078 ダンテス達をもてなす②
優斗はダンテスとアンナを案内して来た。そしてシャルルが二人をもてなす。
「村長、アンナさん。いらっしゃいませ。どうぞ席に座って下さい」
家に入って来たダンテス達をシャルルが席に案内する。席に着くと料理の美味しそうな匂いが漂ってくる。その匂いを嗅ぐだけで二人は生唾を飲む。
「おいおい、良いにおいがするぞ。こんな料理見たこともないぞ。赤い料理なんて食べたこともない」
「私もこんなに色とりどりな料理は初めて見たよ。美味しそうな匂いがするから我慢できないわよ。食べていかい?」
ダンテス達は美味しそうな匂いに負けて早く料理が食べたくて仕方がないようだった。それは仕方がないことだと優斗は思った。この村に着て初めて食べた料理は塩味だけの料理だった。
それでもシャルルが料理Lv.3のスキルを持っていたので思ったより美味しく食べられただけだった。優斗たちが出した料理にはいろいろな調味料が使われている。美味しいにおいに我慢できなくなるのは当然だ。
「シャルルさん、村長たちを待たせるのは悪いと思いますよ。料理をいただきましょう」
「そうだね。村長、アンナさん。今まで私のことを面倒見てくれてありがとうございました。今日は腕によりをかけて料理をしました。どうぞ食べてみて下さい」
シャルルは二人にお礼を言い、自信をもって作った料理を二人に勧める。
「シャルルの両親には世話になったんだ。シャルルの面倒を見るのは当たり前のことだった。気にするな」
ダンテスはシャルルがよそよそしくするのが我慢できなかった。アンナも同じ気持ちだった。
「そうよ、シャルルが気にする必要は無いわ」
「有難うございます」
「さあ、みなさん頂きましょう。村長は酒も飲みますよね。さあどうぞ」
「それじゃあ、頂こうか」
「「「頂きます」」」
村長はビーフストロガロフをスプーンですくい口に運ぶ。そして味わったことのない味に驚く。今までにこんなに複雑な味をした食べ物はダンテスは食べたことが無かった。今までは塩味しか食べたことが無い。それに胡椒が付けばいい方だった。
「これはうまい。初めて食べる味だ。塩味だけじゃないな」
アンナもダンテスに続いてビーフストロガロフを食べる。そしてその美味しさに笑顔になる。美味しいものを食べると幸せな気持ちになるのはどの世界でも変わらないと優斗は思った。
「凄く美味しいわ。優斗の国ではこんなに美味しい料理が食べられるのね」
「本当にお前は貴族じゃないんだよな」
今のウクライーナ王国では貴族でもこんなに美味しい料理を食べられるものはいないだろう。ダンテスは自分の村の領主の男爵でさえこんな料理を食べたことが無いと思った。
「何度も言いましたが俺は貴族じゃないですよ。お金はそれなりに持っているからこのような料理が食べられるんです。でも俺の国では普通に誰でも食べている料理ですから気にしないで沢山食べて下さい」
ダンテスは複雑な味の料理に塩以外の調味料が使われていることに気付いた。村長だけはあって塩以外の調味料がどれ程貴重で高価なものかダンテスは知っている。アンナも村長の嫁だけあって調味料が高価なことは知っている。
それで、優斗のいでたちや喋り方に品があるので彼が貴族と考えるのは普通だった。普通の平民が丁寧な言葉遣いを日ごろから使わないのに優斗は何時も丁寧な言葉遣いをする。そのことも優斗が二人に貴族と思われている要因だ。
しかし、優斗は自分が貴族であることを否定する。なので、二人はこれ以上優斗のことを詮索するのをやめた。優斗には彼なりに何か事情があるのだろうと考えたからだ。
「ああ、遠慮なく頂くぜ」
「私も遠慮はしないわ。こんな美味しい料理に遠慮なんかできないもの?」
二人は美味しそうに料理を食べていく。優斗は寿司も勧める。今日の一番の押しが海の魚料理だ。お寿司は優斗が握ったものだ。優斗は味見をしたが日本で食べた特上の寿司より美味かった。
「この、料理も食べて見て下さい。手掴みで構いませんので、その黒いソースを少しだけつけて食べると美味しいですよ。この料理は寿司と言います。米という穀物に海の魚や貝をのせた料理です」
優斗は醤油の入った小皿指さして寿司を食べるように勧める。でも、二人は直ぐに寿司を食べることは無かった。
「この肉は生のようだけど食べられるのか?」
「新鮮な魚を使っているので生で食べられますよ。俺が食べて見せましょう」
二人がなかなか手を付けないので優斗は自分が寿司を手づかみで食べて見せた。その姿を見て優斗をまねてダンテスが寿司を食べる。
「美味しい。これも食べたことが無い料理だが甘酸っぱい味がたまらないな。生だが魚も美味い」
「本当に美味しいの?」
ダンテスの言葉にアンナは疑った顔をする。
「本当に美味しいぞ。食べてみろよ」
「分かったわ」
そう言いアンナは恐る恐る寿司を頬張る。
「美味しいわ。初めて食べる味だけどいけるわね」
「喜んでもらえて嬉しいです。私が作った酢豚も食べて見て下さい」
二人はシャルルが進める酢豚を食べる。そしてまた驚いた顔をする。
「甘酸っぱい。これは砂糖が使われているのか?」
「本当に甘いわね。間違いなく砂糖ね。前に一度だけ砂糖を使った料理を領主様の家で食べたことがあるわ」
「はい、砂糖も使われていますがその他にもいろいろな調味料が使われていますよ」
「やっぱりそうか。俺は今日、天国にも上った気持ちだ。こんな美味しい料理を食べられるとは思わなかったよ」
「私もそういう気持ちね。領主様の家で頂いた料理よりも美味しいわよ」
「俺もそう思った。ますます優斗が何者か気になるな。でも聞かないでおくよ」
「そう言ってくれるとありがたいです。他の料理も食べて下さい」
「美味しいと言われると、私も作った甲斐があります」
ダンテスとアンナは料理を食べて満足する。シャルルは二人の嬉しそうな顔見て喜ぶ。そしてダンテスとアンナは料理を食べながら日本酒と赤ワインも吞み始める。酒もダンテスが飲む地元の酒よりも美味しい。二人は料理だけでも満足だったが酒を呑むことも楽しんだ。
その上にテーブルの上には見たことが無い果物がカットして置かれている。料理を食べ終えたダンテスはその果物を食べてみる。
「美味い。この果物も美味しい。これも初めて食べる味だ」
「その果物は桃と言います。柔らかくて甘いのが特徴です。帰りにお土産にしようと思っています」
「本当か? ぜひ欲しい」
「お酒のお土産もありますよ」
「ありがとう、優斗。嬉しいよ」
ダンテスの喜びようにアンナも果物を口にする。そして感動する。このあたりで果物と言うと森で取れる木苺とアプルの実くらいだ。それ以外の果物をアンナたちは食べたことが無かった。
「本当に美味しいわ。ありがとう、優斗」
「気にしないでください。シャルルを連れて行くので彼女がお世話になった二人へのお礼ですから」
「そうですよ。村長、アンナさん。二人には本当に感謝しているんです。料理の材料は優斗が準備したものですが私は感謝を込めて料理を作りました。本当にありがとうございました」
シャルルは涙を流して二人にお礼を言う。
「シャルル、気にしなくても良い。私たちはシャルルのことを娘だと思ってきたんだ。お前の世話をするのは当然のことだったんだよ。お前の両親に救ってもらって俺は今生きている。その恩返しをしたまでだ。気にするな」
「そうよ、シャルル気にしないでちょうだい。私たちの子供が貴方にした仕打ちを考えると申し訳ないと思っているくらいなのよ。これから優斗さんと村を出て行って幸せになりなさい」
「はい、かならず幸せになります」
シャルルは優斗と共に村を出て幸せになると言う根拠があった。優斗に美少女に変えてもらった。そのことだけでも幸せになれる自信がシャルルにはあった。そして優斗から数多くのスキルを貰っている。
これで不幸になるとは到底考えられなかった。そして優斗と一緒に村を出て自分がどういう人生を歩むのか楽しみに思っていた。




