070 美香を退魔師に誘う
家に着くと直ぐに優斗は自分の部屋に行こうとした。そしてリビングの横を通った時に美香の声をかけられた。
「お兄ちゃん、デートは楽しかった?」
そう言う美香の顔は不機嫌そうだった。どうして美香が不機嫌なのか優斗には見当がつかない。そんな事よりも優斗は祈里の教えて貰った退魔師の試験について美香に話をしようと思った。
「で、デートじゃない。この前、妖魔の話をしただろ。その時に助けた女性に会いに行っただけだ」
「ふーん、そうなんだ。出かけてからかなり時間が経っているよね」
そういわれると優斗は返す言葉が見つからない。いままで祈里と楽しい時間を過ごしていたことは事実なのだ。それを美香に話すのは照れくさい。日本で初めてできた女性の友達だ。嬉しくて笑顔になりそうなのを我慢する。
「……それは美香に関係ないだろ」
「そんなこと言うんだ」
美香はそう言いそっぽをむく。優斗の顔を見てくれない。
「美香にも関係のある話をしてきたんだ」
優斗の言葉に美香は優斗の方に顔を向ける。なにを優斗が話すかいちおう興味を示す。別に美香は優斗が嫌いなわけではない。逆に好きすぎるのだ。
「私にも関係があるの?」
「ああ、退魔師にならないかって誘われた。俺は退魔師になろうと思う。美香も来週の週末に異世界に行ってレベル上げをするだろ。だから美香も退魔師にならないかと思っているんだけど。どうする?」
美香は暫く考え込む。そして美香は優斗と一緒に退魔師になりたいと思った。そしたら大好きな優斗と一緒にいられる時間が出来ると考えたからだ。
「私も退魔師になる。どうすればなれるの?」
「8月5日に退魔師の試験があるんだ。筆記試験と実技試験らしい」
筆記試験と聞いて美香は拒絶反応を示す。美香は勉強はできる方だが勉強自体は好きではなかった。
「実技はスキルがあるからレベルを上げればどうにかなるよね。でも、筆記試験はどうするの?」
「それは、問題ない」
優斗はスキル創造でスキル速読とスキル瞬間記憶を創造した。そして美香にもその二つのスキルを与えた。
「いま、美香にスキル速読とスキル瞬間記憶を与えたよ。この本を読んでみて」
優斗は亜空間倉庫から祈里から貰った本を美香に渡した。美香は歴史の教科書よりも厚いその本をあっという間に読んでしまった。優斗もその本を直ぐに読んですべて記憶した。
「これで筆記試験は大丈夫だ」
「このスキル凄いよ。このスキルを使って勉強したら学校で一番いなれるよ」
優斗は美香の言うことを聞いて笑ってしまう。そして勉強のことならもっといい方法があると言うことを思い出した。そのことを美香にも教えることにした。
「学校で一番になりたいならそれよりもいい方法があるぞ」
「それ、本当」
「ああ」
優斗は美香の頭に手をおき前に叡智にインストールしてもらった小学校から高校までの全科目の知識を美香に覚えさせた。
「今、美香に高校までの全教科の知識を与えたよ。部屋に行って問題集でも解いてみて確かめてみたらいいよ」
美香は優斗の言葉を聞いて自分の部屋へと向かった。そして持っている数学の問題集を解き始める。スキル算術のおかげで計算は全て暗算で出来ることに驚いた。そして習ってもいない公式が頭に浮かんでくる。
すべての問題をひっかかることなくスムーズに説くことが出来た。次に英語の問題集を解いてみる。スキル言語理解があるのでスラスラと英文が読めるし理解できる。そして問題を解くことが出来るし英単語のスペルが直ぐに頭に浮かび英語で文章を書くことが出来た。
理科の問題も直ぐに解くことが出来た。社会も問題ない。地理に歴史の問題も解くことが出来た。次に高校受験の問題集を解いてみた。全て解くことが出来て採点すると満点だった。
美香は優斗から凄い知識を得たことを実感した。問題集を解いた後に直ぐに優斗の部屋に行って優斗にお礼を言った。そして美香は優斗から高校の問題集を借りて解いてみた。
すべて問題なく解くことが出来た。習ってもいない高校の教科の問題を解くことが出来て美香は嬉しくなった。これで大学受験も乗り越えられると思った。
「お兄ちゃん、凄いよ。どの教科も直ぐに答えが分かるようになった」
「よかったね。これで好きな高校に行けるぞ」
「うーん。どうしようかな。お兄ちゃんみたいに卒業検定試験を受けるのもありかなーって思えてきた。全ての問題が解けるし学校に行く意味が見いだせないよ」
優斗は美香の言ったことに驚いた。優斗は止めたくて高校を退学しようと考えたわけじゃない。赤城たちに会うのが嫌だったから高校を辞めたのだった。だから学校に通うのに何の問題もない美香が高校に行かないと言う事は考えられなかった。
優斗は赤城たちのことが無ければ高校に通い続けていただろうと思った。そして友達が欲しいと切実に思った。友達がいる美香にはその優斗の思いは理解できないかもしれないと考えていた。
「美香、高校には行った方が良いよ。学校は勉強のためだけに行くところではないと思う。学校に行けば友達が出来る。そして、いろいろな思い出が出来ると思う。美香は高校に行きなさい」
美香は優斗が真剣な顔でそう言ってくるので真面目に話を聞いた。
「分かった。高校にはいくよ。県内でも一番の進学校を目指してみようかな?」
「それが良いよ。楽しい思い出をいっぱい作ったらいい」
「うん。受験勉強しなくていいからこれからは沢山遊べるね」
「退魔師になったら仕事があるぞ」
「そのことがあったかー。仕事は頑張るよ。試験は大丈夫だと思うけど異世界に行く方は大丈夫なの?」
「ああ、異世界では3カ月ぐらいレベル上げを行う予定だ。着替えとか準備しておけよ」
美香は異世界で三カ月も過ごすという優斗の言葉に驚く。今まで美香は一週間以上家を離れたことは無かった。それに三カ月も異世界にいる間学校はどうするのかと思った。退魔師の試験までも一カ月もない。
「お兄ちゃん、その間学校はどうするの? 退魔師の試験まで一カ月もないのに間に合うの?」
「そのことは心配ない。異世界に行った時間に戻って来られる。土曜日に異世界に行こうと思っている。異世界で何ヵ月過ごしても異世界に行った時と同じ時間に帰ってくることが出来るんだよ。だから出発した土曜日の同じ時間に戻って来られるよ」
「そんなことが出来るんだ」
「ああ、美香には異世界のことを話しておこう」
それから優斗は異世界について美香に話を聞かせた。そして魔物のことやシャルルのことも話した。そして魔物を倒してレベルを上げることを話す。美香は優斗の話しが物語のようで楽しく聞くことが出来た。




