異世界転生フラグ①木から落ちて前世を思い出す。
「・・・さま・・・!」
「・・・シー・・・!」
「お嬢様!」
「チェルシー!!」
ハッ!と目を覚ました私は、
自分の前世を思い出した。
ーー平穏に生きたい令嬢は なんとしても異世界転生のフラグを回避したいーーー
私の前世の名前は小林真子。40歳。
友達も少なく、社畜で、いい年して独身で、
両親ともあまりうまくいっていなかった私は、
正直前世に良い思い出などない。
このまま一人で死んでいくのは嫌だなと思いながら、
少しの希望を持って始めたマッチングアプリ。
そこで出会った男性に、金銭的に騙されたと絶望したあの日、
もう生きていく意味などないとフラフラと歩いていたら、
猫が道路に飛び出しそうになり、
咄嗟にかばった拍子に交通事故にあったのである。
そして現世の今の私は。
チェルシー・アルバーン。8才。
幼くして両親を亡くし、
平民孤児となった私は、
6才の頃に、現在の両親であるアルバーン男爵夫妻に引き取られた。
元々身体が弱かった母は、子どもをなすことが出来ず、
孤児であった私を引き取ることに決めたそうだ。
両親は揃って温厚、朗らかな人柄で、
領民からの信頼も厚く、
私を実の娘のように可愛がり、愛してくれた。
伸び伸びと育った私はとってもやんちゃに育ち、
木登りなんかしちゃったりして。
結果、見事に木から落ちたのである。
そして、その拍子に。
冴えない前世を思い出した。
*******
「チェルシー!!目を覚ましたのかい?」
「・・・お父様・・・」
「無事で良かった・・・やんちゃするのは良いけど、
危ないことをしてはいけないよ?」
「お父様、ごめんなさい」
「チェルシー、本当に無事で良かった」
「お母様、心配かけてごめんなさい・・・」
ベッドで寝ていた私を、ぎゅっと抱きしめてくれる両親に、
現世は良い両親に恵まれんだと、泣きそうになってしまった。
(え、というか私、異世界に転生したってこと!????)
実は冴えない前世の私の密かな楽しみといえば、
乙女ゲーや異世界転生物語だったのだ!
学生の頃から暇さえあれば乙女ゲー攻略に勤しみ、
異世界転生ものの小説やコミカライズを読み漁っていた。
(木登りで落ちた拍子に前世を思い出すって・・・
異世界転生もののお決まりのパターンじゃない!!)
ーーチェルシーの脳内は完全に異世界転生物語に染まっていたーーー
(どれ!?どの作品!!????
私は一体、誰に転生したの!?????)
!???
まって・・・男爵令嬢・・・?
男爵令嬢といえば、王子を悪役令嬢から横取りしたり、
悪役令嬢の取り巻きの立ち位置じゃない!!!!??)
ーー異世界転生物語に染まってしまったための偏見であるーーー
("チェルシー"という可愛らしい名前・・・
悪役令嬢では聞いたことのない名前だわ、
ハッ!きっと、王子横取りパターンの男爵令嬢なんだわ!!!?)
ーー異世界転生物語に染まってしまったための偏見である②ーーー
急に顔色を変え、顔を歪め始めたことに気づいた両親は、
「もう少し休みなさい、医者にも安静にと言われている」
と優しく声をかけ、部屋を出ていった。
(異世界転生のお決まりといえば、
これから苦悩や波乱が待ち受けるに違いない・・・!)
前世で冴えない人生を送っていた私は、
平凡だけど、平穏な、そして幸せな人生を送りたい一心である。
「チェルシーお嬢様?大丈夫ですか・・・?」
先ほどから百面相をしていた私に、
我が家の数少ない侍女のマリーが、
心配そうに声をかけてきた。
「平気よ、心配くれてありがとう。このまま少し休むわ」
"チェルシー・アルバーン"
異世界転生ものを読み漁っていた私でも、
今のところ、この名前に覚えはない。
(物語に関係のない脇役ってことも・・・
そうだわ!この国の名前や王子の名前を調べればピンとくるはず・・・!)
まずは、現状を把握することから始めないと。
異世界転生フラグを全力回避して、
私は平穏に生きるのよ!!




