星降る夜に神様と、まさかの女子会をしました_10
「人と話すのが何千年ぶりって……」
「あまり私を見える者が少なくてな」
「はぁ……」
いまいちよくわからないが、やはり咲耶姫様は見えてはいけない存在なのかもしれない。
「そういうわけで、私はお前と色々話がしたいのだ」
「えーっと、何千年ぶりかの人間とのお話が、私でいいのでしょうか」
戸惑いながら聞けば、咲耶姫様は楽しげに大きく頷く。若干ワクワクしているようにも感じるけれど、気のせいだろうか?
「えっと、じゃあ今日はさながら女子会って感じですかね?」
調子に乗った私が宣言すると、咲耶姫様は不思議そうな顔をする。
「じょしかい?」
「そうです。女子会とは、女子だけで話したり食べたり、わいわい盛り上がる楽しい会なのですよ」
「何を話すのだ?」
「何でも。たわいもない話から恋愛話まで。何でもいいんですよ」
神様にこんなこと言っていいものかと後から後悔の念がわきあがったが、気さくな咲耶姫様にほだされて、私はずいぶんリラックスしていた。
そして咲耶姫様は顎に手を当ててしばらく考えた後、とんでもないことを言い出した。
「ふむ、では私はそなたの恋愛話が聞きたい」
「えっ、ちょっ、マジですか?」
「こんな真っ暗な山へ置き去りにするという彼氏はどんなやつなのだ?」
「あーー……」
そういえばそうだった。思い出すとムカムカする。
そうだよ、私は玲に置き去りにされてこんなことになっているんだった。
玲め、よくも私を置き去りにしたわね。不満や愚痴がどんどんわきあがってくる。恋愛話が聞きたいと言われても、今の私にはドキドキする話なんかまったくなく愚痴しか出てこないのに、そんな話でいいものかと一瞬躊躇ったけれど、興味津々な咲耶姫様の瞳が早く話せとばかりに視線を送ってくる。
「愚痴になっちゃいますよ?」
「よいぞ。さあ、聞こうか」
そのプレッシャーは半端なく、咲耶姫様の視線が痛い。
「飲むか?」
どこから持ってきたのか、日本酒の一升瓶とおしゃれなぐいのみグラスが差し出された。
ぐいのみグラスは濃い青色がまだらに散りばめられ、まるで夜空のようなデザインだ。
「まさかこれも……」
「日本酒は供え物だが、ぐいのみは私物だ」
咲耶姫様は悪戯っぽく笑う。
やっぱり日本酒はお供え物だったことに、私は苦笑いだ。
「このぐいのみ、とても綺麗ですね。まるで夜空みたい」
ぐいのみグラスを手に取っていろんな角度から見てみる。びーどろのようなキラキラと星が散りばめられているようなデザインで、展望台から見た星空を思い起こさせた。
「そうだろう。火の神に作ってもらったお気に入りなのだ」
「火の神様?」
「まあ、飲むがよい」
咲耶姫様はぐいのみに日本酒を注ぐと、ぐいっと一気にあおった。私も咲耶姫様に倣ってお供え物の日本酒をありがたくいただく。豊潤な香りが鼻から抜けて、後味がとてもすっきりしていて飲みやすい。このお酒をお供えした人に感謝だ。
お酒に詳しくはないけれど飲むことは好きだ。ちびちびとぐいのみを傾けながら、私は玲への怒りや不満を思い出していた。