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022 村長のお願い事

ダンテスは意を決したような顔をする。その顔は真剣そのものだった。優斗はその雰囲気を感じて身構える。


「どのようなお願いですか?」


「お前はいま16歳だったよな。どう見ても幼く見えるがもう立派な大人だ。それにお前はキングミノタウロスを一人で狩るくらいに強い」


「はい、強さには自信があります。そのことが何か関係があるのですか?」


「まあ、話を聞け。その歳でキングミノタウロスは知らないがミノタウロスを一人で狩ることができたんだよな。Bランクのミノタウロスを倒すにはBランクの冒険者が4.5人のパーティーを組んで倒すと聞いたことがある。君はそいつを一人で倒した。しかも俺が聞いたことのないキングミノタウルスをも一人で倒している。そうだね」


「はい。一人で倒しました」


「ミノタウロスを一人で倒すことができる君は、16歳でAランクの冒険者と同等の力を持っていることになる。将来SランクやSSランクの冒険者になるのも可能だろう。君一人でAランクの冒険者と同じくらいの稼ぎがあれば屋敷を構えて人を何人か雇うことは可能だろう。どうかこの村を出ていくときにシャルルを雇って一緒に連れていってくれないか? シャルルの家に世話になるくらいだ彼女のことを悪くは思っていないだろう?」


優斗が知らないことだったが旅人は普通村長の家に泊まる。村長の家ではなくシャルルの家に泊まるということは優斗がシャルルのことを信頼しているとダンテスは受け取った。シャルルも出会ったばかりの優斗を何の躊躇いもなく家に泊めている。シャルルもある程度は優斗を信頼しているのだろう。そんな優斗にシャルルを任せてみようとダンテスは考えたのだ。


「突然そんなことを言われても困ります。俺は人を雇うことなんて考えてもいなかったんですから」


ダンテスは困ったような顔をする。その顔を見て優斗の心は揺らぐ。優斗はこの世界でレベルを上げて赤城に復讐することしか考えていなかった。他者に虐げられるような生活を送らない程度で地球で暮らせれば良かった。異世界で暮らすことを前提にすることを今まで考えたことが無かった。


「そこをどうにかお願いできないだろうか。さっきも話した通り。俺が生きている間はシャルルの面倒を見ることができる。しかし俺ももう60代だ。いつ死んでもおかしくない年齢なんだ。俺が死んだら誰もシャルルの面倒を見る者はいない。今のように薬草採取とゴブリンの内臓や魔石だけでは生活はできなくなるだろう。今のうちに誰かに彼女を託したい。そしてこの村に彼女を託せるような者はいない。お前だけが頼りだ。どうにか彼女を雇ってくれないだろうか? お願いだ」


優斗は暫く考え込む。その間ダンテスは机に頭をつけてお願いしている。その姿にダンテスの真剣さが表れている。ダンテスの話を聞いても優斗は決してこの世界に住み着こうなんて思っていない。


しかし、ダンテスが頭を下げ続けている彼の姿を見て少しずつ優斗の考え方が変わってくるのを自覚した。世界を行き来するときに日付を入力しなければ異世界のドアを使って世界を渡ったその時間に移動できる。つまりこの世界でいる間に地球の時間は進まない。また地球にいる間に異世界であるこの世界の時間は進まない。


簡単に地球と異世界であるこの世界での二重生活ができるということだ。この世界で過ごす間はシャルルの面倒を見ることができるのではないかと優斗は考えた。ダンテスは優斗が口を開くまで頭を上げそうにない。


「はぁー。分かりました。俺が村を出ていくときにシャルルさんを連れていきます。しかしシャルルさんが俺についてくるかはシャルルさん次第です。彼女が俺と一緒に来てくれるかは分かりませんよ」


結局、優斗が折れる形となった。優斗はシャルルを養うだけのお金は持っている。シャルルにこの世界に来て初めて会ったのも何かの縁だと思うことにした。それに、将来シャルルが不幸になると言われて黙っているわけにはいかなくなった。


「優斗がシャルルを雇う気になっただけでもありがたいよ。お前がシャルルに話をしてダメなようなら私から話をしよう。それでダメなら諦めるしかない」


ダンテスは嬉しそうな顔でそう言った。なにか胸につかえていたものが取れたような表情をしている。


「俺もシャルルさんをできるだけ説得してみますよ」


「よろしく頼む。俺の申し出を受け入れてくれてありがとう。とても嬉しいよ。今日は飲もう。優斗君が持ってきた赤ワインを飲むぞ。アンナなにかつまみを作ってくれ」


「この前ダンテスさんと酒を呑んだのが初めてだったんです。お付き合い程度飲むだけで勘弁してください」


優斗はこの前の甘口の日本酒を飲んだのが初めての経験だった。その時は美味しいと思ったが、日本酒はアルコール度が思った以上に高かったので結構酔っぱらったことを思い出した。


「しょうがない。それで我慢しよう」


アンナさんが木のコップを二つ持ってきた。


「つまみは今から作るから先に呑んでいて」


「アンアありがとう。優斗も一杯」


ダンテスはそう言いコップに赤ワインを注ぎ優斗に渡す。そして自分のコップにも赤ワインを注ぐ。そして優斗のコップに自分のコップをぶつける。乾杯のつもりなのだろう。優斗は恐る恐るコップに口をつけて少しだけ酒を飲む。


「意外と美味しいです」


優斗が等価交換で手に入れた赤ワインはフルーティーな味がした。ワインも種類によって味が全く違う。優斗は飲みやすいワインを選んだようだ。


「これはうまい酒だ。こんなにうまい酒を飲んだのは前にお前が持ってきた酒以来だ。高い酒じゃないのか?」


この世界の酒は現代の地球のように洗練された酒じゃないのでさほど美味しくはない。美味しいから飲むのではなく酔う為に飲むといったものが殆どだ。一部の美味しい酒は高額で取引されているのでお金持ちや貴族しか飲むことができない。


「いいえ、そんなに高い酒じゃないですよ」


「俺とお前の価値観は違うようだ」


優斗の持ってきた酒は一口飲むと甘さが口いっぱいに広がり美味しい酒だった。ダンテスは酒のうまさに驚いた。そして優斗が富裕層の出自で間違いないと思い。シャルルを任せられると改めて思った。


「優斗、本当にシャルルを頼むぞ。シャルルは俺とアンナにとっては娘同然だと思っているんだからな」


「決して悪いようにしませんよ。それにまだシャルルさんの意見を聞いていませんので今すぐお答えすることはできません」


「まあいい。お前がシャルルのことを雇ってくれると言ってくれたことだけでも嬉しいことだ」


ダンテスは優斗がシャルルのことを見放さなかっただけでも儲けものと思っていた。そして優斗の説得が失敗した時は自らシャルルに言い聞かせるつもりでいた。


「そう言ってくれると助かります」


「さっきも言ったが、優斗の説得でシャルルが優斗についていかないようなら俺が説得するからな。一応、その覚悟だけはしておけよ」


「分かりました」


それから夕食の時間になるまで優斗とダンテスは酒を飲んで過ごした。陽が落ちる前に優斗はダンテスの家を出てシャルルの家に向かった。

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