表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/124

035 シャルルの答え

シャルルはビールを飲んだ勢いで優斗に「一緒に行きたい」と告げようと思うともう一人の自分が「もう少しちゃんと考えなさい」と忠告してくる。シャルルはこの二カ月ちょっと優斗と共に過ごす中で彼のことを信用している。


しかし両親を亡くしてから12年の間に村人たちからされた仕打ちを忘れることが出来なかった。シャルルは人を心の底から信じると言うことにどこか抵抗を覚えていた。それだけの心に傷を村人たちから与えられたのだ。その傷は心に打ち込まれた楔のようにシャルルに負の感情を与え続けている。


(優斗を信用しているのにどうしても怖い思いが頭をよぎる。どうすればいいの?)


シャルルは胸を痛めて考え込む。そして顔から血の気が引いて冷や汗が首筋に流れる。優斗はそんなシャルルの異変に直ぐに気づいた。


「シャルルさん、もう少し考える時間が必要なら言ってください。シャルルさんがちゃんとした答えを出すまで俺は待ちますよ。できたら俺と一緒に来てもらいたいと言うのが本音です。こんな美味し料理をまた一人で食べるようになるなんて考えられないことですから。どうか俺と一緒に来てくれませんか? シャルルさんが俺と一緒に来て良かったと思えるように心配りをする自信があります。どうでしょう……?」


優斗は生まれて初めて仲良くなったシャルルと離れ離れになることが嫌だった。お金はある。シャルルと一緒に二人で一生遊んで暮らしても使い切れないくらいだ。


140億(セル)以上あったこの世界のお金も属性竜96匹のうち食べる分に残した6匹の属性竜以外を等価交換して(セル)に等価交換すると(セル)の持ち金は200億(セル)を超えた。寿命が500年になった優斗でも余裕で遊んで暮らせる。


日本で暮らすためにとってある50億円も確保してある。本当に自由気ままにこの世界でも日本でも生きていける。優斗は日本で過ごす時間は90年程だと考えている。90年を50億円で暮らすと考えると余裕で暮らすことが出来る。


だからシャルルを連れて行くのに何も躊躇いはない。シャルルが幸せに暮らせるようになるまで一緒にいることだって出来るはずだと優斗は考えていた。ただ優斗と一緒に行くことをシャルルに迷わせているものが何か優斗は知る由もなかった。


シャルルは優斗が真剣に自分と一緒に村を出ようと言っていることを実感した。ましてやシャルルと一緒に暮らせるように心配りまですると断言している。そこまで優斗に言わせて「一緒には行けない」とは言えない。実際にシャルルは優斗と一緒に村を出たいのだからそんなこと言えるわけがない。


そしてシャルルは本音で優斗と語り合おうと決心する。


「優斗、私は自分の気持ちを正直に話すわ。それを聞いても優斗は私を嫌いにはならない?」


「俺がシャルルさんを嫌いになることなんてありませんよ。正直に思ったことを話して下さい」


優斗のその言葉にシャルルの気持ちが幾分か楽になるのを感じた。シャルルは自分が計算高い女と優斗の思われるのが嫌で本心を優斗に告げられないでいたからだ。


「優斗、私は優斗と一緒にこの村を出て行きたいと思っているわ。でも私は村の人たちが私のことをどのように言っているかを知っているの。私は嘘でも良いとはいいがたいような容姿をしていることをしっているの」


優斗はシャルルのその言葉に気分を悪くする。優斗もシャルルが陰で村人にどのように思われているか知っていた。優斗の五感は通常の人よりも優れている。陰口などは全て聞こえているのだ。


そしてシャルルの話しの続きを聞く。


「そして年齢も25歳と行き遅れと言う年をすでに通り過ぎているような歳だわ。そんな私が優斗と一緒にこの村を出て行って共に過ごすことがいつまでも続くかどうか分からないことが不安なの」


「俺はシャルルさんを見捨てるようなことはしませんよ」


それが優斗の本心だった。シャルルもそのことは頭では理解している。でも心の底から信頼することに躊躇いがあった。


「そうは言っても、優斗だっていつかは愛する人が出来るわ。その時に私のような人が優斗の側にいたら優斗に申し訳ないという気持ちが起るかもしれない。そしてその時に優斗は私が邪魔に思うかもしれない。そう思うと優斗と一緒に行きたいと思う気持ちがだんだん小さくなってくるの。私はどうすればいいの? 優斗、教えてくれる?」


シャルルは胸につかえていたことを全て優斗に話した。優斗はシャルルの言っていることを真剣に聞いていた。そしてシャルルがなぜ優斗と一緒に村を出たいのに躊躇っているか分かった気がした。


(シャルルさんも俺と同じなんだ。見た目で人からいろいろ言われて自分に自信が持てないんだな。そのせいで自分の考えに素直になれないでいる。でも俺はスキル創造で容姿を変えることで自分に自信が持てるようになった。そしてレベルを上げることで他者に暴力で従わざるを得ない状況を変えることが出来たと思っている)


優斗はどうにかシャルルにも自信を持って欲しいと思った。そして決意をする。シャルルも自分と同じように変わればいい。優斗はそう思った。村長であるダンテスの話を聞いた優斗にとってこの村にシャルルを残していくことは出来なかった。


彼女をこの村に残すと言うことは彼女が不幸になると言うことだからだ。ダンテスが元気なうちはいい。しかし彼がいなくなればシャルルの世話を焼いてくれるものがいなくなってしまう。そんなことになってしまう未来を優斗は許すことが出来なかった。


どうしてもシャルルをこの村から連れ出す決意を優斗は固める。そして最終手段を取ることも辞さない覚悟をする。


「シャルルさん、もし俺と一緒に来ることになった場合。シャルルさんを捨てていくようなことは絶対にしません。俺には二人で一生遊んで暮らせるほどの蓄えがあります。安心して俺についてきてください」


「優斗がそう言ってくれるのは有難いわ。でも……」


優斗はシャルルにそれ以上のことを言わせない。そういう迫力でシャルルを説得する。


「俺と一緒に行くとシャルルさんが決断するのであればシャルルさんが幸せに暮らせると俺が保証します。ただ、俺がシャルルさんに今からすることを内緒にしてもらう必要はありますけどね。どうしますか?」


優斗にここまで言われて心を動かさないシャルルではなかった。一抹の不安を振り払い優斗と一緒に行くことを決意した。


「優斗がそこまで断言するなら優斗についていこうと思うわ。私を不幸にしたら許さないわよ」


シャルルは改めて優斗が弟のようにかわいくそしてたくましく思えた。自分の人生を優斗にかけてみようと本心から思った。そして優斗とは血がつながっていないが家族のような存在になれるかもしれないと思った。


優斗はシャルルが一緒に村を出て行く決意をしたことを喜んだ。シャルルのことは優しい姉のように思っていた。初めて仲が良くなった人でもあるし、これからも一緒にいられることを喜んだ。


「シャルルさんが俺と一緒に村を出て行く覚悟をしてくれたことを嬉しく思います。今日はお祝いです」


そう言うと優斗は等価交換で得た冷えた瓶ビールをテーブルの上に出す。そしてシャルルのグラスにビールを注ぐ。シャルルは胸につかえたものを全て吐き出したので機嫌がいい。直ぐに優斗が注いでくれたビールを一気飲みする。


それでも嬉しさがこみ上げてくる。ますます酒が美味しく思えてビールを飲み干す。そんなシャルルの姿を見て優斗は嬉しくなる。そしてビールが無くなると、また等価交換で買ったビールを取り出してシャルルに勧める。


今日はシャルルの気が済むまで優斗は何時まで出も付き合うつもりだ。酒のつまみに枝豆やチーズに焼き鳥も等価交換で購入してテーブルに並べる。シャルルは嬉しそうにそれらを食べながらビールを飲む。


優斗は、悪酔いしなければいいけどなーと思う。シャルルが楽しむと同時に優斗は早く日本に帰って赤城たちに復讐することを誓うのだった。今だけはそのことを忘れて亜空間倉庫(インベントリ)からソラから貰ったアイテムバックを取り出しそのなかからマスクメロンを取り出した。それをこれから食べるつもりだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ