063 退魔師について①
そうして祈里も優斗もケーキを全て食べた。それから祈里は真剣な顔つきになった。
「優斗さんはどうしてそんなに多くの霊力を持っているのですか?」
「祈里が信じてくれるかどうかは分からないけど正直に話をするよ」
「お願いします」
「俺は神様の子孫らしいんだ」
「やっぱりそうだったんですね」
祈里は優斗が神様の子孫であることを確信していたようにそう言った。優斗は祈里がどうして神様の子孫と言うことを直ぐに信じてくれるのか不思議に思った。でも、話しがスムーズに進められるのでそれで良いと思った。
「信じてくれるんだね」
「はい」
「それなら話しやすいよ。そして神様からニーベルリングという物をもらった。そのニーベルリングには三つの能力と異世界行くことが出来るドアが収納されていた。俺はその異世界へ行けるドアを使って異世界に行ってレベルを上げて強く成ったんだ。その時に多くの霊力を持つようになったと言うことなんだ。祈里さんはそういう小説を読んだことはあるかな?」
祈里は優斗の話が嘘ではないことを特別な感覚で知って彼の話を聞いて納得した。
「そういう小説は読んだことはありません。でも、そう言う小説があると言うことは知っています。私はラノベという物を読みませんがネット小説は暇なときにスマホで読んでいますので。私が読むのは恋愛ものばかりですけどね。その中に異世界で悪役令嬢に転生してバッドエンドを回避するためにレベルを上げて強くなるという話がありました。優斗さんも同じような感じだったんですね」
優斗は祈里が物わかりの良い人で助かったと思った。普通の人が自分は神様の子孫だと言われても信じないだろう。それどころか「お前頭大丈夫か?」と言われるのが関の山だ。
「優斗さんの話は分かりました。これからは退魔師について話をしようと思います。優斗さんは退魔師についてどう思いますか?」
「実際に退魔師と言う存在がいると思っていなかった。でも、祈里さんやあの化け物を見て退魔師や化け物の存在は理解できたよ」
「まあ、一般の方にあのような化け物がいることは知らされていないですからね。妖魔のように人の手に余るような化け物がいると分かればパニックになりますから、誰にも知られないように妖魔は退魔師が始末しています」
優斗は祈里の言ったことに納得した。レベルが180もあるような化け物が現れると一般の人間には何も対処できない。自衛隊でも対処不可能だろう。銃弾などレベル180の化け物に効くわけがない。
「化け物は退魔師が始末しているんだね」
「はい、妖魔は妖気を纏っているので銃やミサイルと言った近代兵器が効かないのです。唯一対抗できるのは霊力を使った攻撃です。陰陽術や霊刀などの攻撃がそれにあたります」
「祈里さんたちが退魔師として活躍していることは分かったよ」
「霊力を持っただけの少女が妖魔と戦っていることに優斗さんは不思議に思いませんでしたか?」
たしかにおかしいと優斗は思った。この現実世界にはレベルという概念が無い。鑑定で見ても祈里にはステータスがない。ただ性別と年齢と職業が退魔師と表示されるだけだった。強さはAAと表示されている。
どうやって妖魔を倒すような体力を得ているのか疑問だった。それに優斗からしたらただ魔力を持っているAAだけの人が女郎蜘蛛のような化け物を相手取るのがおかしい。陰陽術は霊力があるから納得できる。
しかし3mも飛び上がったり女郎蜘蛛を真っ二つにしたり出来るような力を持っていることが不思議だった。優斗は祈里がどうやって妖魔と戦えるような力を持ったか知りたくなった。
優斗のようにレベルという存在があればレベルを上げて強くなれる。でもレベルが存在しない祈里がどうやって強く成ったのかが不思議で仕方がない。
地球の一般人が祈里のように超人的な動きが出来るとは優斗は思えなかった。そのことから退魔師と言う家系にはなにか秘密があると考えた。そしてそのことを知りたいと思った。
「祈里さんが言うように霊力を持っているだけであの妖魔は倒せないよね。人知を超えた力が必要になってくる。しかし、その力を祈里さんや退魔師の人がどうやって得たかが謎だね」
祈里は優斗がしっかりと彼女の言っていることを理解していると感じ安心した。そして、退魔師がどういう存在か話すことにした。それを話したうえで優斗には退魔師になってもらいたいという祈里の思惑があった。
「これから話すことはあくまでも退魔師の家系に口伝で伝えられて来たことなので本当のことかどうかは私は知りません。まだこの世に文字という物が無かった時代から続く話です。最初に文字として退魔師や陰陽師という言葉が出てきたのは平安時代のことです」
ずいぶん昔のことから始まる話に優斗は興味を持った。そんな過去の話しなんて学校の授業でも習わない。知りたいという好奇心がだんだんと優っていく。
「と言うことは文字が無いような昔から退魔師と言う存在があったと言うことなの?」
「はい、そうです。私たちに伝わっている口伝ではまだこの地上に神々がいた時代に神々と人間と妖魔は同じ地上に住んでいたと伝わっています」
ずいぶんと突拍子のない話に優斗は驚く。地上にあんな化け物と人間がともに住んでいたことが信じられなかった。でも異世界で魔物と戦ったことを思い出しあの世界は魔物と人間が同じ地上に住んでいるんだなと考えを改めた。
「かなり大昔の話になるんだね。神々が地上にいた時代なんて想像できないよ」
「でも、そういう優斗さんは神様の子孫なんですよね。では、神様が地上にいたことは理解できると思いますけど……」
優斗は祈里の言葉を聞いて確かにそうだと思った。自分が神様の子孫だと言うことを知っている優斗は祈里の言葉を否定することは出来なかった。
「そうだね。俺もニーベルリングを神様から貰っていたんだった。今の俺なら祈里さんが言うことを信じられるよ」
「そう言っていただけると思っていました。それでは話を続けます」
「うん、お願い」
「神々がいた時代は人間を神々が守っていました。妖魔を神々が退治していたのです。しかし、神々は地上を離れ天界に行くことになりました。その時に神々は地上に残る人間のために神々の総力をあげて妖気を持つ妖魔を魔界に追いやったのです。そして人間が住む世界を人間界として妖魔が住む世界を魔界としました。そして神様が住む世界は天界と言われるようになりました」
「魔界に妖魔が追いやられたのにどうして人間界に妖魔が現れるの?」
優斗はそのことを疑問に思った違う世界にいるのに妖魔が人間界に来ることが不思議だった。
「妖魔が住む魔界は人間界と隣り合っていて二つの世界は接しているんです。そのためその堺で二つの世界が触れ合った瞬間に起る衝撃で境界面に歪が生じて二つの世界がつながってしまうときがあるんです。その時に魔界から妖魔がこの世界に迷い込んだりその逆に人間が魔界に迷い込んだりするときがあるんです。そうやって人がいなくなることや妖魔に殺されて行方不明になる人たちのことを昔の人は神隠しと言いました」
「二つの世界に歪が生じることってあるんだね。でもそれって日本だけでそういうことがおこっているの?」
祈里は優斗の質問に感心した。妖魔は日本だけに現れる化け物ではないからだ。世界中で妖魔は現れる。そして世界中で妖魔と戦う者たちがいる。
「優斗さん、妖魔は世界中で現れます。海外では魔物とよばれたりモンスター、悪魔と呼ばれたりしています。人型の妖魔もいるんですよ。そして海外でそういう化け物たちと戦う存在がウィッチ、ウィザードや聖闘士、導師、仙人などと呼ばれる人たちです。日本では退魔師と言われています」
「そうなんだね。世界中であんな化け物が発生しているのか? 知らなかったよ。それでどうして退魔師が魔物と戦えるような力を持っているの?」
「優斗さんが神様の子孫だと言うように私たち退魔師も神様の子孫なんです」
「それって本当のことなんだよね」
優斗は自分たち以外に神様の子孫がいると言うことに驚いた。
「はい、だから私たち退魔師は霊力を持っているし見た目も整った顔をしているんです。もちろん口伝なので何も証拠はありません」
「神様の血を引いているから祈里さんは綺麗なんだね。納得が言ったよ。加奈さんや博人さんが美形なのも神様の血を引いている退魔師だったからだったんだね。でも、確かに口伝だけだと神様の子孫と言う証拠にならないね」
祈里の頭の中では『祈里さんは綺麗なんだね』と言う言葉が何度もリフレインする。そして顔を赤らめる。
優斗は父親の顔が整っていることや美香が評判の美少女であることに納得がいった。二人は神様の子孫なんだから当然だった。そして同じ神の子孫である祈里が並外れて綺麗なことに納得した。
「……は、はい、ですが霊力を持っているのは退魔師の家系だけなんですよ。一般人は全く霊力を持っていません。私が優斗さんが神様の子孫だと信じたのは優斗さんが霊力を持っているからです」
優斗は納得した。異世界に言った時にニーベルリングで無限の魔力を得る前のステータスには魔力の表示がしっかりとあったからだ。それに神様に会ったときに優斗が神様の子孫であるこということを聞かされているので優斗に霊力があるのだと思った。
それなので、祈里たち退魔師が霊力を持っているのは神様の子孫と言う証拠になると言うことを嘘だとは思わなかった。




