001 プロローグ①
九条優斗は誰からも愛されていなかった。そして高校二年生になったが学校では酷い虐めにあっている。生まれたときは両親から愛情を受けていた。しかし顔立ちがしっかりしてきたころから優斗の容姿の悪さに気付いた両親は衣食住に不自由がないくらいしか優斗に構わなくなった。
優斗の両親は二歳年下の妹の美香が生まれてからは優斗の育児はほうっておいて美香ばかり可愛がっていた。そんな美香は誰もが見惚れるほど可愛く育っていった。美香は今、優斗が卒業した母校である北上中学校の美少女ランキングで1位を取るほど人気だ。
そんな妹を両親はますます可愛がり優斗は以前にも増してほっとかれるようになった。学校では虐められて家庭では両親からさえも愛情を受けられずに優斗は育った。学校での虐めを担任の教師に相談しても教師は問題を解決しようとはせずに優斗が悪いという始末。
両親に学校で虐められていることを報告してもなにもしてくれない。だから、優斗は虐めのことは両親にも相談できず教師からも見放されてどうすることもできなかった。美香も醜い兄である優斗を嫌っている。
美香が物心ついた時期から今まで兄妹に会話はない。思春期に入った美香は醜い優斗と顔を合わすと悪態をついてくる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今、優斗は学校の男子トイレの鏡の前にいた。鏡に映っている顔は醜く体は太っている。そしてまだ高校二年生だというのにもかかわらず頭の毛が薄くなっている。額が若干後退しているのが見て分かる。
(こんな容姿じゃ虐められるのも無理ないか)と優斗は諦めの境地に至っていた。
今は放課後で優斗はクラスの赤城光輝に体育館裏に来るように言われている。緊張して尿意を感じたので体育館裏に行く前にトイレによっていた。週に一度くらいの割合で体育館裏には呼び出される。
呼び出されるのとは別に毎日のように虐めは受けている。
「……そろそろ行くか」
優斗はそう呟くとトイレを出る。そして体育館裏を目指して歩き出した。校舎を出て体育館に向かうために運動場に差し掛かった時に赤城の腰巾着である田代信二と横山拓海みに優斗は見つかった。
「お前、呼び出していたのにこんなところにいたのか?」
「逃げたと思ったぜ」
田代がにやりといやらしい笑顔を浮かべる。優斗はその顔を見て背筋が凍る思いをする。
「……別に逃げるわけじゃ」
「お前が逃げても家まで迎えに行くからな」
「逃げられると思うなよ」
そう言い二人は優斗に近づき両腕で片腕ずつホールドして優斗を引きずるように体育館裏に連れていこうとする。その光景を部活をしている生徒たちは見ているにもかかわらずだれも優斗を助けるようなそぶりを見せない。
優斗はそんな見て見ぬふりをする連中を見てもなにも感じなくなっていた。
「逃げないから腕を離して……」
「離すことは出来ない」
周りで見ている生徒たちは引きずられていく優斗を見て笑っている者までいる。その中には女子生徒も含まれる。学校の女子生徒の中で優斗は醜い男として有名だった。クラスでは席替えの時に優斗の隣の席のくじを引くのさえ女子は嫌がる。
優斗は田代と横山につれられて体育館裏にたどり着いた。そこには優斗を虐めているリーダー格の赤城とギャルとして学校で人気のある早乙女瑠奈とその友達である一色沙織と三波詩音がいた。
早乙女瑠奈は髪の毛をシルバーアッシュカラーに染めていて背中まで伸びた髪の毛を首のあたりで巻き上げている。顔はとても小さく整っていて優斗から見ても美人に見えた。
早乙女の取り巻きの一色沙織も見た目はギャルだが可愛らしい顔をしている。三波詩音もギャルで二人に劣らないくらい整った顔をしている。そういう学校のトップに君臨するような美人三人に醜いと見下されて嫌われていることを優斗は悲しく思っている。
「やっと来たか。俺から逃げられるとでも思ったのか?」
赤城は両腕を田代と横山に押さえられて身動きが取れない優斗の腹に拳を打ち込む。優斗は避けることが出来ずにもろに拳をくらい息が出来ずにせき込む。
「ゴホッ。ゴホッ」
「ハゲデブの分際でよくも学校に来られるもんだな。その顔で道を歩くのが恥ずかしくないのか?」
赤城はそう言いまた拳を腹に打ち込む。
「げほっ」
「良い気味ね。汚い目でいつも私を見てくるあんたが嫌なのよね」
「それは誤解だ。朝教室に入るときにたまたま早乙女さんと目が合っただけだよ」
「そんな言い訳しないで、キモイから黙って」
クラスで一番人気のある早乙女の言葉が優斗の心にぐさりと刺さる。この学校では誰も自分の味方をしてくれないのかと悲しみがあふれ出す。そして優斗の目尻から涙がこぼれる。
「こいつ泣いているぞ」
「うっけるー。マジでないてんの? 高校生にもなって恥ずかしくないの?」
田代と三波の言葉がさらに優斗の心を傷つける。そんな優斗の横っ腹に横山の肘打ちがはいる。その痛みに優斗は耐えきれない。
「やめてくれ!!」
余りの痛さに優斗は叫び声をあげる。それでも三人の暴行は収まらない。集団リンチだ。
赤城たち三人はなにが楽しいのか分からないが笑いながら優斗を痛めつける。殴る蹴るの連続。優斗は息をするのもやっとの状態で三人の暴行がやむのを涙を流し叫び声をあげて耐えるしかなかった。
暫くして殴り疲れたのか優斗に暴行を加えている主犯格の赤城がせき込んで倒れている優斗の腹に一発蹴りを打ち込んで暴行行為がいったん収まった。
「がはっ、ゴホッ」
「おいハゲデブ。お前生意気なんだよ。これだけ虐められたら普通学校に来なくなるだろ。なんで学校に来るんだよ。お前が学校に来るだけで腹が立つんだよ」
「惨めなものね。醜いあんたを庇う者が一人もいないんだから」
倒れている優斗に赤城と早乙女は優斗を責め立てる言葉を吐く。ただ醜いというだけでなぜここまでされないといけないのか。優斗は悔しくて仕方がなかった。でも優斗には三人にたいして殴り返す勇気はない。
この場で反抗したらますます三人の暴力がヒートアップするに違いないからだ。その上自分でも認めるくらい酷い容姿を悪く言われても返す言葉が見つからない。
(本当に情けない)と優斗は思った。
そして田代の蹴りが優斗の顔面を襲った。優斗の鼻から血が流れる。
「汚いんだけど……」
「醜い顔がますます醜くなったわね」
ここで止めの一言とばかりに一色と三波が言葉の追い打ちをかける。
「おい、田代。顔はよせ。跡が残る」
「大丈夫だってこんなクズは誰も気にしないさ……」
赤城の言葉に反省した様子が無い田代。彼らは優斗を虐めることで優越感にひたっていた。優斗を見下すことで自分が少しだけ偉く思えるのだ。
「キャハハ、マジうけるんですけど……」
早乙女は鼻血を流す優斗を見て嗤声を上げる。その言葉を聞いて優斗は顔は美人なのに内面は伴っていないとがっかりする。そして男たち三人は地面にころがって鼻血を流している優斗の姿をスマホを出して写真におさめている。
優斗はそんな自分の写真が撮られていることに恥ずかしさを感じて顔をそむける。顔をそむけたことに怒りが湧いた赤城が腹を蹴り上げる。
「げほっ、げほっ」
「スマホをみろ。顔を背けるな」
そう言い優斗が顔をスマホに向けると赤城は再び写真を撮り始める。
写真を撮り終えた赤城が最後に優斗の腹をけり上げる。その後、倒れている優斗を残して六人は体育館裏からいなくなった。