025 トカ村の人々
優斗もシャルルと同じように村人には悩まされていた。村を歩いていると突然知らない男に呼び止められて肉を要求されたりする。優斗は肉を分けてあげる義理はないので断っている。しかし話し合いでだめなら力ずくだという感じで掴みかかってくるものまで出て来ていた。
そういう輩に優斗は躊躇うことなく殴りつける。優斗は力任せに人に言うことを聞かそうという人が一番嫌いなのだ。そういう輩を見ると赤城たちを思い出すからだ。一応スキルの手加減と言うのを覚えているので大きな怪我を相手に与えることはない。
それに暴力を振るうような奴に限ってシャルルのことを悪く言っている奴らだった。優斗もいい加減頭に来ていたのでそういうやつらに暴力を振るうことを躊躇わなかった。シャルルは優斗にとって唯一の友達と呼べるような人だったから優斗にとって大切な人なのだ。
まだ男で暴力に訴えてくるのはどうにか対処できるが色仕掛けしてくる女性が一番優斗を困らせていた。彼女たちは村で一番見た目の悪いシャルルが優斗と暮らしているのを見て彼女より可愛い自分だったら優斗に気に行ってもらえると真剣に思っていた。
しかし優斗は自分自身が醜い顔で他者に嫌われていたので彼女たちのそういうたくらみに気付かない。しかしシャルルのことをこけ落とすような話しぶりに嫌気がさしていて全ての女性の色仕掛けを手厳しく躱していた。
女性たちはシャルルと一緒にいるくらいだから自分だったらもっと優斗が喜んでくれるだろうと自信をもって接している。なのに、逆に優斗は機嫌を悪くしていくことが信じられなかった。しまいには顔が良いからと言って調子に乗るなと言って立ち去るものまでいた。
優斗は女性のそういう態度や力任せに言うことを聞かそうとする男たちの態度を見て人と言うのは本当に信じられない生き物だと痛感した。そんななかでシャルルのように優しい人に出会えたことは幸運以外の何物でもないと優斗は思った。
一応、村長のダンテスと奥さんのアンナも優斗は信頼している。二人はお世話になっているシャルルをここまで面倒見てきたような優しさを持っている人たちだ。だから優斗も二人のことを少しだけ他の人よりも優遇している。
レベル上げで狩ってきた魔物の肉をダンテス達だけには分けているし等価交換で得た酒も分けているのがその理由だ。それにシャルルが個人的に世話になっている人たちに魔物の肉を分けているのを知っていても何も言わないようにしている。
シャルルが気に入っている人たちなのでその人たちも優しい人たちなのだろうと優斗は思っている。なんだったら優斗が等価交換で得た酒を渡しても良いくらいだと思っている。しかし肉を配るだけで大変なことになっているのでそこまでは行わない様に自重している。
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シャルルが優斗から一緒に村を出ようと言われてから1カ月近くたった。優斗が一緒に村を出ようと言った後から優斗から同じ言葉をシャルルは聞いたことが無い。シャルルはもう誘われることは無いのだろうかと不安に思っていた。
そう思っているという時点でシャルルの本心は優斗から村を一緒に出ようと誘われたいと思っているということになる。シャルルはそのことを思い知った。しかしどうしても醜い自分が優斗と一緒に行動することを戸惑わせる。
シャルルは何度も何度も優斗と一緒に旅に出ることを想像する。しかし自分に対するコンプレックスが優斗と一緒に行くことを拒んでしまう。どうしても優斗のことを信じることが出来ないでいる。
この1カ月半ほど優斗と一緒に過ごして優斗が良い人だと言うことは十分シャルルは理解している。優斗のことを信用できると確信している。しかし踏ん切りがつかない。そう思う程シャルルは村で異物のように扱われてきた。
もちろん村人全員がそういう人ばかりではない。シャルルが生まれたときから付き合いのある隣人はシャルルに良くしてくれている。しかし同年代の者たち大半はシャルルのことを罵るものが多い。シャルルが孤児になってから彼女に対する態度を変えたものまでいる。
その大半は村長の子供である次期村長の意をくんでいる者たちだ。彼らはシャルルを見るたびにシャルルが悲しむような言葉を彼女にぶつける。シャルルはずっとそのことに耐えてきた。
優斗が来てからシャルルの生活環境は一変した。まえはガリガリに瘦せ細っていたシャルルだがいまは肉付きが良くなっている。優斗がシャルルにちゃんとしたご飯を食べさせてくれているからだ。力の出る肉を毎日食べているしデザートを食べているので肉がつくのは仕方がない。
シャルルがお風呂に入る様になって身綺麗になっていたことや肉付きが良くなってきたことで村人達が不思議に思っているときに村長の息子のジャンが爆弾を落とした。優斗が魔の森に入って魔物を狩って美味しい肉を毎日持ち帰ってきていることを村人に話したのだ。
シャルルはその一部をもらい受けて晩御飯に使い余った分を隣人でシャルルに優しく接してくれていた人たちに分けていた。そのこともばれてしまった。狭い村なのでその話は誰もが知ることとなった。
美味しい肉のことを知った村人たちは優斗に分けてくれと頼むようになったが優斗は肉を分けなかった。優斗は食べる以外の肉は全て等価交換でお金に換えていたのでそれを肉に変えてまで村人に与えるつもりはなかった。
優斗は村人たちがシャルルのことを良く思っていないことを知って無視したのだ。人離れした聴覚は村人たちがこそこそとシャルルの悪口を喋っている言葉をとらえていた。優斗からしたらお世話になっているシャルルの悪口を言っているような者たちに肉を分けて与える義理は無かった。
優斗が分けてくれないので村人たちはシャルルに肉を分けてくれるように頼みに来た。頼みに来たというよりは命令に近い言いかただった。シャルルが優斗から与えられている肉の量は晩御飯に使うと5人分余るかどうかの量しか貰っていない。当然村人全員に分け与えるだけの量はない。
それにシャルルのことを悪く言うような者たちに肉を分けようとはシャルルは思わなかった。それでもしつこくシャルルに絡んでくる村人たちがいた。シャルルはそんな村人たちの態度にへきえきとしていた。
そのことがシャルルをこの村から出て行きたいというように思わせていた。また毎日食べる料理もシャルルに優斗についていきたいと思わせていた。優斗の作る料理はどれも美味しい。勿論、料理のレシピを優斗に教えてもらったシャルルも同じものが作れる。
しかし同じものを作るにしても優斗が居なければ調味料が無い。レシピを知っていても調味料が無ければ料理は作れない。優斗がいなければあの美味しい料理をシャルルは食べることが出来ないのだ。1カ月半近く優斗と過ごしていて美味しい料理を食べてきたシャルルはもう元のように塩味だけの食生活に戻ることが出来ないと思った。
二カ月も考えることなくシャルルは優斗と一緒に村を出て行こうと心に決めていた。あとは優斗に嫌われないように注意を払うだけだと思った。
そう決心したら心が軽くなった。しかしそこまで思っても優斗のことを全面的に信用することが出来ない自分がいることにシャルルは気づく。そのことを忘れるように今日も薬草採取を頑張る。




