015 異世界での二日目 朝
異世界に来て次の日優斗は気持ちよく起きることができた。いつもなら学校で虐められることを思いベッドから起きる気力もないほどだったが異世界に来て魔物と戦えるほどの力を得たことで気持ちが晴れやかだった。
ベッドから起きて部屋を出る。シャルルはまだ起きていない。優斗は朝ごはんの準備をする。朝は軽いものが良いだろうと思い優斗はサンドイッチを作ることにした。それと等価交換でミルクを購入する。
そのころシャルルはいつもより寝心地が良いベッドでフカフカの布団のなかで気持ちよく眠っていた。普段、シャルルが寝ているのは麦わらが詰められているベッドで決して質の良いものではなかった。普段布団の代わりにしているのも狼の毛皮を縫ったものが使われていた。
そんなベッドで寝ていたシャルルが優斗の準備した高級ベッドで寝過ごすのは仕方ないことだった。
優斗は朝食のサンドイッチとミルクをテーブルに二人分準備をしてからシャルルの部屋のドアをノックした。何度かノックしてやっとシャルルの声が聞こえた。
「すみません。今、おきました。直ぐにいきます」
「慌てなくても良いですよ。ゆっくりと準備してください」
シャルルは見たことが無い大きな鏡に自分の姿を映して髪の毛を整える。ドレッサーデスクにはブラシやドライヤーの魔道具も準備されていた。それらの使いかたは昨日優斗の魔法で覚えさせられている。準備が整いシャルルは部屋を出る。
シャルルが部屋を出ると優斗が朝食を準備して椅子に座って待っていた。シャルルは頭を下げて優斗の下に向かう。
「すみません。寝坊してしまいました」
「気にしなくていいですよ。朝ごはんを食べましょう」
「……あのベッドがいけないんです。凄く寝心地が良いのがいけないんです。とてもぐっすり寝てしまいました」
「あははは。気にしないで良いですよ。ほら食べましょう」
「うー……。頂きます」
シャルルはサンドイッチを頬張る。サンドイッチにはシャルルが初めて食べるレタスとトマトとハムが挟んである。それにマヨネーズとマスタードが使われている。初めて味わうサンドイッチの味にシャルルは驚く。
「美味しい」
そう一言呟き味わいながらサンドイッチを食べ続ける。優斗は地球で当たり前のように食べているサンドイッチをシャルルがどういう思いで食べているかなんて予測もつかなかった。
「そんなに喜んでもらえると作った甲斐があります。お替りもありますから遠慮なくたくさん食べてください」
「有難うございます。本当に優斗さんが作る料理には驚かされてばかりです。すごく美味しいです。こんな味の料理は初めてです。後で作り方を教えてください」
「分かりました。後で作り方を魔法で教えます。冷蔵庫に調味料はありますので好きに使っても良いですよ」
「嬉しいです。今度は自分で作ってみたいです」
シャルルは優斗が進めたのでサンドイッチのお替りをしてお腹がいっぱいになるまで食べた。優斗は多く作っておいて良かったと思った。実はお昼の弁当用にカツサンドも作っていたがお昼にシャルルが弁当箱を開くまで内緒にすることにした。
食事が終わってシャルルは今日の予定を優斗に聞いてきた。
「優斗さんは今日はどのように過ごすのですか?」
「俺は魔物を狩ってレベル上げをするつもりです。シャルルさんはどうするのですか?」
「私は薬草集めです。薬草を集めて村長の家に持っていって食べ物と交換してもらうんですよ。村長はその薬草を行商人に売ってお金にするんです」
「それじゃあ、森まで一緒に行きましょう」
「はい。準備してきます」
シャルルはそう言いRoomを出ていった。優斗は食器をクリーンの魔法で綺麗にして棚に片づけてRoomを出た。
Roomをでると籠を背負ったシャルルが待っていた。優斗は創造でオリハルコンでできた魔力を10万溜めておけて身体強化と自動防御の魔法を付与した腕輪を作った。それをシャルルに渡す。
「シャルルさん、この腕輪を手首に嵌めてください」
「そんな高そうなものを貰うことはできません」
シャルルは金色に輝く腕輪が高いものだと思い断わる。だが優斗は諦めない。
「これはそんなに高いものではないですよ。俺が作ったものです。これがあれば魔物に襲われても平気です。どうか受け取って下さい」
優斗は無理やりシャルルの腕を掴んで手首に腕輪を嵌めた。腕輪はシャルルの手首につけるとちぢみ手首からずれ落ちないようにぴったりとしたサイズになった。自動サイズ調節の付与もちゃんとしてあったのだ。シャルルはそんな優斗の行動にお礼を言うことしかできなかった。
「ありがとう、大事にしますね」
腕に腕輪が嵌められたことでようやくシャルルは諦めて腕輪を受け取った。腕を掴まれたシャルルは顔を真っ赤にしていた。そのことに優斗は全く気付いていない。
「じゃあ、森に行きますか」
「はい」
シャルルが歩き出そうとしたときに優斗はシャルルに声を掛ける。
「シャルルさん。歩いていくと時間がもったいないです。転移していきましょう」
「はい!? 転移ですか?」
「はい、転移です。俺は時空魔法が使えるんですよ」
シャルルは優斗の言葉に呆気に取られて一瞬固まる。時空魔法というものは物語に出てくるような魔法で実際に使える人間なんてこの世にいるか分からない魔法だった。シャルルは魔法に詳しくはないが転移するような魔法がただの魔法でないことは理解していた。
「転移先はシャルルさんが昨日ゴブリンに襲われていたあたりで良いですね」
「……そ、そこで良いです。お願いします」
シャルルは一瞬何も考えることができなくなって優斗に返答するのが遅れてしまった。まあ、シャルルからしたらそれも仕方がないことだった。優斗はまだこの世界の常識を知らなかった。
「じゃあ行きますよ。転移」
優斗が言葉を発するとあたりの景色は一瞬で変わりシャルルと優斗は森の端近くまで転移していた。そのことにシャルルは驚く。もう優斗に驚かされるのは何度目になるだろうかとシャルルは思った。そんな彼女の気持ちなど優斗は知る由もない。
「それじゃあ、シャルルさんは薬草採取を頑張ってください。これはお昼ご飯として食べてください」
優斗はそう言いカツサンドの入ったランチBOXとミネラルウォーターの入ったペットボトルをシャルルに渡した。渡すときにペットボトルのふたの開け方をシャルルに教えた。
「俺は森の奥に行って魔物を狩ってきますね」
「は、はい、行ってらっしゃい」
「行ってきます」
そう言うと優斗はシャルルの前から消えた。
「あっ、行ってしまった。本当に転移魔法が使えたんですね。優斗さんは何者なのでしょうか?」
シャルルは物語の中に出てくるような転移を使う優斗が何者なのか気になって仕方がなかった。




