060 祈里とお出かけ①
祈里と会う約束をした日曜日は優斗にとって特別な日だった。デートということではないが家族以外の女性と初めてのお出かけだ。そのため昨日と同じように優斗は何時もより朝早く目覚めていた。
起きてしまったのは仕方がない。と優斗は昨日と同じく洗面所に行き顔を洗うとキッチンに向かう。そして冷蔵庫の中を確認する。しかし、今日に限って冷蔵庫の中にろくなものが無い。
和子は昨日、ステーキや赤ワインなど高級な食材を買うことだけに集中して日曜日の朝の食事のことなど考えていなかった。そのため冷蔵庫にはろくな食材が入っていなかった。
優斗は仕方がないので亜空間倉庫からソラに貰ったマジックバックを取り出した。その中からタマネギに人参とトウモロコシに卵とデザートに桃を取り出した。そしてコカトリスキングの肉を亜空間倉庫から取り出す。
そして、朝食用に家族全員にオムライスを作ってテーブルの上にならべた。そのころ和子が目を覚まして2階の部屋から降りてきた。
「優斗、今日も早く起きたのね」
「なんだか目が覚めちゃった。朝ごはんの準備は終わっているから顔を洗ったら父さんを起こしてきてよ。ご飯が冷めてしまうからさ」
「分かったわ。昨日の朝ごはんも美味しかったわ。いつの間にか優斗は料理が得意になっていたのね」
「スマホでググってレシピを見つけて作っただけだよ」
でも、和子は不思議に思ったことがあった。
「あれ? でも昨日は今日の分の食材を買ってなかった気がするんだけど、食材はどうしたの?」
「それは、異世界で得た食材を使ったんだよ」
「異世界でそんなものを得ていたのね」
「そうだ、母さんにもこれを渡しておくよ。異世界の食材が得られるバックだよ。マジックバックになっているからバックの大きさ以上に物が入るし時間停止の機能がついているから中の物は腐らないよ。それにいろんな果物も入っているから好きに食べても良いよ」
優斗はそう言ってソラから貰ったマジックバックと同じものをスキル創造で作り出して和子に渡す。そのマジックバックは異世界のミミックスライムが持っているマジックバックと繋がっている。ダンジョンで取れた食材や調味料が数多くマジックバックには入っている。
優斗はマジックバックを和子にあげる前にオークキング、キングミノタウルスにコカトリスキングの肉も亜空間倉庫からマジックバックに詰め替えていく。
「母さん、ちょっと来て」
「何をするの?」
「異世界の魔物の肉の知識を母さんに覚えてもらおうと思ってね」
「魔物の肉なんて食べられるの?」
「食べられるよ。異世界では高級食材なんだよ。異世界の貴族でもめったに食べられるものじゃないんだ」
「そういう肉なら食べてみたいわね。でもお手柔らかにお願いね」
「了解、頭に触るね」
こうして優斗は和子に異世界の食材や異世界の料理法の知識を和子に与えた。
「これで、異世界の食材の知識を覚えていると思うけど、どう?」
「ありがとう、ちゃんと覚えているわよ。キングミノタウルスの肉は昨日食べたA5の和牛より美味しい肉みたいね。今日はそのお肉を使って夕食に出すわ」
「晩御飯を楽しみにしているよ。俺は美香を起こしてくる」
優斗は二階に上がり美香の部屋のドアをノックする。美香は起きているようで直ぐに返事があった。
「はいっていいよ」
「お邪魔するよ。美香、朝ごはんが出来ているから降りて来てくれ」
「直ぐに行くから先に行っていて」
「分かった。下で待っているから」
それから朝食のオムライスを食べた家族の反応は大絶賛だった。美香は自分が料理Lv.10のスキルを持っていることに気付いているので優斗もそのスキルを使って料理したのだろうと検討をつけていた。
優斗は食事を済ませると祈里に会う為に部屋に向かい昨日購入したおしゃれ服に着替えて部屋を出た。そこで美香に会った。
「お兄ちゃん、そんなおしゃれしてどこに行くの?」
「ちょっと友達に会いに行くんだよ」
「ふーん。私と買い物に行くときはダサい服だったのに友達と会いに行くのにおしゃれをするんだね」
「昨日買ったから着てみただけだよ」
「ちなみに今日会うのは男なの女なの?」
美香の問い詰めるような視線の圧力に優斗は嘘をつくことが出来なかった。
「じょ、女性だよ。最近知り合ったんだ」
そう答えたときに優斗は美香の後ろに般若の姿が見えたような気がした。美香の機嫌が悪くなっていく。
「女と会うんだ。ふーん。そうか、もうお兄ちゃんに変な虫がついちゃったかー」
後半は小さな声だったがステータスが常人を超えている優斗の五感は人並み以上の性能を有している。美香が声にした言葉は全て優斗に聞こえていた。優斗は冷たい冷や汗が背中を伝うのを感じていた。
そして、優斗はどうにか並外れた身体能力を活かし美香を振り切り階段を下りて玄関に急いだ。
「逃げられたか」
そう言う美香の言葉が背後から聞こえてくる。そんなことは無視して優斗は玄関に着くと靴を履くと一目散に家を出て行く。そして祈里と待ち合わせしている大宮駅に急いだ。
◇◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
大宮駅に着くとルミネ2の中央改札口に優斗は向かう。そして目的の場所に着くと一際異彩を放っている少女が立っているのが目に入った。カプリーヌという帽子をかぶっているので直ぐには気が付かなかったが良く見るとその少女が祈里だと分かった。
制服姿の祈里も可愛かったが私服を着た祈里も可愛いと優斗は思った。祈里はマキシワンピースにサマーカーディガンを羽織っていた。丈の高いヒールを履いている。身長が160cm近くある祈里が高いヒールを履くと170cm近くになりモデルのように見えた。
祈里は通り過ぎる人たちの目を引いていた。10人いれば10人が100人いれば100人が魅力あふれる美少女だと祈里のことを証するだろう。優斗自身も祈里の綺麗さに目を奪われてしまっていた。
はっと我に返り優斗は慌てて祈里の下に急いだ。そして祈里の前に立ち遅れてきたことを詫びた。
「遅くなってしまってごめん」
「おはようございます。優斗さん。それと私が早く来てしまったので優斗さんが謝る必要はありませんよ。早く来たのは10時の待ち合わせに適当な電車が無かったからです。私の家の近くの駅からだと大宮駅の到着時間が9時35分の電車が適当だったんです」
綺麗な少女と待ち合わせているのがどういう人間か気になっていた周りの人たちは優斗の姿を見て納得した。ある男性は「やっぱり顔か」と嘆き。ある女性は「素敵なカップルね」と感心した。
「それを聞いて安心したよ。それと制服姿も似合っていたけど今日はとても可愛いと思うよ」
「有難うございます。今日は優斗さんに会う為におしゃれをしてきました」
祈里はそう言い顔を赤らめる。優斗も可愛い祈里にそう言われ満更でもない顔をする。そして優斗は平常心を保とうとした。




