008 シャルルとの出会い。
10分ほど歩いてまた魔物の反応が近づいてくる。今回の魔物は動きが素早い。今までの経験からウィンドウルフだろうと優斗は見当をつけた。
案の定、木々を抜けてウィンドウルフが二頭優斗に向かって突進してくる。優斗は軽いステップでウィンドウルフの突撃を避ける。避けながら剣を抜き一匹の首を切り落とす。
「ガオー!!」
生き残った方のウィンドウルフは通り過ぎて振り向くと優斗を威嚇する。優斗は余裕をもってウィンドウルフに向き合う。ウィンドウルフは『ウィンドボール』を優斗に撃つ。優斗はもうこれぐらいの魔法に当たることはない。神剣術の剣技見切りと回避を使い最小限の動きで魔法を避ける。
それでもウィンドウルフは優斗に近づいたら剣で切られてしまうと本能で理解しているので、遠巻きから魔法を連続で撃ち出す。優斗はその魔法を全て躱しウィンドウルフまで近づいていく。
しかし、ウィンドウルフは優斗を警戒して優斗が近づくと後退していく。なかなか近づけない。仕方なく『ストーンバレット』をダダダダダダと機関銃のように撃ちまくりウィンドウルフを仕留めた。
ウィンドウルフの死体が地面に転がった。優斗はそれを亜空間倉庫に仕舞う。そしてまた西に向かって歩き始める。
森の外縁部まで着くのに更にウィンドウルフ12匹、オーク23匹、ゴブリン43匹狩ることができた。
(同じような範囲に同じような魔物がいるのにはなにか訳があるの?)
(はい。現地の人にも知られていないのですが、この森はフィールド型のダンジョンになっています。なので、森の中心であるダンジョンコアに近いほど強い魔物が配置されています。今いるのはダンジョンの中心から比べると森の端の方になるのでレベル10~30程度の魔物しかいません)
(そうなんだ。じゃあこの森のダンジョンでレベル上げを行うことにしよう)
(そのほうが良いと思います)
優斗はこの森でレベルを上げて地球に帰り赤城たちに復讐することを誓う。そして魔物を倒しながら村に向かう。しばらく魔物を狩りながら進むとマップ上に魔物の反応が六匹集まっているところに白い〇の反応があることに気が付いた。そして「キャー」という女性の声が聞こえてきた。
(今のは人の悲鳴だね)
(そうですね。早く向かった方が良いかもしれません)
(そうだね。マップの反応から人が魔物に襲われているのは間違いないだろうね)
たぶん女性が魔物に襲われているのだろう。優斗はその反応のある方向に駆け出す。木々の間を素早く動き優斗は数秒で女性が襲われている場所にたどり着いた。そこには六匹のゴブリンがいて20代中ごろの女性に襲い掛かっていた。
ゴブリンたちは女性を殴り殺すのではなく捕えようとしているようだった。おかげで女性は怪我を負っていないようだ。女性は地面に転がり、その上にゴブリンがのしかかっていた。ゴブリンは女性を餌ではなく繁殖用に使おうと思っているのだろう。
優斗はスキル隠密を発動してゴブリンたちに近づく。ゴブリンを鑑定したらレベルは7しかない。優斗よりレベルの低いゴブリンには隠密のスキルが効く。ゴブリンが優斗に気付いて女性を傷つけないように優斗はスキル隠密でこっそりと近づくことにした。
優斗が近づいてもゴブリンたちは全く彼に気が付かない。優斗は女性に近づき彼女の上にのっているゴブリンを殴り飛ばした。ゴブリンは頭が背中にくっつくくらい首の骨が折れ曲がり吹き飛んで地面に転がり動かなくなる。
その光景を見ていたゴブリンたちが騒ぎ出す。
「「グギャギャギャギャ」」
「「「グギャギャ」」」
優斗はゴブリンを殴り殺したことには精神耐性Lv.10のおかげで何も感じなかったが、直接手で触れたことが気持ち悪く感じたので直ぐに剣を腰から抜いた。ゴブリンが優斗に攻撃をする前に二匹のゴブリンの首が斬り飛ばされた。
その優斗の動きにゴブリンたちはついていけない。ゴブリンたちには優斗の動きが見えなかった。そうしているうちに残りのゴブリンの首が刎ね飛ばされる。
10秒もしないうちにゴブリンたちは死体となり地面に転がっていた。ゴブリンの死体を亜空間倉庫にしまい女性に目を向ける。
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名前:シャルル
種族:ヒューマン
性別: 女
年齢:25歳
レベル:3
HP: 45
MP: 20
攻撃: 10
体力: 12
防御: 7
知力: 24
敏捷: 10
運 : 48
スキル
採取Lv.3
料理Lv.4
裁縫Lv.3
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女性の服ははだけていて直視するのは躊躇われた。優斗は直ぐに女性から眼を逸らした。
シャルルは優斗が目を逸らせるのを見て不思議に思ったが、自分を見下ろしてその恰好が扇情的だったので顔を真っ赤にして服装を整えた。そして直ぐに立ち上がると恥ずかしい気持ちを押し殺して優斗に声をかけた。
「あのー」
「はい」
シャルルの声に優斗が振り向く。振り向いた優斗の姿を見たシャルルは驚いて目を丸くする。優斗の顔がとても美しく整っているからだ。まるで白馬に乗った王子に助けられた気分になってしまった。
優斗のスタイルは良く足も長い。しばらくシャルルは優斗に見惚れて言葉が出なかった。それでも、どう見ても10歳は年下の優斗のことを子供のように思ったため好きになるということは無かった。
「……た、助けてくれてありがとうございました」
「気にしないでください。近くを通りかかったときに、あなたの悲鳴が聞こえたので助けに来ただけですから。これから行こうと思っている村に向かう途中だったのです」
「そ、そうだったのですか。この近くにある村は私が住んでいるトカ村しかないです。その村に用があるのですか?」
「特に用事があるわけではないのです。転移魔法に巻き込まれて森の中に飛ばされたので近くの村を目指しているだけなんです」
シャルルはそれなら村に帰って恩返しができるかもしれないと喜んだ。
「それなら村まで私が案内いたしましょうか?」
シャルルの申し出は優斗にとってありがたいものだった。シャルルも助けたお礼を優斗にしたかったので丁度よかった。
「それは有難い申し出です。俺の名前は優斗と言います。あなたの名前を教えてください」
鑑定で女性の名前がシャルルということは知ってはいるが鑑定すること自体が失礼なことなのかもしれないと思い優斗は女性の名前を分からないというように装う。
「失礼しました。私の名前はシャルルと言います。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします。シャルルさんが案内してくれるのは嬉しいのですが。なにか用事があったのでは?」
シャルルは森に生えている薬草を摘むために来ていてゴブリンに襲われたのだった。
「薬草を摘みに来ていたのですが今から村に戻っても支障はありません。いますぐ村にご案内します」
「それはありがとうございます」
「では、行きましょう」
こうしてシャルルの案内で優斗はトカ村に行くことになった。