036 旅立ちの前祝
優斗はスキル創造で包丁と皿を作り出しマスクメロンを半分に切る。そして皿にマスクメロンをのせてスプーンを添えてシャルルに渡した。優斗も皿にのったマスクメロンを手に持った。そしてスプーンでマスクメロンを食べる。
優斗は昔からメロンやスイカを八等分とかではなしに半分を一人で食べるのが夢だった。彼にとってマスクメロンという高級な果物を一人で半分も食べることが出来ると言うことはとても贅沢なことだった。
「この果物は1個1万Sもするんですよ。味わって食べてくださいね」
シャルルはマスクメロンの値段を聞いて驚く。1万Sなんてシャルルの全財産の三分の1の値段だ。驚かない訳が無い。
「そんなに高いものなの? 私が食べても大丈夫なの?」
「いまさら何を言っているんですか。もう半分に切ったんですよ。食べてください」
もう半分に切っているものはもとには戻らない。シャルルはそう思いマスクメロンを食べることにした。
「ありがとう。ちゃんと味わいながら食べるわ」
そう言いシャルルはマスクメロンを口にする。口の中にマスクメロンの味が広がる。今までデザートと言うと優斗はケーキやアイスクリームにクッキーなどを出していた。それでもシャルルは満足だったが調理されていない果物でも美味しいと思った。
「世の中にはこんなに美味しい食べ物があるのね。この村を出たらいろいろな地方の美味しい食べ物を味わうことが出来るかしら?」
「俺はまずこの国のいろいろなところを回ろうと思っています。果物を栽培しているような村があるかもしれませんね。でも俺の故郷の果物に勝てるような果物はないと思いますよ」
シャルルは優斗の言葉に納得する。優斗が出してくれるケーキには果物が乗っていたものも多数あった。その果物はケーキの美味しさに負けないくらい美味しいものばかりだった。優斗と一緒にいればいつまでも美味しいものが食べられるだろうかとシャルルは思った。
そして優斗がどのようにしていつもケーキや果物やお酒を出しているのか不思議に思っていた。でもそのことを優斗に聞くようなことはしなかった。もしシャルルに知られても良いようなことなら優斗がいつか自分から話してくれるだろうと考えていたからだ。
「本当に美味しいわ。これからも優斗と一緒に過ごすと言うことはその間いつまでもこんなに美味しいものが食べられると言うことよね。優斗と離れ離れになって美味しいものが食べられなくなると思うとつらかったわ」
シャルルは別に優斗が美味しいものを出すから優斗について行くと決めたわけじゃない。でも少しはそのことも気がかりだったことは間違いない事実だった。まあ、シャルルがそのことを優斗に正直に話すことはないだろう。
「それが俺と一緒に村を出て行くという気持ちになった本音ですか? 俺は真剣にシャルルさんと一緒にいたいと考えていたんですよ。なんだか残念です」
シャルルは残念そうに不貞腐れたような態度をとる優斗を見て笑いをこらえる。
「冗談に決まっているでしょ。私も優斗と離れ離れになるのが嫌だったのよ。正直に言うと優斗のことは血がつながっていないけど弟のように思っているわ。これからは義理の家族のように付き合って欲しいわ」
「俺もシャルルさんのことを姉のように思っていました。これからは義理の家族として宜しくお願いします」
シャルルと優斗はお互いの気持ちを確かめ合って満足した。そしてお互いが本当の家族と幸せに暮らせていない状況に二人とも少しだけ悲しく思った。その分二人で楽しく過ごそうとお互いに決意していた。
「そういえば、私のレベルを上げるみたいなことを言っていたと思うのだけどあれはそう言うことなの?」
「シャルルさんには初めて話しますけど俺は故郷にいるときに虐めを受けていました。強い者から暴力を受けることを俺は受け入れることが出来ないんです。だから俺はここにきてから魔の森でレベル上げを行って誰にも力でねじ伏せることのできないほど強く成ったんです。俺と一緒に行動するシャルルさんにも強く成って欲しいんです」
シャルルは強いと思っていた優斗が虐められていたということを聞いて悲しく思った。そして優斗が理不尽な暴力に屈しないためにレベルを上げてきたことを知った。自分も今の優斗のように強く成ろうと決意する。
「この世界は弱肉強食です。常に危険と隣り合わせです。この平和な村を一歩出れば強い魔物がいます。魔物以外にも力を持ったチンピラのような輩がいないとも限りません。そんな奴らに負けないだけの強さを持って欲しいんです。だからシャルルさんのレベルを上げるつもりです。どのような理不尽な暴力にも屈することが無いほどに強くしますよ」
シャルルは優斗の決意を聞いてうれしかった。優斗のことが少しでも知れたことに感動した。そして優斗の力になろうと思った。
「私も今までは村の中で弱い部類に入っていたと思うの。村の人たちに見下されて生きてきた。私が弱かったから何も言い返すことが出来なかった。だから優斗に私を強くしてもらいたい。私も理不尽な人たちに一言言えるように強くなりたい。私を鍛えて」
「分かりました。シャルルさんのレベル上げは任して下さい。それ以外にもシャルルさんには自分に自信が持てるようになってもらいたいと思っています。俺に任せてもらえますか?」
シャルルの答えは決まっていた。どこまでも優斗についていく。そして優斗を家族として支えていくと。
「お願いするわ。優斗についていくと決めたんだもの私は強くなるわ」
「では、俺がこれから行うことは誰にも話さないでください。そのことを契約してもらいます」
優斗はそう言い契約のスクロールをスキル創造で作り出した。そしてスクロールに契約内容を書いた。
1,優斗が内緒にするように言ったことは誰にも知らせるようなことはしないこと。
2,優斗のことはむやみやたらに他人に知らせるようなことはしないこと。
3,以上二つの約束を生涯守り通すこと
以上三つのことを契約のスクロールに書いて優斗はサインした。
「シャルルさん、この契約書にサインしてください」
「分かったわ。でもそんなことをしなくても約束くらい守れるわよ」
シャルルはそう言いながら契約のスクロールにサインした。するとスクロールは燃え上がり消えた。契約のスクロールで契約したのでシャルルは約束したことを口にしたり書いて伝えたりすることが出来なくなった。
優斗はいくらシャルルでも一応保険はかけておきたかった。まだ人を心から信じるほどには優斗の心は癒されていなかった。シャルルがそのことを知ったら悲しんだことだろう。もしかしたらシャルルも同じ境遇に近かったので共感したかもしれない。
「有難うございます。これでシャルルさんに自信を持ってもらうことが出来ると思います」
優斗はそう言いスキル創造でポーションを作り出しシャルルに渡す。
「シャルルさん、このポーションを飲んで下さい」
シャルルは優斗に言われるままにポーションを飲む。するとシャルルの体が淡く輝きだす。そしてその光は直ぐに消えた。優斗はシャルルを見てポーションの効果がしっかりと出ていることを確認できた。
「なんのポーションなの?」
「今は内緒です」
次に優斗はこれからのことを考えてスキルをいくつか創造した。採取Lv.10、裁縫Lv.10、礼儀作法Lv.10、接客術Lv.10、交渉術Lv.10、算術Lv.10、変身Lv.10、生活魔法Lv.10、召喚魔法Lv.10などのスキルを創造して取得した。
そして、席を立ちシャルルに近付く。そしてシャルルの頭に触れた。そしてシャルルにスキルをコピーして譲渡していく。それくらいシャルルのことは信頼出来ているつもりだし契約をしているので問題ないと思った。
「何をしているの? 恥ずかしいんだけど……」
「我慢してください。直ぐに終わります」
優斗はそう言いシャルルに動かない様に言う。そしてシャルルの体がまた光りだしてその輝きは5秒ほど続いた。優斗はシャルルを見て自分の思った通りにうまくいったことを確信した。そして鑑定でシャルルのステータスの確認も行った。




