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072 祈里の家族②

祖父の輝明が祈里に声をかける。話を本題に移したいようだった。今日は祈里は事件の報告に来ているのだ。そのことを輝明は確認する。


「そう祈里をせかすな。事件の報告から聞くのが筋だろう」


祈里の祖父の輝明はまともな人らしい。でも、この中で一番貫禄がある。歳は80を超えているが見た目は50代にしか見えない。輝明の妻の幸代も80代だが50代にしか見えない。他の家族も実際の歳よりも若く見える。


神様の子孫である退魔師たちは神の血を引いていない人たちよりも長生きだ。病気もかかりにくい体質である。そして体の老化の速度も普通の人より緩やかだ。なので普通の人と違い実際の年齢よりも若く見える。


祈里の曾祖母は113歳だが70代の老婆にしか見えない。退魔師の最高寿命は150歳を超えると言われている。しかし妖魔との戦いがあるので寿命まで全うする退魔師は少ない。祈里の曾祖母の桜子の113歳だが現役の退魔師だ。


「そうだな。お父様の言うとおりだ。祈里、事件の詳細について話しなさい」


光輝は急に態度が変わり現当主らしい話し方に変わった。


「それでは、私が調べたことをお話しします。現場に行って調べた結果。その場所で霊力が使われた残滓を見ることが出来ました。犯人を特定することまでは出来ませんでした。しかし、おそらく犯人は我々と同じ退魔師か特別な血を引く者だと思われます」


「妖気の残滓は確認できなかったのだな」


光輝が妖気が無かったか確認することは当然のことだった。呪いをかけることが出来るのは霊力を持った者か妖力を持った妖魔くらいだ。それに呪いをかけるような妖魔は高い知能を持っている上級以上の妖魔に限られる。上級以上の妖魔が相手なら厄介なことになる。


「はい、確認できませんでした」


「そういうことならば間違いなく退魔師か特別な血を引いた者の犯行だろう」


「しかし、お父様。私たち退魔師は誇り高い一族です。このような犯行を犯すでしょうか? 堂満の関与は考えられないですか?」


「それは無い。堂満が関与していたら被害者は死んでいるか実験の被験者として攫われて使われていただろう。被害者が骨折程度で済むはずがない。呪いに特化した退魔師か野良の特別な血を引く者で力を持った者の犯行で間違いない」


「儂もそう思う。退魔師協会に連絡して他の三家の当主に事件に関与した退魔師がいないか確認させたほうが良いな。呪いに特化した退魔師協会の者が解呪できないほどの呪いの使い手だ。すぐに特定できるだろう。野良なら保護して退魔師としての教育をほどこせばよい」


光輝の言うことに輝明も同じ意見のようだ。二人は特別な血を引く者の犯行だと決めつけている。退魔師の他の三家と言うのは如月(きさらぎ)家と高橋家と名倉(なくら)家のことだ。この三家と成神家の四家とその分家で関東を妖魔から守護している。明治時代までは芦谷家も入れて五家で関東の妖魔退治を管轄していた。


「しかし、誇りを持っている退魔師がそのような犯行を犯すでしょうか?」


「退魔師の犯行なら身内がヤンキーたちに何かされたのだろう。その報復だと考えると退魔師の犯行も考えられる。いくら誇りが高くても知り合いに危害を加えられると我慢が出来なくなるのは仕方がないことだ。ヤンキーたちは女性の警察の者に事情聴取されたときにいろいろ悪さをしたことを自分から話し始めたそうだ。ただ、事件のことについては何も覚えていないらしい」


光輝の言うことに祈里は納得する。自分も友達に危害を加えるような者が現れたら仕返しを考えただろうと思った。でも今の話しに腑に落ちないことがあった。


「自分たちが悪さをしていたことを自ら話したのですか?」


「それくらい女性に対して恐怖を抱いているようだ。すこし女性が触れただけで物凄い痛がりようで床を転げまわるらしいからな。女性の警官に事情聴取されたときのヤンキーたちは拷問にかけられたときと同じような感覚に陥ったのだろう。それに、嘘をついても痛みを訴えて床を転げまわるらしいぞ」


「それで、自分たちが行ってきた悪事を話したのですね。納得です」


ヤンキーたちは女性の警察に恐怖して過去に行ったすべての行いを話したのだろうと祈里は思った。


「事件の話は終わりでいいですわよね。それじゃあ、祈里ちゃんの運命の人について聞きましょうか?」


「私も聞きたいですね」


「祈里や、その殿方はどういう人なのだ」


小百合の言葉に幸代も同じ意見のようだ。輝明も関心を示してくる。光輝は面白くなさそうな顔をして黙って祈里を見ている。祈里は恥ずかしくてすぐにでも和室を出て行きたい気持ちにかられる。しかし、みんなの視線が祈里を逃がしてくれない。


祈里は仕方なく、当たり障りが無いことだけを話すことにした。


「お婆様の星詠みで運命の相手と占われた方の名前は九条優斗さんと言います。歳は16歳です。学年は一つ上だそうです。でも、高校は辞めたと言っていました」


「高校を辞めるような奴に祈里は任せられない」


「光輝、黙りなさい」


優斗のことを否定する光輝に幸代は威圧を込めて黙るように言う。こうなったら光輝は黙るしかない。


「はい、申し訳ありません」


「祈里、九条と言う家の名前は聞いたことが無いな。その者は霊力を持っているのか?」


「輝明さん、私が占ったのですよ。運命の相手である優斗君に霊力が無いと言うことはありませんよ」


「そうだな。幸代の占いに間違いはないだろう。しかし、どれほどの霊力を持っているかは気になる。祈里は特別な目を持っているからな。祈里、その優斗君という者はどれほどの霊力を持っていたのだ?」


祈里はどう話そうか迷った。優斗が纏う霊力は今まで祈里が見てきた誰よりも多く思えたからだ。しかし、黙っていてもいずればれると思い本当のことを話すことにした。


「九条家は退魔師の家系ではありません。優斗さんは野良の者です。特別な血は引いていますが退魔師としての教育は受けていないそうです。そして、お父様や御爺様の霊力をはるかに上回る霊力を持った人です。それに、かなり強いと思われます」


祈里の言葉に家族全員が興味を示す。退魔師の教育を受けていないのに成神家の現当主である光輝や前当主である輝明よりも霊力が高いという。それに退魔師としての修行をしていないのに強いと言う。家族全員が九条優斗に興味を持った。そして、自分より多い霊力を持つと言うことに光輝だけは納得がいかない様子だった。


「祈里がそこまで言うならその優斗とかいうやつを家に連れて来い。俺が直々にそいつの力を確認してやる」


「お父様、それは承服しかねます」


「光輝、往生際が悪いですよ。運命の者と結ばれることが退魔師の者にとってどういう意味を持つかあなたも知っているでしょう」


「そうですよ。貴方、私が幻滅するような言葉を発しないでください。貴方のことを嫌いになってしまいそうです」


幸代と小百合の言葉に光輝は委縮する。光輝と幸代は見合い結婚だが珍しく仲が良い。お互いに好きあっているのは誰もが認めている。その小百合に愛想をつかされると言うことに光輝は耐えられなかった。それでも可愛い一人娘の祈里が男にとられることが許せなかった。しかし、光輝は幸代や小百合の前では我慢するしかないと考えた。


「分かった。しかし、祈里。必ず家に連れてくるようにしなさい」


光輝は優斗がどういう男か確かめたいと思っていた。


「今はその時期ではありません。私たちは知り合ったばかりです。まだ、家族に紹介をするような仲にはなっていません」


「それは、仕方がないわね。優斗さんはどういう方なの? それだけは教えて欲しいわ」


小百合はどうしても優斗のことが知りたいようだ。光輝や他の家族も興味を持っているようでどういう話をするか祈里に注目が集まる。


「優斗さんはとても素敵な人です。優しくて強い方だと思います。私が見た男性の中で一番整った顔立ちをしています」


「そうなの、ますます会いたくなってくるわ。お義母様もそう思われるでしょう?」


「そうですね。私が占った相手がどういう者か関心はあります。でも、祈里がいつこの家に連れてくるかは決めなさい」


「私も早く会いたいですね。祈里、優斗さんは退魔師になるのですよね」


桜子の言葉に祈里ははっとする。野良の優斗が退魔師になると言うことは優斗に説明したように成神家の分家として退魔師協会に登録すると言うことだ。そうすると本家の成神家に挨拶にこないといけなくなる。優斗といい仲にならなくても家族に紹介しなくてはならないと祈里は思った。


「そうです、優斗さんは8月の退魔士試験を受けて退魔師になるそうです」


「そうなると、野良の優斗さんは成神家の傘下に入ると言うことで良いのでしょうか?」


「曾お婆様の言うとおりです。退魔師協会にはうちの分家として登録する予定です」


「それなら、うちに挨拶しに来ると言うことになるわね」


小百合は嬉しそうにそう言う。祈里はそう言われ覚悟を決める。


「そ、そうですね。その時に連れてきます」


「しょうがない。その時まで待つとしよう。祈里に相応しいか見極めてやる」


「儂も優斗君に会うのが楽しみになったのう。早く会いたいものだ」


光輝は優斗を見定めるために輝明は自分よりも霊力が多いと言う優斗に興味を示して二人とも優斗に早く会いたいと考えた。


それから祈里は家族に優斗のことを聞かれてたじたじになった。2時間後やっと家族に開放されて自分の部屋に戻ってベッドに横たわる。そして今日、食事やゲームセンターで優斗に支払いさせたことへの感謝の気持ちをLINEで優斗にメッセージを送った。


優斗は直ぐに返事をくれた。それから暫く二人でLINEを使ってメッセージのやり取りをして楽しんだ。

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