084 シャルルに真実を話す②そして旅立ち。
シャルルは異世界と言う言葉自体を知らない。自分が知らないので優斗に聞いて知識を得るしかなかった。そして異世界について優斗に尋ねる。
「異世界ってどういうところなの? リアースとは違う世界ってどういうことなのか分からないわ?」
優斗はどういう風に異世界である地球のことを説明していいか分からなかった。そして口で説明するよりも魔法で説明した方が早いと思いシャルルに提案する。
「口で説明するのは時間がかかりそうですので魔法で説明しても良いですか?」
「そうね。魔法で説明してくれるとありがたいわ。昨日みたいに直ぐにいろいろな知識が得られるのでしょ」
「はい、そう言う事です。では失礼します」
そういって優斗はシャルルの頭の上に手をおいて次元とか地球の知識をシャルルに与えて行く。
「これで、俺のいた地球のことが分かったと思いますよ」
「うん、分かったわ。こことはずいぶん違う文明の世界なのね。魔法が無いなんて信じられないわ。それに地上を走る車とかどういう原理なのか知りたくなってきたわよ。それに高い建物がいっぱいの世界なのね」
シャルルは優斗魔法で地球に関する知識を得ることでリアースと地球が違う世界だと言う事を理解できた。
「そうなんですよ。ちゃんとリアースと地球の違いが理解できているようですね」
「それで、バネット公爵の様な悪い噂のある領地を見たいと言ったんだね。優斗が異世界から来たと知った今なら理解できるわ。この世界に住む者が悪徳貴族の領地に行こうなんて考えは普通起こさないわよ」
「シャルルさんの言うとおりです。この世界のことを知りたいので隣の領地に行こうと思いました。嘘をついていた俺にシャルルさんはついて来てくれますか?」
シャルルは全く考える時間を取らなかった。優斗が何らかの秘密を持っていることはシャルルには分かっていた。転移の魔法は使えるし、Roomという特別な空間も持っている。それに見たこともないような料理を作ることが出来るし、何もないところからものを作り出すことが出来る。
そして、シャルルの姿を作り替えたし、いろいろなスキルを彼女に与えた。そんな優斗が普通のヒューマンであるはずがない。シャルルは優斗がどのような人間でも一緒に行動していこうと決めていた。
「そんなの決まっているじゃない。もう村長たちにも村を出て行くことを伝えているのよ。いまさら残りますとは言えないでしょ。それに優斗がどのような人でも私には関係ないわ。可愛い義弟だと思っているのは事実なんだからそれでいいでしょ。優斗も私のことを義姉だと思っているのでしょ?」
「はい、俺はシャルルさんを本当の家族以上に思っています。これからも義弟として改めて宜しくお願いします」
「こちらこそ宜しくお願いするわ。他に隠し事は無い?」
優斗はここでダンジョンを制覇したことと美香のことを話すことにした。
「これからする話は内緒でお願いします」
「前に魔法契約しているから内緒と言われると話せなくなるわね」
シャルルの姿を変えたときに優斗はシャルルと優斗が内緒にしたことを他人に伝えることが出来ないようにシャルルは契約魔法をかけられていた。
「はいそうですね。魔の森と呼ばれている森は実はただの森じゃないんですよ。あの森はフィールド型のダンジョンなんです」
「えっ!? あの森はダンジョンだったの?」
「そうなんです。だからあの森から魔物は外に出ることは無かったんですよ」
シャルルは今までのことを考える。確かに森には多くの魔物がいるしかし森の魔物は森から出てくるようなことは無かった。村を襲ってくる魔物は草原から来たものたちだった。その草原からやって来たオーガにシャルルの両親は殺されたのだった。
「優斗の話を聞いて納得したわ。でも、ダンジョンの魔物もスタンビートを起こしたりするって聞いたことがあるわ。あの森でそれが起きないのはなぜなの?」
優斗はその情報を知らなかった。シャルルに言われるまでダンジョンからは魔物は出られないものだと思っていた。そこで叡智に確認することにした。
(叡智、なぜあの森のダンジョンでスタンピードが起きないか知っているか?)
(はい知っています。スタンピードを起きるのはダンジョンコアがスタンピードを起こしているからです。ダンジョンコアの性格でスタンピードが起るか起こらないか決まってきます。ソラはスタンピードを起こさないダンジョンコアだったのでしょう。それでも時折、はぐれと呼ばれる魔物が生まれて森の周辺で暴れた記録はあるようですよ)
(わかった。ありがとう)
「シャルルさん、あの森のダンジョンコアはスタンピードを起こすことをしなかったらしいんです。ダンジョンコアの性格でスタンピードが起ったり起こらなかったりするみたいです。詳しいことは謎です」
「そうなのね。おとなしいダンジョンコアでこの村は助かったわ」
「それで、俺はその森のダンジョンを制覇してダンジョンマスターになったんですよ」
その言葉にシャルルは驚く。ダンジョンを制覇するような者は英雄的存在になる。優斗はその英雄と言えるべき偉業を成し遂げたと言うのだ。驚かないわけがない。
「そ、それは本当のことなの?」
「本当のことですよ。これからシャルルさんを連れて行くのはダンジョンの中心にある俺の住まいです」
「へー。そうなんだー」
シャルルはもう考えることをやめることにした。優斗は思った以上の規格外な存在だった。いまさら優斗がどういう存在でも構わないとシャルルは思った。
「それでですね。今、そこには俺の実の妹が異世界から来ているんです。シャルルさんと同じように妹も一緒にレベル上げを行う予定なんです」
「優斗には妹がいたのね?」
「はい、歳は俺の二歳下になります。今は誕生日が過ぎているので15歳です」
「優斗の妹ってことは私の義妹ってことで良いのかな?」
シャルルは一人っ子だったので妹や弟が欲しいと思ったことがある。義弟は優斗がなってくれた。優斗の妹がシャルルの義妹になってくれるのならこれ以上嬉しいことは無いと考えた。
「その考えで構いません。俺の妹の名前は美香っていいます。美香もシャルルさんに会うのを楽しみにしていますよ」
「それなら安心ね。早く会ってみたいわ。直ぐにでも村を出るわよ」
シャルルはそう言って立ち上がると家に出て行って家の中の物で必要な物を亜空間倉庫に仕舞っていく。そしてあっという間に旅に出る支度を済ませた。優斗もRoomから出てRoomを消す。
「準備が出来たわね。出発しましょう」
シャルルはそう言うと村長の家に向かった。そして家に着くとドアをノックした。家からはアンナさんが出てきた。
「シャルルじゃないか? もう行くのかい?」
「はい。村を出て行きます。お世話になりました」
「どういたしまして。ちょっとだけ待っていな。今、ダンテスを呼んでくるよ」
暫く待っているとダンテスがやって来た。
「シャルル、優斗、もう行くのか?」
「はい、もう出発します。短い間でしたけど、お世話になりました」
「村長、私は村長たちに良くしてもらったことを忘れません。有難うございました」
「シャルル、昨日も言ったが気にするな。必ず戻って来いよ」
ダンテスは寂しい心境だったが我慢して笑顔でシャルルを見る。
「はい、必ず戻ってきます。お土産を楽しみにしておいてください」
「私もお土産を持ってきます。行ってきますね」
「ああ、行ってらっしゃい」
「行ってらっしゃい。元気に過ごすんだよ。病気には気を付けてね」
「はい、気を付けます。では、行ってきます」
村長たちに別れの挨拶をして優斗たちは村を出て行った。シャルルは村の門を出て暫く村を眺めていた。そして踵を返して森に向かって歩き出す。優斗はそんなシャルルのことを見守る様に後に続いた。




