045 成神祈里
少女が少年を呼び止めたのは理由があった。陰陽術を生業にしている少女の祖母の星詠みで今日運命の人に会うという言葉を貰っていたからだ。霊力を持って退魔師をしている少女にとって運命の人が霊力を持っていない一般人なんてありえない。
少女の目の前の少年ははっきりいって見た目は良くない。しかし物凄く多くの霊力を持っているのは特別な目を持っている少女からしたら一目でわかった。このように多くの霊力を持っている少年と会うと言うことが運命の何物でもないと少女は思った。
(この方が運命の相手で間違いないようですね)
少女は迷いなくそう思った。退魔師をしている陰陽術を使う者にとって伴侶になる相手は普段は家の長が勝手に決めてくる。幼い時から許嫁として決められていることも多い。しかし中には星詠みで運命の相手に出会う者もいる。そういう者は特別な扱いとして運命の者と契りを交わす。
陰陽術による星詠みの相手は必ず結ばれるべき相手という訳ではなく、結ばれるとお互いに幸せになり強い子供を授かる様になるという意味だ。幸せな家庭と強い子供が授かれるなら星詠みで選ばれた相手と結ばれたいと思うのは少女にとってこの上なく大切な意味を持つことになる。
少女は目の前の少年に特別な何かを感じた。そして少女は特別な目と嘘を見抜く力で目の前の少年が一般人ではないと確信していた。
「貴方は一般人なんかではないですよね。私は嘘を見抜く力と特別な目を持っています。あなたが嘘を言っているのは分かっています。あなたが霊力を纏っているのが証拠です」
(俺って霊力をもっていたっけ?)
(マスター、彼女が言っているのは魔力のことだと思います。この世界では魔力のことを霊力と言っているのでしょう。彼女は魔力をかなり持っていますよ)
(それなら俺は無限の霊力を持っているってことになるのか?)
(そういうことになりますね。その少女は魔力を見る特別な目を持っているようですよ)
(じゃあ、逃げられないか)
「俺の霊力が見えるんですね」
「さっきも言いましたよ。私には特別な目があります。誤魔化しも私には利きませんよ。それとあなたのことをお聞きするまで逃がしませんから」
そう言い少女は優斗の腕をホールドした。優斗の肘に少女の豊かな膨らみがあてられる。そして優斗は戸惑いを見せる。優斗は今まで人に触れられたことが無い。いつも人に触れると嫌がられてきた。
目の前の少女はそんなことは気にしないとばかりに優斗の腕に自分の腕を絡ませてくる。優斗にとっては今朝の美香以来二度目のことだった。しかし美香は妹だ。赤の他人に同じことをされて冷静ではいられない。
優斗の顔は熱を帯び真っ赤に茹で上がる。
「あ、当たっています。逃げないですから離して下さい」
「私に嘘は利かないと言いましたよね。逃がしませんよ」
優斗が逃げないと言ったのは噓だった。少女はその嘘を看破してみせた。少女は特別な存在のようだ。目の前の少女が特別な日本刀を使って魔物を倒しているのを見ているので彼女が普通の人ではないと分かっていた。
誤魔化しや嘘が彼女に聞かないと言うのは優斗が持つ心眼で本当のことを言っているのだと分かった。もう少女から逃げることは諦めた。
(これはごまかすことはできないな)と優斗は思った。
少女にそう言われますます誤魔化しが利かないと優斗は思った。
「申し訳ないですがあなたは私の運命の人と星詠みで確定しています。私は貴方の素性を知るまであなたを逃がすつもりはありません」
少女の運命の人と言う言葉に優斗は戸惑った。星詠みと言う言葉と、運命の人と言うのがどういう存在なのか気になった。
「星詠みとは何ですか? それに運命の人とは何ですか?」
「星詠みとは陰陽術で行われる未来予知のようなものです。運命の人とはあなたが私の伴侶となると未来予知されたのです」
少女がそう言うと優斗のスキル未来視で目の前の彼女と結婚式を挙げている未来が一瞬見えた。彼女の言っていることが本当のことだと優斗には分かった。
そして目の前の少女と自分が結婚する未来を見て驚く。優斗は醜く女性には嫌われてきたので自分が結婚できるとは思っても見ていなかったのだ。恋人すら出来ないと思っていた。
「俺は自分で言うのもなんですが醜いし禿げています。こんな俺をあなたは伴侶にしたいと本当に思っているのですか?」
優斗はスキル変身で醜い時の優斗の姿に戻っている。誰が見ても女性とお付き合いできるような姿には見えないだろう。しかし、醜い優斗を見ても少女は腕を解こうとしないどころか迫ってくる勢いだ。
「あなたの見た目は関係ありません。私の目は特別な目と言いました。あなたが纏う霊力は暖かく優しさを感じます。凄く清らかな感じがします。あなた自身も凄く優しい方だと思います。それに星詠みの運命の人と結ばれることは陰陽師にとって物凄く幸せなことなんですよ」
「俺の醜い姿は気にしないと言うんですか?」
「はい、勿論、気になりません。私とお付き合いしていただきたいです。私の名前は成神祈里と言います。15歳です。西園寺女学園の1年生です。成神家は関東の陰陽師を束ねている立場を持つ家になります。あなたの名前と年齢を教えていただけますか?」
優斗の醜い姿を見ても彼のことを運命の人だと言い付き合って欲しいという祈里の言葉に優斗は感動した。今まで優斗のことを「気持ち悪い」「触らないで」と言われたことはあっても「お付き合いしたい」と言われるようなことは無かった。
優斗も16歳の少年だ。恋愛には興味がある。しかも優斗に交際を申し込んできているのは物凄い美少女だ。気にならないわけがない。
「俺の名前は九条優斗です。高校2年生になります。高校は中退したので学校には通っていません。申し訳ないですが本当に俺は一般人なんですよ。陰陽師が本当にいるなんて今日知りました。今までは物語の中でしか存在しないものだと思っていました。これは本当のことです」
優斗が知らないだけではない。世間一般的に妖魔の存在や退魔師の存在が隠されているのだ。一般人が退魔師のことを知るはずが無い。
「本当のようですね。でも一般人と言うのには引っ掛かりを感じます。嘘をついていないようですが何かごまかしているように感じます」
祈里の感覚は鋭いと優斗は思った。そして誤魔化しも無理だと観念する。
「君の言うのは合っているけど、俺が一般人なのは本当のことだよ」
「まあ、嘘は言っていないようですね。でも一般人が人払いの結界の中に入ってくるなんてことは出来ません。それに貴方が纏う霊力が見えます。何度も言いますがあなたがただの一般人と言うことには無理があります。正直に答えてください」
優斗は彼女に誤魔化しは利かないと言うことが分かった。それに自分のスキル未来視で目の前の少女と結婚式を挙げる未来を見たので本当のことを話そうと思った。




