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星降る夜に神様と、まさかの女子会をしました_11

玲とは付き合ってそろそろ一年くらいになる。楽しかったこともあったはずなのに、山に置き去りにされた記憶が衝撃的すぎて今では何も思い出せない。


「玲とは最近すれ違いばかりなんです。私が働き出したせいもあるのかもしれないけど、生活が合わないというかずれるというか……。今日も久しぶりのデートだったんですけど、無計画に山に連れて来られるし、急カーブを100キロで曲がるし、本当にもう、自分勝手なやつなんです!」


「その玲とやらは、何をしに山へ来たのだ?」


「星空が綺麗に見える穴場スポットだから来たとか言ってましたけど、星空なんか全く見もしないで……車の中で、その、迫ってくるとかありえません!」


あの時のことを思い出すと背筋がぞわっとする。迫られたかと思えばお前はいつも自分勝手だなどと罵られ、消えろと蔑まれた。

ああ、思い出すと本当にムカムカする。


「それは彼氏と呼べるのか?」


咲耶姫様は不思議そうな顔をした。

確かに、そんな酷いやつが彼氏とか、全然人に自慢できないし残念すぎる。


「どうでしょう? もう別れたも同然ですよね」


「というより別れた方がいいんじゃないか?」


意外とストレートにものを言う咲耶姫様に、私は苦笑いをした。咲耶姫様から見ても玲は酷いやつなんだと思うと、味方ができたみたいで少しほっとする。


「ですよね、サイテーだあんな男」


言って、私は日本酒をぐいっと飲み干した。

玲との思い出やこれまで交わした会話をいろいろと思い出す。


本当に、楽しかったこともときめいたこともあったはずなのに、あの記憶は一体どこへいってしまったのだろうか。私の中の楽しかったメモリは全消去されてしまったのだろうか?


私はぐい飲みを眺めながら呟く。


「でも、私も悪いんです。彼から求められてるのにずっと拒否してたから。なんか、ダメだったんですよ。意気地無しで」


誰かに相談したくてもできなかった赤裸々な想いを、なぜか咲耶姫様の前ではすんなりと告白できた。そんな私の話を、咲耶姫様は黙って聞いてくれる。


心の内を話していくうちに、段々と自分の気持ちも整理されていくようだった。


よくよく考えてみれば、確かに私にも自分勝手な面があったかもしれない。自分の気持ちばかり主張していた……かも? 健全な若い男が彼女とイチャイチャしたいのは、当たり前のことだもんね。うん、たぶん。だからそれに一年近くも応えてあげられなかった私も、もしかしたら知らず知らずの内に玲を傷付けてしまっていたかもしれない。


ひとり反省する私に、咲耶姫様は呆れたように言い放った。


「それはそなたがその彼氏を好きではない証拠だろう? 情か何かで付き合っていただけじゃないか? 好きな男に求められたら嬉しいに決まっておるではないか」


「えーー? あー、うーん?」


言われてみればそう、なのかな?

私は頭を悩ます。


玲と何年かぶりに再会して盛り上がって、そのノリで勢いで付き合って。彼氏ができて嬉しくて舞い上がっていたけど、それはもしかしたら彼氏がいるというステータスに喜んでいただけなのかもしれない。


玲に求められて“嬉しい”なんて気持ちになっていただろうか。今となっては逃げることばかり考えていたようにも思う。


はっとさせられる気持ちに、私は黙った。


そんな私とは対照的に、優雅で余裕のある咲耶姫様は、美しくぐい飲みを傾ける。何千年と生きていれば、私なんかとは比べ物にならないくらい経験豊富なのだろう。


鋭く物言いをする咲耶姫様の恋愛事情も気になり、私はドキドキしながら恐れ多くも尋ねた。


「あの、咲耶姫様はご結婚されてるんですか?」


「いや」


「彼氏は?」


「……いない」


ふと目を伏せる咲耶姫様はとても悲しく儚げに見えた。


「そうなんですか? こんなに綺麗で優しい人、私なら放っておかないのにな。もったいないです」


私が口を尖らせると、咲耶姫様はこれでもかと目を見開いて驚いた顔をした。

あれ? 何か変なこと言っちゃったかな?


「綺麗だと?」


「え? はい。お綺麗ですよ」


私の言葉と同時に、咲耶姫様はこたつの机をバァンと叩いた。思わずビクッと肩を震わせる。

やばい、何か怒らせたかも。


「あ、あの……」


取り繕おうとする私に、咲耶姫様は前のめりになり叫ぶように言う。


「こんな痣があるのに綺麗なことあるか。お前も私を見て驚いた顔をしていたではないか」


キッと睨まれ、思わずビクッと体が震えた。

私は慌てて首と手を横に振る。


「ち、違いますよ。あれは幽霊かと思って驚いただけで、痣なんて関係なくめちゃくちゃ綺麗じゃないですか。それに、その痣、桜みたいで綺麗ですよね」


「桜?」


私はカバンからポーチを取り出し中から手鏡を探し出すと、咲耶姫様の横に行って顔を映し出す。


「ほらここ、桜の花びらみたいでしょ」


私の指差す先は赤い痣が二枝に分かれ、まるで桜の花びらのような形になっている。そこからまたひらひらと舞うように幾重にも広がっていて私にはとても綺麗に見えた。


咲耶姫様は私の指差す所を鏡越しに黙って見つめた。

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