「変化」
さぁぁっと爽やかな風が吹く中、ケイトとサイスは流れる汗を拭いながら、大きな木の影の切り株に座り込んで一息ついていた。太陽はてっぺんを回り、照りつけていた日差しは段々と心地よくなってきていた。
「休憩?おかしくね?いつぶりだ?」
「覚えてない〜…」
ケイト達はもはや休憩がおかしく感じてしまうほどに鍛錬を重ねていた。…というよりばちこり叩き直されていた。
「しかし、お前はすげぇよ。
いつもあんなのについてけるんだからなぁ…」
「ふひひ…それはサイスも同じだよぉ〜。」
ケイトは笑みを浮かべた。そして、拭っても拭っても流れる汗を拭うことを諦め、あの日のように葉っぱを食べ始めた。もはや趣味である。
「…それでもお前、
今まで家族でいちばん弱かっ━━━」
幸せそうに葉っぱを頬張るケイトに、サイスはそう言いかけたが、やめた。幸いケイトには聞こえていないようだった。
「なぁ、ケイト…」
「ん〜?」
ケイトは手を止め、口いっぱいの葉っぱを飲み切った。丁度その時、サイスが重そうに口を開けた。
「お前、なんで魔王になろうと思った?」
突然の真面目な話題に、ケイトは少し戸惑い、チラッとサイスの方を見た。サイスは俯き、辛そうな表情を浮かべていた。ケイトはそれを見つめながらサイスの傍に近づいた。
「う〜ん……
楽しそうだったから…かなぁ〜?」
「は?」
ケイトの言葉に拍子抜けしたサイスは俯いていた顔を上げ、傍のケイトに目をやった。
「なんだそれ。よくやってんなぁマジで。」
「大切なのはキッカケじゃないよ。」
そう言うとケイトはサイスの前で立ち上がり、少し赤くなり始めた空の日の照らす向こう側へ歩き始めた。
「今は本気で魔王になりたいって思ってるし、
私達なら出来るって思ってる。」
サイスは逆光の中、ケイトの小さな背中を見ていた。ボサボサで長い黄色い髪に隠された頼りないその背中はサイスには大きく、頼もしく見えた。しかし何故か同時に苦しくなった。
「お兄ちゃんのおかげで結構強くなれたし!」
「…くフッ……」
後ろで漏れた息に、ケイトが振り返ると、そこには片手で顔を覆い、泣き笑っているサイスが居た。不器用なそれは、涙を隠すための笑顔にも見えた。
「アハハハハ!
あんなに弱っちくて、ボコボコにされてたくせに、
トレイのおかげとか、バカなのかお人好しなのか…」
「ばかだよ、私は。」
ケイトは困ったような笑顔でそう言った。
「…あぁ、俺も同じになった。」
サイスは立ち上がり、同じようにケイトに笑って見せた。今日の終わりを告げるに相応しい、燃えるような美しい夕焼けの中木陰に吹いた風は、二人の髪を揺らし吹き去っていった。