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044 退魔師の少女

少女は女郎蜘蛛の攻撃で体に痛みが走り身動きが取れなくなった。治療したくても霊力が心もとない。このまま最期を迎えるのかと思った。


(どうしましょう、目がかすんできた)


身体能力を霊力で強化しているが、ダメージが高くその効率が落ちている。このままでは女郎蜘蛛かその子供たちの餌にされてしまうと少女は思った。どうにかこの状況を変えようと少女は必死になる。


(う、動いて……。こんなことになるなんて。もっと強くならなければ……)


四肢に力を籠めるが思うように力が入らない。そんな少女の方に女郎蜘蛛がゆっくりと勝ち誇ったように近づいてくる。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



優斗が結界の中に入り直ぐに魔物の反応がある方に向かうとそこには簀巻にされて地面に転がっている人間と蜘蛛の魔物に今にも襲われそうに横たわっている少女がいた。少女の側には日本刀が落ちている。それを見て優斗はその少女がただ者ではないと思った。


しかし、今にも蜘蛛の魔物に襲われそうになっている少女を放っておくわけにはいかない。直ぐに優斗は行動に移る。


「大丈夫ですか? 今そちらに行きます」


優斗は少女に声を掛けると少女と魔物の間に分け入った。少女には優斗の声からなんだかしらないが優しさを感じた。そして優斗を見てほっとする。少女の目には優斗の体から溢れるような霊力が見えた。その霊力も少女に安心感を与えるような優しい輝きをしていた。


しかし、少女は退魔師として関東を束ねている家の出自で関東近辺の退魔師とはそれなりに面識がある。目の前の少年から霊力は感じるが彼を見たことが無かった。女郎蜘蛛は上級の妖魔だ。


そんな妖魔に勝てるような退魔師なら少女が知らないはずはない。それに目の前に現れた少年に強さは感じられなかった。優斗のことをどこにでもいるような普通の少年にしか少女には見えなかったのだ。


少女には霊力を多く有する一般人の様に少年のことを思っていた。


「あ、危ないです。逃げてください」


目の前に立つ少年に少女は声を絞り出し逃げるように言う。しかし少年は動かない。そのとき少女の言葉に反応して女郎蜘蛛が動いた。その顎を少年に向けると糸を吐き出した。


「あ、危ない!」


少女の叫び声があたりに響く。女郎蜘蛛の糸は粘着性に優れ獲物を捕らえると硬化して並の人間どころか退魔師でも易々とは引きちぎれない硬さになる。少年を逃がさないように糸に絡めて持ち帰るつもりだ。でも少年は平気そうな顔をしている。


少女は黙って事の成り行きを見ていることしかできなかった。


「このくらい大丈夫ですよ」


少年は何も慌てる様子が無い。それどころか糸はそのまま少年に届くこと無く、少年の周りにある見えない障壁にすべてをはじき返されていた。


「この程度じゃ、俺の自動防御は抜けないよ」


少年の言葉に女郎蜘蛛は怒りを感じたのかそのまま突撃してその鋭い爪で突き刺そうとする。だがその爪は見えない壁に再び阻まれる。ガンガンガンと幾度も見えない壁を叩きつけるが、逆に女郎蜘蛛の爪の方が先に破壊された。


優斗は女郎蜘蛛をうるさく思い腕を振るう。するとその攻撃だけで女郎蜘蛛の足が一本ちぎれて吹き飛んだ。


その光景を見た少女は驚く。少女でも女郎蜘蛛の足を腕を振るだけで吹き飛ばすことは困難だ。


(私の父でもあのようなことはできないでしょう。この少年はなにものなのでしょうか?)


そう思う少女の気持ちを優斗は知らない。優斗はちらりと少女の方を見ると、もの凄い速さでその場から彼女の下へと移動した。


「あのぉー? 大丈夫ですか?」


腰をかがめ少女を守るように女郎蜘蛛に向かい合う。


「……貴方も、退魔師だったんですか?」


「………えっ?」


優斗は退魔師という言葉を初めて聞いた。なんと返答しようか迷ったあげく正直に答えることにした。


「俺は退魔師ではないです。一般人です」


その言葉に少女が驚いた顔をする。一般人が女郎蜘蛛の糸の攻撃を防げるはずがない。それにこの目の前の少年は腕を振るだけで女郎蜘蛛の足を吹き飛ばしたのだ。


「えっ!? 本当に一般人なんですか?」


「はい」


少女はそう言う少年のことを不思議に思ったが退魔師に伝わる星詠みの儀で今日少女は運命の相手に会うと予言を得ていた。なので、その少年がただ者ではないと思った。そして優しそうな霊力を纏う少年が自分の運命の相手だと少女は認識した。


「それよりもあなたの容態はどうなんですか? まだ戦えますか?」


「あまりよくはありません。女郎蜘蛛の毒にやられて体が思うように動きません。それにさっきも攻撃を受けたばかりなんです」


「そうですか。おっと」


「キキキッシャー! 貴様、私の足をよくも引きちぎってくれたな。もう赦さないぞ!」


(この魔物みたいなのは喋るんだな。知性がありそうだ)


(この魔物は、日本では妖魔と呼ばれています。種類は女郎蜘蛛です)


女郎蜘蛛がこちらに向かってきたので再び自動防御でその攻撃を受ける。衝突と同時に障壁が光り輝き見えない障壁も膜が張ったように見える。


自動防御の障壁は並大抵の攻撃では貫けない。見えない障壁が完全に女郎蜘蛛の攻撃もその巨体の突進も防ぎきっている。


「あの女郎蜘蛛の攻撃をいとも簡単に防ぐなんて凄いです」


少女自身、目の前で展開されている障壁の強さに驚きを隠せないでいた。あの女郎蜘蛛の攻撃をここまで連続してまともに受け続けても破壊されないほどの結界の術を扱える退魔師がこの業界にどれだけ存在するか。


「怪我が治ればこの魔物を倒すことが出来ますか?」


「万全の状態、でしたら。女郎蜘蛛程度におくれはとらないですよ」


「分かりました。ではあなたを万全の状態にします」


少年はそう言うと「パーフェクトヒール。ディタックスファケーション」と唱えた。


「えっ?」


すると少女の体が淡い光を発して直ぐに消えた。


「これで動けるようになったはずです」


困惑する少女だったが、すぐにその疑問は氷解した。身体の痛みが消えていく。妖毒自体の効果も消えているようだ。同時に身体が回復している。


「これは……」


「これで戦えるようになりましたか?」


「……はい」


「でしたらあいつの始末は任せます。あなたは退魔師なのでしょう? あの化け物を倒すのはあなたの仕事です」


「感謝します」


少女は立ち上がると、少年に礼を述べると、愛刀を構える。少女は女郎蜘蛛の足による攻撃をみごとに避けて懐に入り女郎蜘蛛の腹に一太刀あびせて切り裂いた。


「ギャー!!」


女郎蜘蛛はその痛みに悲鳴を上げる。そして後退る。少女は女郎蜘蛛との間合いを詰めて3mもの高さまで飛び上がった。


「やあぁぁぁぁっ!」


裂帛の気合いの下、霊刀を振り上げ、力の限り振り下ろす。霊刀から光が溢れると、女郎蜘蛛を一刀両断した。


「ギィィィィィィッッッッ!!!???」


断末魔の悲鳴を上げ、女郎蜘蛛は真っ二つになり、大地へと横たわった。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


息を荒らげる少女だが、すぐに息を整え少年に向き直った。


「ありがとうございます。貴方のおかげで助かりました」


「どういたしまして。じゃあもういいですね? 後は頼みます。俺はもう行きますね」


女郎蜘蛛の巣に捕らわれている者達も、意識を失っているだけで今すぐに死ぬようなことはないと判断した優斗はそのままこの場を後にしようとする。


「あっ! 待ってください」


少女は優斗を呼び止めた。


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