駆け込み寺の月読様_08
「須世理姫よ、せっかくだから朝食だけでもとっていくがいい。出雲までは遠いであろう。八咫烏を呼んでやるからその手紙は先に送るといい」
「まあ。月読様ってお優しいのですね。大国主様といい勝負ですわ」
「それは光栄だな」
「でもわたくし、なびきませんことよ。大国主様を愛しておりますもの」
須世理姫様は両手を胸の前で組んで遠くを見つめる。まるで大国主様のことを健気に想うかのような姿。大好きなんだろうなって、見ていてわかる。でも月読様だって喜与さん一筋なんだから、なびくわけない。そうですよね、月読様! と期待の眼差しで見ると……。
「……もう言わぬよ」
「ええー。聞きたかったのに」
「透に言ってもらえばいいだろうに」
「何の話?」
「なんでもない、なんでもない!」
「お前たち、早くボクのご飯を作ってくれ……!」
モフ太が死にそうな声を上げるので、私と透さんは急いでキッチンへ向かった。暖房の効いていた部屋から出ると、ひんやりとした空気がまとわりつく。ぶるりと体が震えた。
「もうすっかり冬だね」
「夜、寒かっただろ? 月読様のところに行ってたって」
「ああ、うん。一緒に星を眺めてたの。あと、相談事してて」
「相談事?」
「透さん、子供の頃月読様に話聞いてもらってたって言ってたでしょ。駆け込み寺みたいだったって。私にとってもそうだなーって思ったんだ。話聞いてもらうだけで安心できるというか」
「月読様は優しいからね」
「そうなんだよね~。透さんみたい」
ふふっと笑うと、急に真剣な顔をした透さんに手を握られる。あれ、私何か気に障るようなこと言ったかなと思ったのだけど。
「これからは僕が葵の駆け込み寺になりたい。頼りないかもしれないけど、僕が葵の一番になりたいと思う」
そんな風に言われたら、心臓がドキドキして破裂しそうになってしまって――