024 シャルルへのお誘い
外は夏で暑かったのでアイスケーキが良いだろうという考えもあった。日本も7月で夏だったので季節は似たようなものだった。まあRoomの中は常に23度に保たれているので涼しいくらいだ。料理を二人は食べ終えたので優斗は早速デザートを出した。
「今日のデザートは見た目的に可愛いわね」
「俺も食べたことがないから一緒に食べて楽しみましょう」
シャルルはアイスをホークで救い口に運ぶ。そして驚いたような顔をする。
「甘くて美味しい。そして冷たい。冷たいものを食べるのは初めてだわ」
「それはアイスクリームっていう食べ物です。俺の住んでいる所では一般的なデザートだけど、こんな風にケーキにのっているのを食べたことはないです」
優斗はアイスとケーキを一緒に頬張る。
「美味しいです。俺もこんなに美味しいのは食べたことがありません」
家族に無視されていた優斗がケーキを食べるのは家族と自分の誕生日くらいだった。家族からは無視されていただけで虐待を受けていなかったので愛情以外のものは普通に与えられていた。しかし必要以上のものは買い与えられていなかったのでアイスでできたケーキなんて今まで食べたことがなかった。
「優斗も初めてだったんだね。美味しいわよね。冷たいし下のケーキに挟まれているイチゴという果物も美味しいわ。こんなに美味しい食べ物を食べられるのも優斗がいる間だけだよね。残念だわ」
優斗はシャルルの話を聞いて切り出すなら今だと思った。
「それじゃあ俺がこの村を出て行くときにシャルルさんもついてきますか? 丁度一人で旅を続けるのは寂しいなと思っていたところです。どうですか?」
シャルルは優斗の言葉に驚く。そして優斗と共に行きたいという感情が湧き上がる。それと同時に自分の容姿へのコンプレックスから優斗と一緒に行動しても良いのだろうかと考えた。
孤児でいることや容姿のことで村人たちに良く思われていないことをシャルルは知っている。ガンズのようにあからさまにシャルルに悪態をつく者もいる。シャルルは肩身の小さな思いをしてこの村で争いなどを起こさないように過ごしてきた。
そんなシャルルに対して優斗は優しく接してくれる。そして優斗はシャルルに対してとても気を使ってくれる。そんな優斗と一週間ではあるがとても楽しく過ごすことができている。
シャルルは天涯孤独の身だった。両親はシャルルが13歳の頃に魔物に殺されていた。シャルルは村長の厚意によりこの村で生活できていた。今までは村長のダンテスとアンナだけがシャルルの心の支えだった。今では優斗もその中に含まれている。
しかし、13歳から今まで村人たちのシャルルに対する態度から他人を彼女は信用できなくなっていた。優斗についていってもいつか裏切られるのではないかと考えてしまう。そういう考えが浮かぶと優斗についていくことを躊躇ってしまう。なかなかいい考えが浮かばない。
シャルルは優斗と離れることを考えるとだんだん悲しくなってきた。しかしどうしても自分に自信が持てない。ついに俯いてしまい声が出なくなった。
優斗はシャルルの胸の内は分からないがシャルルが今すぐに答えを出せる状態じゃないことは分かった。直ぐに答えを出してもらわずに優斗がレベルを上げている間に決めてもらおうと思った。
「シャルルさん。直ぐに答えを出す必要はありません。ただシャルルさんが俺と一緒に来るのであればシャルルさんが幸せになれるように努力しますよ」
優斗はシャルルのことを姉のように思っていた。優しい姉がいたらこんな感じだろうなという感じに考えていた。家族には妹しかいないし無視されているので優しいシャルルにそういう感情を抱くことは仕方がないことだった。
シャルルの方も家族がいないので優斗のことを弟のように思っていた。第一印象は素敵な男の子という感じだった。好印象であり命の危機を助けてくれた恩人でもある。しかし10歳近く年下なので恋愛感情までは育たなかった。一緒にいて嬉しい気持ちになることはある。
「優斗の気持ちは嬉しいわ。でもこの村にもそれなりに愛着があるの」
「急にこんな話をされても困ると思います。ゆっくり考えたらいいですよ」
「そうね、少しでも時間を貰えるとありがたいわ。決して優斗と一緒に旅に出ることがいやということではないのよ」
「その気持ちは有難く受け止めさせていただきます。シャルルさんも難しく考えないでください」
「ありがとう優斗。そう言ってくれるだけでも嬉しいわ」
優斗の申し入れを受け入れてゆっくり今後について考えていこうと思った。まだ優斗がこの村を出ていくまで暫くは猶予があると思えばその間に答えは出せるとシャルルは考えた。
「俺はまだしばらくレベル上げするのに時間はかかると思います。その間に答えを出していただければ良いですから」
シャルルは優斗に猶予を貰えて気が楽になった。突然、一緒に来ないかと言われて驚いたが冷静に考えるとその申し出を嬉しく思う自分がいることにシャルルは気付いていた。
「優斗がレベルを上げ終わる前に答えは出すようにするわね。もし一緒についていくことを選んだときはよろしくお願いします」
「はい。ゆっくり考えてください。僕はできればシャルルさんと一緒に旅に出たいと思っていますので」
「分かったわ。いい方向で検討するわ」
時間の猶予はまだある。しっかりと未来を見据えていろいろ考えたうえで答えを出すのが良いだろうとシャルルは思った。本心はこの村以外のところにも行ってみたいという気持ちがある。でもその気持ちを優斗に押し付けるわけにはいかないと考える。難しい選択をシャルルは迫られていることになる。
「シャルルさんと一緒に旅ができると思うと楽しい気持ちになるのは本当のことですよ」
優斗にそう言われて気持ちが楽になるのをシャルルは感じた。このまま優斗に甘えても良いかとさえ思うようになる。しかし、こんな自分が優斗と一緒にいても良いのかと不安にもなる。それだけシャルルは村で嫌われていることがトラウマになっていた。
「優斗ったら嬉しいことを言うのね。そう言われると照れるわ」
「冗談で言っているわけじゃないですからね。俺は本気ですよ」
「ますます嬉しいわ。ありがとう。その気持ちは受け止めておくわ。ところで優斗は旅に出ると言うけど、どこに行こうと思っているの?」
「先ずは、隣のバネット公爵領に行きたいと思っています」
シャルルは態々評判の悪いバネット公爵領に行くという優斗の気持ちが分からなかった。もしシャルル自身が自由に旅に出られるとしたら一番避けたい場所だからだ。
「どうしてバネット公爵の領地に行きたいの?」
「このトカ村の領主は良い領主と聞きました。そして隣のバネット公爵は悪い領主と評判があります。治める領主の差でどれくらい住み心地が違うのか知っておこうと思ったんです」
優斗はシャルルと共にこの世界に住むならいろいろな経験をしたいと考えた。そして悪いと評判の隣の領主のことが気になったのだ。
「もし優斗と旅に出ることになったら私もバネット公爵領に行くことになるのね」
「はい。そうなります」
「そのことも考慮に入れて優斗と一緒に旅に出るか考えてみるわ」
「そうしてください。もし一緒に旅に出るなら俺がシャルルさんを守りますから、安心してください」
「その時はよろしくね」
それからデザートを食べながら優斗がどこに旅に行きたいかということになり優斗はこの国の王都に先ずは行ってみたいと答えた。シャルルも一度くらいは王都に行くのもいいなと考えた




