098 シャルルと美香のレベル上げ⑥
シャルルはマップを使って近くの魔物の反応を見る。
「500m先に魔物の反応を確認したわ」
「そこに行こうよ」
優斗は全ての行動を二人に任せてある。もう優斗が何も言う事はない。後はレベルを上げてどの様な脅威も二人が吹きとばすくらいに強く成ることを願うだけだ。しばらく魔物の反応のする方向に歩いているとシャルルが千里眼で魔物を確認できたようだ。
「ハイオークね。レベルは52あるわ。でも力は強いけど素早く動くことは出来ないみたいね。ウィンドウルフより鈍そうよ」
「それなら遠距離射撃を試してみる」
美香はそう言って弓を構える。そして千里眼でハイオークをとらえて矢を放つ。その矢は生い茂る木々の間をすり抜けて200m飛んでいきハイオークの頭に突き刺さった。ハイオークはその矢を受けて前のめりに倒れて動かなくなる。
「美香、私の獲物も残しておいてね」
「6匹いるから3匹は美香が貰うね」
そう言い美香はまた弓に矢をつがえる。そして息を止めて集中して矢を放つ。その矢もハイオークの頭に突き刺さった。もう一度矢を放ち3匹目も倒すことに成功する。
「次は私の番ね」
シャルルは美香の結果を見届けてからハイオークに向かって走り出した。50mほど近づくとハイオークもシャルルの存在に気づいて棍棒を担いで走ってくる。ハイオークはシャルルに近付くと棍棒を振り下ろした。
シャルルは直ぐに攻撃をしないでハイオークの攻撃をスレスレで躱す。3匹のハイオークの同時攻撃も受けることなく躱していく。スキル神剣術の技である回避を使って手ごたえを確かめているようだ。
ハイオークがどのような攻撃をしようともシャルルにはかすりもしない。シャルルは技である回避に自信を持ち納得したところでハイオークの首を一匹ずつ刎ねていく。シャルルは素早い動きで返り血も浴びていない。
戦いはシャルルの完勝だった。ハイオークはシャルルに成す統べなく負けてしまった。そんなシャルルの動きを見て美香が不満そうな顔をしている。
「シャルル姉だけずるい。なんか戦いを楽しんでいるみたい。美香は直ぐに戦いが終わったのに……。弓がつまらなく感じてきたよ。お兄ちゃん、美香にも剣を頂戴」
優斗は美香の言う事が分かるような気がした。戦いは遠距離攻撃より接近戦の方が緊迫感があって面白い。だから、優斗は魔法ではなく剣で戦ってダンジョンを踏破したのだ。それにラノベの主人公の大半が剣を使っているのでそれにも憧れていた。
優斗は美香のリクエストに応えて鉄の剣を創造して彼女に渡した。
「今は鉄の剣で良いだろう。もう少しダンジョンも奥に入ったらミスリルの剣に変えるからな」
「ありがとう、お兄ちゃん」
「優斗は美香に甘いわね。私にもミスリルの剣を頂戴ね」
もちろん、優斗は美香にミスリルの剣を上げるときはシャルルにも渡すつもりでいた。
「分かったよ。シャルルさん。もう少し強い魔物が出てきたときに新しい剣を作るよ」
「ありがとう、優斗」
「ハイオークも倒したことだし、そろそろお昼にしようか」
「うん」
優斗は城を出る前に執事のセルゲイから受け取ったランチボックスを亜空間倉庫から取り出した。そして創造でテーブルと椅子を作り出して3人は席に着く。優斗はランチボックスを開ける。
「今日は、キングミノタウルス100%のハンバーガーにフライドポテトと野菜サラダだね。飲み物のリクエストがあれば聞くよ」
「美香はウーロン茶がいい」
「私はミルクティーでお願い」
優斗は飲み物も創造で作れるが飲み物や食べ物は等価交換で得たもののほうが美味しいので創造で作らないことにしている。等価交換でウーロン茶とミルクティーを買ってシャルルと美香に手渡す。
「「ありがとう」」
「それじゃあ、食べようか」
「「「いただきます」」」
「美味い。キングミノタウルスのハンバーガーは初めてだけどやはり美味しいな」
優斗がハンバーガーを食べるとすごく肉汁があふれ出してくる。そして肉の濃厚なうまさが感じられてチェーン店のハンバーガーなんて食べられなくなるぐらいに美味しかった。ここでもミゲルは良い仕事をしていた。
「うん、チェーン店のハンバーガーと全然違うよ。家でも作ってみようかな」
美香も今まで食べてきたハンバーガーが偽物の様に感じるくらいキングミノタウルスのハンバーガーの虜になってしまった。もうこれはハンバーガーと同じものではないという気持ちだった。
「これは美味しいわね。手軽に食べられるし、外出の時にはいい食べ物ね」
三人はキングミノタウルスのハンバーガーを食べて満足した。
「午前中のレベル上げも上手くいったわね」
「そうだね。もう魔物なんて怖くわないよ。今度は剣で斬り殺してやるんだから」
美香は午前中に弓を選んでいて不満な顔をしていた。シャルルがスキル神剣術で技を使って見せたからだ。シャルルの動きがかっこよすぎて美香も午後は剣を使って魔物討伐をすることになった。
「美香が『弓がいい』って言っていたんだろ」
「あの時は弓を射るのに憧れていたんだよ。ほら、流鏑馬なんか見ていると弓を射たくなるでしょ。そう言う感じなのよ」
「俺も実は弓を使うのを楽しみにして使ったことがあるんだよ。だけど、今日の美香と同じでだんだんつまらなくなるんだよな。遠距離攻撃は必要だけど咄嗟の時は魔法で対応できるからな」
優斗は弓に男のロマン的なものを感じていた。男の子なら子供の時に一度くらいは竹を使って自分で弓を作って遊ぶようなことをする。優斗はアーチェリーなどにも興味を持っていた。だから異世界に来た時に弓を使うのを試みたのだ。
「そうよね。シャルル姉の剣捌きを見て、自分もこれだって思ったんだよ。だって剣を使ってハイオークの攻撃をぎりぎりで躱すシャルル姉はかっこよかったよ」
「ありがとう。そう言われると照れるわ。美香も同じスキルを持っているんだから私と同じことが出来るわよ」
「そうだと良いな。早く午後の魔物狩りに行きたくてウズウズしちゃうよ」
美香はそう言って目をギラギラさせている。本当に直ぐにでも魔物の狩りに行きたそうに見える。
「美香、そう慌てるなよ。食べたばかりだから少しは休もう」
「うん、お兄ちゃん。美香は子供じゃないんだからそれぐらいは我慢できるよ」
「あなたたちは仲が良いのね」
シャルルは兄弟がいなかったので優斗と美香の話す姿を見て羨ましかった。
優斗はシャルルのその言葉に考えさせられる。優斗と美香が話をするようになってまだ2週間くらいしか経っていない。邪神のいたずらのせいで美香とは長いこと険悪な関係だった。神様に会ってニーベルリングを貰って運の値が+5,000になって初めて美香の態度が変わっていた。
それを確認したから優斗は美香に闇魔法で記憶を改ざんしてお兄ちゃん大好きな妹と思い込ませたのだ。だからこうして美香と優斗は仲良く話が出来ている。優斗はシャルルの言葉を聞いて複雑な思いがしていた。
「そうだね。美香はお兄ちゃんが好きだから仲良しなんだよ。シャルル姉とも兄妹みたいに仲良くなれると良いなと思っているんだよ」
「ありがとう、美香。そう言ってくれると嬉しいわ。仲良くしようね」
「うん、シャルル姉」
食事の後は少し休憩してまた魔物を探してダンジョンの中を優斗たちは進んでいく。




