星降る夜に神様と、まさかの女子会をしました_12
「あの、生まれつきなんですか?」
「え?」
「痣です。あ、すみません、言いたくないですよね、気にされてるのに」
「いや、これは……」
咲耶姫様が何かを言おうとした時、急にガタガタと襖が震え出し、突然のことにビクッと肩が震えた。二人して揺れる襖の方を見やる。
「地震?」
「いや、違うな」
ビクビクする私とは反対に、咲耶姫様の声は冷静だ。恐怖に思わず咲耶姫様の袖を掴んだ。
何だろう、今度こそ幽霊とか?
やっぱりここは別の世界とか?
私が考えるより早く、突然パーンと勢いよく襖が開き、大きな声が響く。
「元気にしておるか! 見舞いだ!」
そこには厳つい男が立っていた。咲耶姫様と似たような装束を纏って右手に何かを持っている。それに何だかとんでもなく熱いオーラを漂わせながら仁王立ちだ。
もしかしてこの方も神様なのだろうか。
「誰だ? 俺の咲耶姫と何をしている?」
「ひっっ!」
ギロリと睨むその目力の強さに私は小さく悲鳴を上げ、尚更身を小さくした。
怖い。怖すぎる。
咲耶姫様は私を後ろ手に庇うように立ち上がり、厳つい男の前に立ちはだかる。
オーラだけなら咲耶姫様も負けていない。
「帰ってくれ。今日は客人が来ているんだ」
「なんだと! 俺より客を取るのか!」
「そうだ! 女子会をしているのだ」
「じょしかい? なんだそれは?」
「大事なことなのだ、邪魔するな」
ピシャッ。
食いつかんばかりの男に咲耶姫様は冷たく言い放つと、彼を押し出しそのまま襖を閉めた。
急に静かになる部屋。
空気がゆっくりと元に戻っていく。
汗がたらりと落ちた。
襖をきっちりと閉めた咲耶姫様はこちらを向き直ると、眉を下げた。少し困ったような顔で私を見つめる。静かな落ち着きを取り戻した室内に、私はほうっと胸を撫で下ろした。
「すまなかったな」
「いえ、何かすごく熱かったです」
額の汗を拭う私に対して、咲耶姫様は涼しい顔をしている。私だけが汗をかいていて、もしかしたら自分で思うよりもはるかに緊張したのかもしれない。すごく怖かったし。
と思ったのも束の間。
「あいつは火の神だから、興奮すると燃えるのだ」
「えっ! 神様?! 燃える?!」
「おかげでお前の服が乾いたな」
咲耶姫様は可笑しそうに笑う。
部屋の隅に掛けてある私の雨で濡れた服を見れば、すっかりと乾いたようだった。
ありがたいけど私は全然笑えない。
そりゃ汗も出るわけだ。
燃やされなくてよかった。
火の神様恐るべし……。
「えっと、火の神様? あの方は何をしにいらしたのでしょう? 見舞いがどうとか……?」
私が疑問を投げ掛けると、咲耶姫様の顔が曇る。
「どうもこうも、私の顔の痣を嘲笑いに来ているだけだ」
ふんとそっぽを向きながら、咲耶姫様は冷たく言い放つ。
「ええ? でもお見舞いって言ってましたよね? それにお花、置いていかれましたよ」
私は襖の前に無造作に置かれている花を手に取った。そこに置いたのか落としたのかよくわからないけれど、確実に火の神様が持ってきたものだ。
それは花束ではなくただの切り花で、もしかしてどこかで摘んできたのだろうかと思わせる。切り口が雑だが、紫色の花が見事に咲いていた。
これはキキョウ……?
「あ、それに、火の神様って、もしかしてこのぐいのみ作った方ですか?」
私は先ほどまでの咲耶姫様との会話を思い出してみる。確か、「火の神に作ってもらったお気に入りなのだ」と言っていた。
んんん?
お気に入り?
もしかしてもしかする?
私の(あまり当てにならない)第六感がピーンと反応する。