はもう玲のことを好きなのかわからない。むしろ、好きだったのかも今では不明なくらいだ。
「お見舞いって、さっきみたいにお花を持って来てくれるんですか?」
「そうだ」
「それって、火の神様は咲耶姫様のことがまだ好きってことじゃないですか?」
「そんなことはない。あいつは私を見て逃げたのだ。この痣を憐れみに来ているだけだろう。それに飽きもせず毎回同じ花だ。バカの一つ覚えなのだ」
「毎回同じ花?」
私はこたつの上に置かれたキキョウを見る。
清々しい青紫色に咲き誇る花は、咲耶姫様によく似合っているように思う。
「咲耶姫様は火の神様が好きなんですよね」
「な、なぜそうなる」
「だってお見舞いに来た火の神様を見て嬉しそうでしたし」
「ぐっ……」
私がニヤニヤしながら煽ると、咲耶姫様は真っ赤な顔をして言葉に詰まった。
「まあ飲んでくださいな」
私は咲耶姫様のぐい飲みに日本酒を注ぐ。
波打つ日本酒は火の神様が作ったぐい飲みグラスにとても合い、咲耶姫様はそれを愛しそうに見つめた。
いつの間にか一升瓶は空になっていた。




