032 ダンジョンマスター③
ソラが満足のいくような顔を確認して優斗は最後に残った3つ目のドアを開けた。そこはドレッサールームになっていた。まだ服は準備されていないようだった。
「優斗様のお好みの服が分からなかったので服は準備していません。申し訳ございません」
ソラはそう謝って来た。
「いいよ。服ぐらい自分で用意できるから気にしないで」
優斗はそう言いソラを気遣う。そしてベランダに続くドアを両開きのドアを開けると正面に湖が見えた。その向こうには森が続いている。とても神秘的な光景だった。優斗は直ぐにこの部屋が気に入った。
とても素敵な光景だった。そして湖や森を見渡す。ダンジョンマスターになって良かったと思った。これでこの異世界に優斗の拠点が一つ出来たことになる。
「この階層は外の季節と連動しています。秋には紅葉が見ものですよ。しかし冬に雪景色になることはありません。この階層は過ごしやすくするために夏は25度以上に熱くなることはなく冬の寒い日でも10度以下になることはありません。勿論、城内は常に室温を23度に保つようにしております」
「それは過ごしやすい環境だね。俺のいた故郷の沖縄みたいなところだと考えれば良いね。まあ夏は沖縄よりも涼しそうだけどね」
優斗は沖縄なんて行ったことはない。でも寒い冬でも暖かい沖縄に憧れていていつか行きたいと思いネットで沖縄の情報を集めていた。その知識でダンジョンの環境が沖縄みたいなところだと思ったのだった。
「沖縄と言うところは存じませんが住みやすい気候にしてあります。湖にはシウリマスという魚がいます。釣りも楽しめると思います」
「魚もいるんだね。釣が出来るのを楽しみにしているよ」
この城は5階建てで最上階は見晴らしのいい展望台になっていた。優斗はソラが作ってくれた城に満足だった。
「そういえば。こんなに広い城なのに働くメイドが5人に執事が2人でまわせるの?」
「大丈夫です。この城には状態を保つ魔法と清浄の魔法が付与してあり常に綺麗な状態にあります。正直言いますと城を維持するために人員は必要ないのです。彼女たちは主に優斗様のお世話をするための人員です」
「そうなんだ。この城は凄いね。城自体が魔道具みたいなものなんだね」
「ダンジョンコアの私にかかればこのぐらいのことは造作もないことです」
「これから果樹園を見に行こうと思う。案内してくれるかい?」
「はい。おまかせを」
ソラがそう言うとまた体が少し浮いた感じがした。そして一瞬のうちに果樹園へと優斗は転移していた。
「ここが地下2層の果樹園です」
「本当に果樹園だね」
優斗が見渡す限り果物がなっている木々がある。そしてその木々は林のようにどこまでも続いている。近くにはオレンジの実がなっている木がある。優斗はおもむろにそのオレンジを取って皮を剥いて食べてみた。
「みずみずしくて美味しい」
「品質の良い実がなる様に調整されています。それにここにある果物たちは外の季節に関係なく年中実がなります。いつでも好きな時に果物を召し上がることが出来ますよ。それと木になる果物の果樹園を抜けると果物の畑が続いています」
ソラに案内されるとリンゴやグレープフルーツに梨に柿といった果物の林を抜けるとイチゴ畑が続いていた。その向こうにはメロンの畑があるという。優斗はイチゴを取って頬張る。
「とても甘くておいしいよ」
このダンジョンにある果物はすべてブランド物の果物だ。そういう果物を選んでソラに登録させている。普段日本で安物の果物を食べていた優斗にとってこのダンジョンの果物は満足のいくものだった。
そして優斗が満足のいく顔を見てソラが嬉しそうな顔をする。ソラが目をつむると次の瞬間100人ばかりの少女と少年が現れた。彼らは皆ソラが優斗に与えたのと同じマジックバックを持っていた。
「この者たちはメイドたちと同じミミックスライムです。この果樹園の果物を採取する仕事を任せるつもりです。採取した果物はマジックバックに納められるので優斗様のマジックバックと繋がっているので好きな時に優斗様は取り出すことが出来ます」
「それは有難いね。俺が果樹園に来て果物を取りに来なくても良いね」
「はい。同じように農園や牧場にもマジックバックを持ったミミックスライムを配置してあります。あと、小麦や大麦は魔法で小麦粉などにしてマジックバックに収納させてもらうので粉ひきする必要はありません。牧場でも牛乳の除菌や製造やチーズにバター生クリームなどの製造もおこないます。それらもマジックバックに収納いたします」
「至れり尽くせりだね。ありがとう。ソラ、とても嬉しいよ。今はそんなに数は必要ないよ。いずれお店を開くときに連絡するからその時に生産量なんかの相談をしよう。それまではソラやミミックスライムと俺が消費するくらいの量の生産をお願いするよ」
「分かりました。そのように取り計らいます」
優斗はソラの話を聞いてダンジョンマスターになって良かったと思った。その後、農園や牧場を視察した。農園もどこまでも続くように畑が広がっていてすでにミミックスライム達が野菜の収穫を行っていた。収穫された野菜はマジックバックに納めていく。
農場ではミミックスライムが乳しぼりをしていた。ソラに聞くとこれからチーズやバターなどを作ると言うことだった。それらもマジックバックに収納するという。これから優斗のマジックバックには様々な食べ物が収納されることになる。
「ソラ、そろそろ帰る時間だから失礼するよ。近いうちにまた顔を出すからその時は宜しくね」
「はい。お待ちしております。優斗様、最期にこのエンブリオの実を食べてください」
ソラはそう言い虹色に輝く桃のような実を優斗に差し出してきた。
「この実はどういう実なんだ?」
「この実を食べると優斗様は進化してハイヒューマンになります。すると寿命が500年まで伸びます。折角、私のマスターになってもらえたのにヒューマンの身では寿命が60~80年と短く思います。どうかこの実を食べて長生きしてください」
「この実を食べると俺だけがハイヒューマンになるんだよね。俺の家族はどうなるの?」
「この実を食べた優斗様が神様に誓いを立てて結婚して番と子作りをするとその番もハイヒューマンに進化します。子供はハイヒューマンとして生まれます。結婚した番がビーストの場合は番がハイビーストになり子供はハイヒューマンかハイビーストが生まれるようになります。子供たちが神に誓いを立てて結婚した番も子作りをすると進化します。優斗様の子孫は進化した種族として繁栄します。しかし進化した種族は子供が出来にくいのでそれだけがデメリットになります。でも子孫が長生きになることは良いことだと思います」
「分かった。メリットの方が多そうだからこの実をいただくよ」
優斗はそう言いエンブリオの実を頬張りすべて食べた。今まで食べたことが無いほど美味しい味に優斗は驚いた顔をする。
「これで長い付き合いになりますね」
「ソラ、これからもよろしくね」
「私はこの城でお待ちしております」
「分かった。ここに来るときは城を訪ねるようにするよ。それじゃあまたね」
優斗はそう言いシャルルと別れたところに転移した。




