018 異世界の二日目 夜
シャルルはもう何度目か数えるのもばからしくなるほどの驚きを覚えた。そして気持ちを落ち着けると村長の家のドアをノックした。
するとアンナさんが家から出てきた。
「シャルル。今日は早く帰ってきたんだね。薬草いっぱい取れたのかい?」
「はい、今日は少しだけ森の中まで入ったのでいっぱい薬草が取れました」
そう言い背中に背負っている籠をアンナに見せる。
「いつもより多いね。今日は何と交換する?」
「昨日オークの肉と交換した野菜があるので小麦粉でお願いします」
「少し待ってな」
アンナはそう言い家の中に入っていった。そして壺に入った小麦粉を持ってきた。シャルルは満足そうに小麦粉を受け取る。
「壺は後で返しますね」
「いつでも良いよ」
シャルルの用事がすんだので優斗がアンナに話し掛けた。
「アンナさん、ミノタウルスの肉はいりますか?」
「えっ!? ミノタウルスの肉だって!?」
アンナは驚きのあまり目を丸くする。この村でミノタウルスを倒せるような者はいない。ミノタウルスの肉なんてアンナは見たことも食べたこともない。ただとても美味しい肉だと噂で聞いたことがある程度だった。
「はい、ミノタウルスの肉です。今日狩ってきたのでお裾分けです」
優斗はそう言い亜空間倉庫で解体したミノタウルスの肉を5kgほどアンナに差し出した。アンナはなんとも言えないような顔をしてその肉を受け取った。その肉の塊を見てシャルルも驚いていた。
「ありがとう。ミノタウルスの肉が食べられるなんてなんて良い日だい。優斗、私はミノタウルスの肉なんて噂でしか知らないんだよ。本当にありがとう。野菜も持っておいき……」
アンナはそう言い家の中に入っていって今日収穫したばかりの野菜を沢山腕に抱えてやってきた。
「こんなに野菜を貰っていいんですか?」
「これでも足りないくらいだよ。あの量のミノタウルスの肉なんて金貨5枚はするよ」
「そうですか。では野菜は有難く頂いていきます」
野菜は葉野菜だったので優斗は丁度良かったと思った。今日の晩御飯はミノタウルスのすき焼きにするつもりだったのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
家に着くと優斗たちは直ぐにRoomの中に入った。そして優斗はシャルルに風呂に入るように勧めた。今日もシャルルが風呂に入っている間に優斗がご飯の準備をするつもりだった。しかしシャルルは自分が作りたいと言い出した。
シャルルはRoomのキッチンを使ってみたいと思っていたし、朝も弁当も優斗が作ってくれていたので夕食ぐらいは自分で作ってあげたいと思っていた。
それに、優斗にRoomの使い方を魔法で教えてもらったので、同じような方法で料理のレシピも教えを乞うことができると考えていた。
「優斗の魔法で料理の作り方を私に教えてください。それなら私がつくれるはずです」
「俺が作った方が早いと思いますが?」
「それでは、優斗さんのお世話になりっぱなしで嫌なんです。お願いします。夕食は私に作らせてください」
シャルルが頑として譲らないので優斗は諦めてシャルルに任せることにした。
「分かりました。それじゃあお願いします」
優斗はシャルルに料理の仕方を覚えさせる前に、せっかくだから美味しく料理を作ってほしいと思った。そしてスキルコピーとスキル譲渡のスキルを創造した。シャルルに料理の作り方を記憶させるときに料理Lv.10のスキルをコピーしてシャルルに譲渡した。
「どうですか? 今日の料理のすき焼きの作り方は覚えましたか?」
「ばっちりです。しっかりと覚えました。しかし足りない材料があるようですがどうしますか?」
「それらは俺の方で用意します。亜空間倉庫の中に入っていますので」
優斗は亜空間倉庫に入っていると言い、等価交換で足りない食材を購入していく。優斗はすき焼きに足りない豆腐や白菜に長ネギ、椎茸、しらたきなどと卵にザラメの砂糖を等価交換で買い付けて台所に出した。
ミノタウロスの肉は亜空間倉庫ですき焼き用に薄く切り分けられている物を多めに出した。
「醤油とみりんは冷蔵庫にありますのでそれを使ってください。コメはこれを使ってください」
優斗は台所の下の棚にある米櫃を指さした。
「分かりました。有難うございます。優斗さんは先にお風呂に入ってください」
「先にお風呂を頂きますね」
優斗は晩御飯の支度をシャルルに任せて風呂に入った。湯船につかりながら今日狩った魔物の死体を等価交換で日本円に換金した。全部換金すると576万円と13,000ポイントになった。
「これで日本での生活もらくになるな」
30分ほど経って風呂から出るとすき焼きの甘い美味しそうな匂いが部屋中に満ちていた。すぐに優斗はダイニングに向かって席についた。
テーブルの上には鍋に入ったすき焼きとご飯と卵と受け取り皿にお箸が準備されていた。優斗が席に座ったのでシャルルも席に座った。
「美味しそうですね。頂きます」
そう言い優斗は早速ミノタウロスの肉を箸でつまんで口の中に入れる。ミノタウロスの肉は柔らかくて口の中に入れると解けるように口の中に消えていった。
「美味い!!」
シャルルは初めて作ったすき焼きの味が大丈夫か心配だったが優斗の「美味い」という一言を聞いて安心した。
「本当ですか?」
「本当に美味しいです。シャルルさんも早く食べてみてください」
「それでは頂きます」
シャルルもミノタウロスの肉を頬張る。その美味しさに顔がほころぶ。こんなに美味しい料理を今までに食べたことが無かった。
「美味しいです」
「おかわりも沢山あるのでじゃんじゃん食べましょう」
「はい、沢山食べますよ。でも、デザートの分は別腹です」
シャルルはそう言いすき焼きを美味しそうに食べる。すき焼きを食べきったころに優斗は等価交換で購入したプリンアラモードをテーブルの上に取り出した。
「今日のデザートです。どうぞ食べてください」
「美味しそうです。頂きます」
シャルルはプリンを食べて幸せそうな顔をする。優斗が取り出すデザートはどれも甘くて美味しい。
「美味しいです。こんなに美味しいものを食べることができて幸せです」
シャルルの嬉しそうな顔を見て優斗も幸せを感じた。今までは家族との会話もない食事だったけど、シャルルとの食事は特別なもののように優斗は感じた。
シャルルも今までは家族がいない生活だったが優斗が来て思いがけない幸福を味わっていた。そして優斗がいつまでもこの村にいてくれれば良いのにと思うようになった。




