061 祈里とお出かけ②
優斗はスマホで調べた店に祈里を案内する。
「それじゃあ、行こうか?」
すると祈里は恥かしそうに優斗の腕に自分の腕を絡ませる。スタイルの良い祈里がそんなことをすると胸の膨らみが優斗に押し付けられる。優斗は顔を赤らめる。
「祈里さん。そんなにくっつと当たってしまっているんだが……」
「わざと当てているんです。優斗さんは運命の人です。私は優斗さんにアピールして私のことを優斗さんに認めてもらわなければなりませんので」
祈里は本気だった。デートを重ねて優斗に祈里のことを好きになってもらうつもりで行動している。
「祈里さんお気持ちはわかったよ。じゃあ行こうか」
そんな周りの目を気にせず二人はルミネ2から離れていく。
「優斗さんは何処に向かっているんですか?」
「俺は正直言って女性と出かけるのは妹以外では初めてなんだよ。だからこれから行く店はスマホで調べた。さいたま市でBest10に入るお店でケーキが美味しい喫茶店らしいんだ。そこに行こうと思っているけど大丈夫かな?」
祈里は整った顔をした人たちは見飽きるほど知っている。彼女たち退魔師に流れる特別な血のおかげで家族も親戚も退魔師の家系に連なる人たちもみんな美形ぞろいだった。
そんな祈里から見ても群を抜いて整った綺麗な顔をしている優斗に恋人がいないと思ってもみなかった。祈里は女子高なので詳しくは知らないがこれほど素敵な男性を女性が放ってはおかないと思っていた。
マンガなどから得た知識で優斗の靴箱にはラブレターが毎日のように入っていて女性から数多くの告白を受けているものだと思っていた。そんな優斗が妹以外の女性と出かけたことが無いという。祈里にはとても信じられなかった。
でも、これはチャンスであるとも思った。これから優斗と共にする時間を増やし優斗に自分のことを気に入ってもらおうと考えた。星詠みで優斗の側に多くの特別な女性が将来現れることは知っている。その中でも自分が一番に愛されたいと祈里は思った。
「優斗さんの選んだ店で結構ですよ。私はこのあたりに詳しくないのでその喫茶店に行きましょう」
「そう言ってくれると助かるよ」
優斗は女性をエスコートしたことはない。でもラノベの知識で女性の右側を歩き道路側を女性に歩かせない知識や足の遅い女性を想定して女性にペースを合わせて歩くなどのことを知っていてそのことを実行する。でも、優斗の動きはどこかぎこちない。
そして優斗は終始顔を赤らめている。優斗とは違い祈里は男性の相手をするのに慣れていた。いちおう祈里は退魔師の成神家と言う名家の生まれだ。パーティーなどで男性の話し相手をすることも多くあった。
でも、そんな祈里でも運命の相手で一目ぼれした優斗相手だとすこしいつもと違って手に汗をかいていた。
(なんでしょ。優斗さんが近くにいると緊張してきます)
本当は優斗の腕に自分の腕を絡ませて恋人の様な感じで一緒に歩きたいと祈里は思っていた。なので、思い切って腕を絡ませてみた。思いのほか恥ずかしい思いをした。それでも優斗が拒絶しなかったので良かったと思った。
それでも、祈里は心臓がバクバク脈打っていたがそのことを優斗に悟られないように平然とした態度で優斗に寄り添うように一緒に歩く。優斗と祈里が一緒に歩いている姿は通りすがりの人たちの目を引いていた。
二人とも絵に描いたように整った顔をしていたからだ。駅前は人通りも多い。そのほとんどの人たちが二人に目を向ける。
「あんな良い女を連れて歩いている男がいるぞ。やっぱり男は顔か?」
「あの人たち芸能人かな? 何かの撮影かな?」
「凄い綺麗な二人ね。スマホで写真を撮っておこうかな?」
「凄い美人はやっぱりすごくカッコいい男を選ぶんだな」
そういう声が周りから聞こえてくる。優斗は五感が優れているので全て聞こえている。もう美香と出かけるときで優斗はそのことに慣れていた。祈里は美香以上に綺麗だ。目立っても当たり前だと考えていた。
でも優斗も祈里も緊張していて周りの目は気になっていなかった。そして20分ほど歩いて目的の湊という喫茶店に着いた。二人は揃って喫茶店に入る。そして一番奥の席に優斗は案内して窓際の席を祈里に譲った。
すべてラノベやネット小説で得た知識だ。席につくとウエイトレスがメニューを持って来た。優斗はネットで調べた店のオススメを祈里に話した。
「この店はショートケーキとモンブランが美味しらしいよ。ネット知った情報だけどね」
「では、私はショートケーキとモンブランの両方を頼んでみます。飲み物はアイスミルクティーにしようと思います」
「俺はショートケーキだけで良いかな。飲み物はアイスコーヒーでいいか」
注文が決まったら優斗はウエイトレスを呼んで食べ物を注文した。
「しかし驚いたよ。祈里さんは細い体をしているのにケーキを二つも食べるんだね」
優斗は女性の扱い方を知らない。祈里に対して失礼なことを言ったと気づいていない。祈里は優斗の言葉に顔を赤らめる。
「今日は特別なんです」
そう、祈里は言い訳する。自分の言い訳が通るとは祈里も思ってはいない。取り敢えずそう言うしかできなかった。
「優斗さん。私が二つケーキを注文したことをどう思いますか?」
「ケーキが好きなんだろうなと思っただけだけど……」
祈里は恥ずかしそうな顔をした。そして退魔師と言うことは内緒なので身を乗り出して優斗にしか聞こえない声で話をする。
「退魔師はカロリーを消費する職業なんです。これでも私の食べる量は家族の中では少ない方なんですよ。それにお勧めのケーキを逃すわけにはいかないじゃないですか」
祈里は大食漢だと思われないように言い訳する。それなら初めから一つのケーキだけを注文すればいいだけの話だが退魔師の家庭に育った祈里の考えではケーキ二つくらい注文するのは当たり前のことだった。
優斗も祈里が退魔師や妖魔のことを内緒にしていることは知っているので身を乗り出して小さな声で答える。
「そう興奮しないで。俺は気にしていないから。好きなだけ食べたらいいよ。退魔師の家系のことは理解するから」
「それなら良いです」
「おれもケーキ二つくらいなら平気で食べられるけど今日は遠慮しておくよ」
「えっ!? そこは、私に合わせて注文するところじゃないんですか?」
「あははは、俺は祈里さんが沢山食べる人だからと言って幻滅したりはしないよ」
人を見た目で判断するなんて優斗はしない。そのせいで今まで散々な目に遭ってきた優斗だ。そんなことで人を差別するなんてありえなかった。それよりもシャルルといっしょで祈里もケーキには目がないんだなと思ったぐらいだ。
「そう言っていただけると助かります。友達と一緒に食事をするときはあまりにも私が多く食べるので引いてしまう方もいるものですから」
「そんな人もいるかもしれないね。だってスタイルが良いし美少女の祈里さんがそんなに食べるなんて信じられないよ。退魔師が体力を使う仕事だと分かっていたらそうでもないかもしれないけどね」
「そうなんですけど。私が退魔師と言うことは内緒のことなので誰にも言えないんですよ」
祈里はそう言い残念そうな顔をする。本当は祈里は友達に隠し事をしたいなんて思ってもいない。友達がどこかで妖魔にやられることが無いか心配することもある。そのためには友達に妖魔のことについて説明をした方が良いのではないかと考えることもあるくらいだ。
しかし、その為に世界に恐怖を与えることは出来ないと諦めている。
「そういうことになるんだね。俺が知らなかったのも頷けるよ」
祈里は優斗の言葉に満足した。そして注文したケーキや飲み物をウエイトレスが持って来た。そしてウエイトレスが席を離れた瞬間に祈里は札を出して霊力注いだ。そして優斗と祈里が座る席が音声遮断の結界に包まれた。




