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040 優斗と家族

もう不幸なことにはならないだろうと言う自信が優斗にはあった。優斗は今まで両親に無視されたり妹に悪態をつかれたりしたことを許す気でいた。そして暗示で仲の良い家族だったという記憶を両親に与えた。妹には優斗が理想通りの兄で大好きなお兄ちゃんという記憶を与えた。


ラノベ小説でお兄さんが大好きな妹が登場する物語を読んだ時に妹の美香がこんな感じの妹だったらいいなと常に思っていた。優斗の知識はラノベの知識に偏っている。それほど人との交流が無かったのだ。


そして闇魔法を終える。すると両親と妹の視点があっていないようなうつろな目が正気を取り戻していく。そして両親と妹は何もなかったかのように自分の席に座った。本当にさっきまでの緊張した様な状況は一変した。


「えへへへ、お兄ちゃんだ。今日もお兄ちゃん成分を吸収させて……」


そう言い妹の美香は優斗に背中から抱き着いてきた。優斗はそんな美香の行動に驚いてビクっとする。そういう妹の行動に優斗は慣れていなかった。でもそこまでブラコンになるような魔法はかけていない。


(叡智、これはどういうことだと思う?)


(マスターが邪神に運の値を弄られなかったら妹さんはそういうようにマスターに接するように育つはずだったのでしょう。妹さんは魔法による悪い影響は受けておりません)


(まあ、それなら良いんだが、あまりにも前と対応が違い過ぎて調子が狂う)


(まあ、嫌われるよりは良いじゃないですか、我慢してください)


「お兄ちゃんなんでビクってするの。こんなのいつものことでしょ」


本当に美香はブラコンになったようだ。優斗はどういう態度で接していいか分からない。なんせ初めて美香に仲良さそうに話し掛けられているのだ。戸惑うのは当たり前だった。


「そ、そうだな。いつものことだな。可愛い美香に抱き着かれて驚いただけだよ」


そうして苦し紛れの言い訳をする。そうするのが精いっぱいだった。


「ふふふ、可愛いだなんて……。あれ? お兄ちゃんのこと大好きなのに今までこういうことあったっけ? んー……」


美香は今までこんなに優斗と接したことがあったか考え込んだ。優斗はそんな美香を見て苦笑いする。いつもだったら悪態をつく妹が優斗べったりになったのだ。優斗はそのことが嬉しくてたまらない。


「そんなこと良いじゃないか。優斗も美香も席につけ。ご飯が冷めるぞ。さあ食べよう」


今まで優斗と口を利くことをしなかった父親の修二が久しぶりに優斗の名前を呼んだ。優斗はそのことに感激した。そして美香は優斗から離れて席に座る。優斗も席に座った。それを見て母親の和子も席に座る。


「そう言えば優斗と最近話をしたことが無い気がするな」


修二がそんなことを言い出した。そんなのは当たり前のことだった。


「そうね。私もそんな気がするわ。どうしてかしら」


和子もそのことを不思議に思っているような顔をする。そのことは仕方がない14年近く優斗と両親はまともな会話をしたことが無いのだから。


「そんなことないよ」


優斗は苦笑いしながらそう答えるしかない。そしてどう話を誤魔化そうか考える。


「そうか? まあいい。優斗学校の方はどうだ」


優斗は今日学校をやめる決意をしたところだった。いきなりそんな質問が来るとは思わなかったので驚いた。しかし素直に学校をやめることを告げることにした。これからはなんでも話せるような家族になりたいと思ったからだ。


「言いにくいんだけど。俺は学校をやめようと思う」


「なにっ! どうしてだ?」


「俺は学校で虐めにあっていたんだ。だから学校に行く気はないよ。明日学校に行ったらもう行かない」


修二は優斗が学校で虐められていると聞いて驚いた顔をする。しかし、以前にもそんなことを聞いたことがあるような気がする。修二はなんとも言い難いような顔になった。


「優斗は虐めにあっていたの?」


「お兄ちゃん、それは本当なの?」


和子も美香も驚いたような顔をする。そして修二と同じように以前も聞いたことがあるような気がして複雑な思いが胸の奥からこみ上げてくるのを二人は感じた。それがどのような感情かは分からない。でも優斗が虐められていたと言うことを聞いて二人は悲しい気持ちになる。


「うん。俺はずーと虐められていた。だから学校は止める」


「優斗が虐められていたなら学校に抗議しないといけないな」


「学校に抗議しなくても良いよ。自分で決着はつけるから」


「それで大丈夫なのか?」


「うん、大丈夫だよ。俺に任せてよ」


修二は学校に抗議して乗り込んでやろうかと真剣に考えていた。しかし当の本人である優斗に止められてしまう。優斗なりに辛いことがあり彼なりに思うところがあるのだろうとこの時は納得することにした。


しかし、優斗が解決できなければ学校と教育委員会に乗り込んでいくつもりでいた。それくらい優斗が学校で虐められていると聞いて頭に来ていたのだ。しかし、自分の考えがなんだかモヤモヤするような感覚がすることに気づく。それが何なのか修二には分からない。


「分かった。そこまで言うなら優斗に任せるよ。でも学校をやめるのか?」


「もう決断したんだな」


修二と和子は優斗が学校をやめると言う事を残念に思っていたがそれを口にすることはなかった。それを口にするのはなんだかいけない様な気持ちになるのだ。小骨が喉に引っかかっているような不思議な気持ちだった。


「うん。もう決めたことだから」


「そうか。俺はお前を信じるよ。でも学校をやめてどうするんだ。大学はいかないのか?」


「高校卒業検定を受けようと思っている。そして高校卒業の資格は取るつもりでいるよ。大学は今後考えることにする。一応勉強は自分一人で続けるつもりだからそこらへんは心配しないで」


「お兄ちゃん、私は応援するよ」


美香はブラコンになっているので優斗の言う事を全面的に応援することをえらんだ。優斗は美香に応援されて今までのことを思い出しなんだか変な感じがした。でもそれが邪神に悪さをしなけれ美香がそういう性格に育っていたはずだと割り切ることにした。


「美香が応援するなら私も応援しないといけないわね」


「しょうがないな。俺も応援しよう。優斗の人生はお前のものだ。好きなように生きると言い。お前が人生に躓いた時は俺に頼れ」


今まで無視してきた父親にそう言われて優斗は感激して涙を流す。そして今まで優斗のことを不幸にしてきた邪神が許せないと思った。


「なんで泣くの?」


「お兄ちゃん、大丈夫」


隣に座っている美香はそう言い優斗を抱きしめる。優斗は嬉しくなりまた涙を流す。これほど家族に愛されると言う事が嬉しいことだとは思ってもみなかった。優斗に悪さをした邪神のことを優斗はとても怨むことになった。


「ごめん。ついね。さあ、ご飯をたべよう。本当に冷めてしまうよ」


優斗はそう言い美香の腕を取って引きはがす。


「優斗が大丈夫ならそれでいい。さあ食べよう」


優斗は久しぶりに和子の作った料理を食べる。長い間無視されてきた母親だが和子が作った料理を食べてその味を懐かしく感じた。異世界で料理スキルLv.10のシャルルや自分の作る料理を食べてきたせいで少し物足りなさを感じていた。でも母の味を感じてほっとしたのも事実だった。


無事に家族と仲直りが出来て優斗はホッとした。そして食事が終わると自分の部屋に帰り明日に備えて寝ることにした。

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