075 再び異世界へ
優斗は金曜日に料亭の購入を決めた日の夕食の後にニーベルリングから異世界へのドアを取り出し異世界に向かった。異世界へのドアはRoom内の優斗の部屋に繋がっていた。
異世界の現地時間を視界の端にある時計で確認する。日付はシャルルの家から日本に戻った日の夜中だった。今頃、シャルルは生まれ変わった日のお祝いで酔って寝ていることだろう。
優斗は日本で昼から家を探すために修二と朝から出かけて頑張っていたので直ぐにベッドに入り横になった。しかし、その日は欲しかった広い家を買うことが出来て嬉しくてよく寝られなかった。
次の日、優斗は何時もより遅い時間に目を覚ます。しかし、シャルルは起きていなかった。そして台所に向かい朝食の準備をしてシャルルを待つが彼女は起きてくる気配が無い。
前日に夜遅くまでお祝いだと言って飲んでいたのだ。シャルルは、まだ寝ているのだろうと優斗は思いった。それだけシャルルは生まれ変わって嬉しくて昨晩は夜中まで飲み続けていたのだ。
優斗は日本に行っていて時間が経っているが異世界に残っていたシャルルは昨日姿を変えたばかりの日だ。優斗とシャルルの間には時間のずれがある。
優斗は自分だけ朝食を取ってシャルルを起こすことなく彼女が自分から起きてくるのを待つことにした。シャルルは結局お昼前になってやっと起きて自分の部屋から出てきた。
「おはよう、シャルルさん、良く寝ていたようですね。もうお昼前ですよ」
「おはよう、ごめん優斗、昨日はかなり酔っていたようね。まだ眠いわ」
シャルルは本当にまだ眠そうにしている。目も赤い。まだ寝不足なようだ。
「朝食が冷めてしまっていますからレンジで温めなおします。その間に顔を洗ってきたらいいですよ」
シャルルは優斗に申し訳なさそうにする。でもシャルルが昨日はしゃいでいたのは仕方がない。長年、苦しめられていた自分の容姿が見たこともないような美少女に生まれ変わっていたのだから、嬉しくて当然だ。
これからは美少女として生きていけるととても喜んでいる。そんなシャルルの気持ちは優斗が一番よく分かっている。彼自身が醜い顔で長い間悩んでいたからだ。
「ありがとう。洗面所に行ってくる。優斗はお昼ご飯になるの? 朝ごはんは食べてないんだ」
「いいえ。ちゃんと朝ご飯は食べましたよ。朝の残りをお昼ご飯としてシャルルさんと一緒に食べます。一緒の食事をしましょう」
「分かったわ。早く支度を済ませてくるわ」
シャルルはそう言い洗面所に向かった。優斗はシャルルの朝ごはんをレンジで温めなおす。そして自分の分の食事も準備してテーブルの上に並べていく。そしてシャルルが顔を洗う。
そして、生まれ変わったような自分の顔を見てうっとりする。昨日のことが夢じゃないと確信した。そしてニコニコしてダイニングに向かう。
「ごめんね、朝起きられなくて。今日はどうする? 今から森に向かう?」
「今日は遅いから休みにしましょう。俺がここに来てから毎日働いていますよね。たまには休んでも良いと思います」
「私は仕事を休んだことは無いわよ。この村では毎日働くのが当たり前なんだよ」
優斗はシャルルの言葉に少しだけ驚いた。休むという感覚がシャルルに無かったからだ。この世界でも一週間という概念はある。でも平民には地球で言う宗教上の安息日という休みという概念が無かった。
貴族たちは火、水、土、風、氷、雷。聖の曜日の内、聖の日を休日としている。しかし、貴族でも実際にその日に休んでいるのは一握りの人たちだけだ。ましてや平民や農民が休みなんてとれるわけがない。
「そうなんですか? 俺のいた国では最低でも一週間に一度は休みの日がありましたよ」
「優斗の国はいろいろと凄いわね。食べ物も美味しいし、仕事が休みの日もあるなんて羨ましいわ」
「俺の国は過ごしやすい国ですからね。さあ、食事が冷める前に食べましょう」
「そうね。頂くわ」
シャルルは何時ものように優斗が作った美味しい食事を嬉しく思う。昨日も美味しい酒を呑ませてもらったことに感謝していた。この村でこんなに美味しい料理を食べているのはシャルルと優斗くらいなものだろうと彼女は思っている。
「いつものことだけど美味しいわね」
「褒めてくれてありがとうございます。シャルルさん、一緒にこの村を出る決心に変わりはありませんか?」
「勿論よ、村長には悪いと思っているけど、この村の人たちにはいい思い出は無いわ。隣近所の人たちと会えなくなるのは寂しいけどね」
「それでは、この村を明日出て行っても大丈夫ですか?」
シャルルは優斗に突然明日村を出て行くと言われて少し戸惑いを見せる。だが、優斗の意見に反対する理由が無かった。
「それで構わないわ。でも村長には挨拶をしたいから食事の後に行ってきてもいい?」
「構いません。村長の家に行ってダンテスさんとアンナさんを夕食に招待しましょう。そしてシャルルさんが今までお世話になったことにお礼を言いましょう」
「それが良いわ。優斗から教えて貰った料理で歓迎したいと思うわ」
シャルルは今まで貧乏だったが、何不自由なく過ごせてきたのは村長夫妻のおかげだと思っている。そして二人には感謝していた。その気持ちを二人にきちんと伝えておきたいと思っていた。
「では、俺もお手伝いします。二人で美味しい料理を作ってダンテスさんたちをもてなしましょう」
「それはいい考えね。私も美味しい料理を作るのに腕を振るうわ」
二人は食事の後しばらく時間をつぶして村長の家に向かうことにした。
「シャルルさん、Roomを出る前に変身で元の姿に戻って下さい。今の姿のままだと誰もシャルルさんだと気が付きませんよ」
元のシャルルの姿はお世辞にも美人とは言えない姿だった。しかし今は違う。優斗がスキル創造で姿が変わっている。生まれたときと同じ白銀の髪の毛に銀色の瞳は変わっていない。でも、今では細い目が二重の大きな目に変わり。顔はとても綺麗な作りになっている。
スタイルもスレンダーで胸も小さかった。今はボッキュッストンと胸が大きく腰は括れていてお尻は引き締まっている。誰が見てもこの国にでも上位に入るような美少女になっている。まあ、優斗の好みが大分反映された容姿になっていることは確かだが……。
「変身で姿が変えられるならそのスキルを私に与えるだけで良かったんじゃないの? そしたら優斗に裸を見られるような失態はしなかったのに……」
シャルルはそう言って優斗に抗議の目を向ける。それだけ優斗に裸を見られたことが恥ずかしかったのだ。優斗は日本に行っていたので大分前のことになるのですっかり忘れていた。しかしシャルルにとっては昨日のことなのだ。
「変身で綺麗になっても意味がないんですよ。変身だと元の姿が変わったことになりません。人の容姿は子供に遺伝します。元の容姿が子供に受け継がれることをシャルルさんはどう思いますか?」
優斗は決して元のシャルルの容姿を非難するつもりはない。自分も同じ立場だった。だから変身で姿を変えてもその容姿が自分の子供に受け継がれると思うことが良いとは思えなかった。だから優斗はスキル創造で遺伝子ごと今の容姿に生まれ変わったのだ。
もちろん、シャルルにも同じことをした。シャルルも遺伝子ごと生まれ変わる様にスキル創造で容姿を美しく変えている。
「確かに子供にあの容姿が引き継がれると考えると胸が痛くなるわね」
「そうですよね。だから変身で姿を変えるだけでは駄目だったんですよ。でも安心してください。シャルルさんには分からないと思いますが俺が作り替えたシャルルさんの姿が本当のあなたの姿だと考えて下さい。シャルルさんの子供もシャルルさんに似るようならカッコいい男の子や可愛い女の子が生まれるようにしてあります」
「そう言う理由があったんだね。優斗の言っていることは分からないけど私の子供も今の私に似ると良い顔で生まれてくるんだね。安心したよ」
「じゃあ、Roomを出る前に変身してください」
「分かった」
シャルルはお風呂に入るときに自分の前の姿は確認しているので覚えている。直ぐに変身して優斗が作り替える前のシャルルの姿に変わった。しかし、一点だけ違う部分がある。
「シャルルさん、元の姿に戻ってと俺は言いましたよね?」
「どうしたの? 違う部分があるの?」
「……まことに言いにくいのですが。む、胸が大きいままです」
「これくらい良いでしょ。誰にもばれないと思うけど……」
シャルルは男が女性のどこを見るのか分かっていない。優斗も男だ。女性の顔を見てその次に目が行くのは胸だ。胸には男のロマンが詰まっている。優斗はそう思っている。
「だめです。直ぐにばれます。なので、変身しなおして下さい」
「優斗のけちんぼ」
シャルルは渋々もとの胸の大きさになる様に変身しなおした。優斗は元のシャルルの姿を見てやっと異世界に帰って来たと実感した。そして二人でRoomを出て村長の家に向かった。




