046 妖魔事件の後始末①
祈里の質問にはこたえたいと考えたが、今はその時ではないと思った。目の前には地面に倒れている少年や木々の生い茂るところに魔物の糸でぐるぐる巻きにされて捕らわれている人たちがいる。
彼らの救出の方が重要であると優斗は考えた。祈里は優斗の正体を早く知りたくて負傷者がいることをすっかり忘れていた。
「分かりました。しかし今はその時ではないように思います」
そう言い優斗は倒れている少年を指さす。祈里も優斗が言いたいことを理解した。
「話はあとで伺います」
「それでも良いですが、俺の話は長くなると思いますので……」
優斗は何処から話せばいいか思い悩む。そのため時間をおいて話をしようと思った。
「分かりました。でもあなたの本当の姿だけでも見せてください。今の姿は何かの術で変えていますよね」
優斗は祈里の言ったことに驚いた。
「祈里さんの目はそんなことまでわかるんですか?」
「ふふふ、私の目は特別だと言いましたよ。真実を見抜くことなど簡単なことです」
「良いですよ。本当の姿をお見せします」
優斗はそう言い祈里以外誰も見ていないので変身した姿を元に戻した。本当の優斗の姿を見て祈里は驚いた。祈里の家系は特別な家系でそのため家族や分家の親戚などの者たちはみな美形ぞろいだ。
そんな美形な容姿を持つ親戚を多く見てきた祈里でさえも優斗の容姿は驚くほど綺麗で整っていた。
「……す、凄く素敵なお顔です。なぜさっきのような醜い顔をしていたのですか?」
「その理由はいずれ話します」
「優斗さん。私は年下です。敬語で話さなくても良いですよ。」
「分かったよ。俺の経験上、初対面の人とは敬語で話すようにしているんだ」
優斗は醜い顔でいろいろなひとに見下されてきた。喋り方だけで嫌われたり殴られたりしたこともある。そのため優斗は誰に対しても敬語を使っていた。
「そうなんですね。でも今の喋り方の方が親近感がわきます。それでいつ私に貴方のことを教えてくれるのですか?」
「近いうちに時間を作るってことで良いかな?」
「分かりました。でも早いうちにもう一度会いたいです。では連絡先を交換しましょう」
祈里はそう言いスマホを出す。優斗も鞄からスマホを出して連絡先を交換した。
「取り敢えず皆を救出しましょう」
優斗がそう言うと祈里も了解する。
「そうですね。救出の方が先ですね。その前に警察の妖魔対策部に連絡します」
祈里はそう言いスマホで連絡をし始めた。そして彼女は警察を呼んだ。優斗は創造でナイフを作り出し地面に転がっている少年に巻き付いている女郎蜘蛛の糸を斬ろうとした。しかし硬くて切れない。
(マスター、ミスリルのナイフを作って魔力を通しながら切ってみてください。その糸は堅そうですし魔力を感じます)
(分かったよ。やってみる)
優斗は直ぐにミスリルでナイフを作り魔力を纏わせながら糸を切り裂くことにした。魔力を纏ったミスリルのナイフは簡単に女郎蜘蛛の糸を切ることが出来た。その姿を驚きの表情で見ている祈里が優斗の後ろにいた。
「凄いですね。一般人と言いながら凄いナイフを持っているのですね。それに霊力の使いかたが上手いです」
優斗はますます誤魔化しが利かないことを理解した。
「いずれ話しますから。今日は勘弁してください」
「良いですよ。今日は勘弁します。でも、今度の土曜日か日曜日に教えていただけますか?」
「土曜日は用事があるので日曜日ならいいですよ」
「では日曜日を楽しみにしています」
祈里はそう言い木々の中にある女郎蜘蛛にとらわれている人たちのところに向かった。そしてとらわれている人たちをぐるぐる巻きにしている女郎蜘蛛の糸を霊刀を使って切っていく。
そして人々を解放して地面に寝かせると女郎蜘蛛の卵を一つ一つ丁寧につぶし始めた。全ての作業を終えたころパトカーのサイレンが聞こえてきた。それ音を確認して祈里は人除けの結界を解いた。
そして祈里は優斗の下に走り寄る。
「まだ、帰ってはだめですよ。警察の方に貴方を紹介しますから」
「紹介する必要があるのですか?」
「勿論です。あなたは私の伴侶になる方です。それにいつまたあなたが妖魔と戦うときがあるかもしれません。そのときにこれから紹介する警察の方と知り合っていた方が良いと思いますよ。ただ、妖魔を倒してお金を得るには退魔師協会に登録が必要です。優斗さんは退魔師協会に入っていないですよね」
「俺は一般人なので退魔師協会があることもしりませんでした」
祈里の能力で優斗が嘘を言っていないことは分かった。あくまでも一般人と言い切る優斗に祈里はすこしあきれていた。
「退魔師になるには試験を受けなければなりません。試験を受けて退魔師になると妖魔を倒した時にお金が貰えるようになります。優斗さんは私の伴侶になるわけですから退魔師になる試験を受けてもらいたいです」
祈里はどうしても優斗の伴侶になることを諦めていないようだ。
「俺が祈里さんの伴侶になることは決まっているんだね」
優斗は祈里の言葉にあきれるがスキル未来視で祈里と結婚する自分の姿を見ているので伴侶になるという彼女の言葉を否定も出来ない。
「当然です。優斗さん、諦めてください。私は本気です」
「諦めるしかなさそうだね」
目の前の祈里と結婚する未来が見えているのだ。優斗は諦めるしかないと観念する。
「話が分かる方で助かりました。不束者ですが、これから宜しくお願いします」
祈里は嫁に来るような言い方をする。優斗は少し引いてしまった。でも祈里からしたら優斗は運命の人なので結ばれることが当たり前だと考えていた。
彼女は優斗の目を見て真剣な顔をしてそう言った。優斗は彼女と永い付き合いになると思った。そこにスーツを着た女性と男性が現れた。




