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012 シャルルの家③

食事がすんでシャルルは優斗の顔を見る。シャルルはテーブルの上にあるケーキが気になって仕方がないようだ。そんなシャルルを見て優斗は苦笑する。


「優斗さん。ケーキを食べても良いですか?」


とうとうシャルルは我慢の限界に達したようだ。初めて見るケーキに興味津々だ。優斗はそんなシャルルの行動が可愛く見えた。年上のシャルルにそういう感情を抱くのは失礼だと思ったが、シャルルはケーキを目の前に我慢できない子供のようなので仕方がない。


「勿論いいですよ。どうぞ食べてください」


シャルルはスプーンで一口ショートケーキを頬張る。そして幸せそうな顔をする。


「美味しいです。こんな美味しいものは初めてです。木苺より甘いです」


シャルルは果物より甘い食べ物を食べたことが無い。ケーキの甘さに驚いた顔をする。シャルルじゃなくてもこの世界の貴族でもケーキなど食べたことが無いのが当たり前だ。そのことを優斗は知らない。


「それは良かったです。準備したかいがありました」


シャルルのケーキを食べる手が止まらない。優斗はマグカップにオレンジジュースを入れてシャルルに差し出す。シャルルはケーキを食べる手を止めた。


「この飲み物はなんですか?」


「これはオレンジジュースと言います。果物を絞った飲み物です。美味しいので飲んでみてください」


シャルルは優斗の勧めに従ってジュースを一口のんだ。オレンジジュースも濃厚な果物の味がして甘くておいしい。シャルルはまた目を丸くする。そして一気にオレンジジュースを飲み干す。


優斗は空になったシャルルのマグカップにオレンジジュースを注いであげる。


「お替りまであるんですね。ありがとうございます。この飲み物も美味しいです。こんな美味しいものを頂けてとても嬉しいです。優斗さんにどう感謝していいか分からなくなってきました」


「そんなに畏まることはありませんよ。俺がいる間は毎日お菓子をお出ししますよ」


シャルルはその言葉を聞いて満足そうな顔をした。そしてケーキを黙って堪能した。ケーキを食べながら優斗はシャルル知りたいと思っていることを聞いてみた。


「この国の名前はなんというのですか?」


「優斗さんはこの国に転移されてきたので知らなかったのですね。この国はウクライーナ王国という名前です。そしてこの地を治めているのはダンケル男爵です。大きな貴族ではないですが民に優しい貴族だそうです。税金も他の貴族より少ないと村長が言っていました。隣の領地はバネット公爵が治めているんですが食べるのにも困るくらい税金が高いそうですよ」


優斗は少なくても食べ物に困っている村ではないことに安心した。そして隣の領地を治めるバネット公爵という貴族に関心を持った。


(どこの世界にも悪徳貴族っているんだな)


(そうですね。この国にも多くの悪徳貴族がいるようです。そういう貴族には関わらないようにしてください)


(分かった。そうするよ)


「そうですか。この村のシャルルさんに保護されて俺は助かりました。隣の領地に転移していたら食べ物を分けてもらえなかったかもしれませんね」


「私もそう思います。この村で一番貧乏な私でさえ優斗さんに食べ物を分けることができているのもダンケル男爵のおかげだと思います。まあ、食べ物は優斗さんが持ってきたオークの肉と野菜を交換できたからですけどね」


シャルルは貧乏な暮らしをしている。本来なら優斗に満足な料理を出すことができなかった、しかし、優斗が出したオークの肉と多くの野菜や小麦粉と交換できて助かっていた。


「本当にいい領主様のようですね」


「そうですね。そうは言っても私は他の領地に行ったことはありません。行商の商人の方もこの領地の領主様を良い方だと褒めていました」


それからこの村はウクライーナ王国の東の端にあり魔の森に隣接していることや魔の森の向こう側には誰も行ったことが無いのでどうなっているか分からないということだった。優斗がマップで確認すると魔の森の向こうにはウルゴスラードという国があった。


しかし、魔の森の魔物が強いので森を越えてウルゴスラードという国に誰も辿り着くことはできていない。逆に言えば魔の森のおかげでウルゴスラードという国と争いになるということはなかったとも言える。


その他に大陸の情報や他の国の情報などシャルルは知らなかった。それも当然のことだ。一村人がそのような教育を受けているはずがない。


食事が終わり優斗はシャルルと一緒に村長を訪ねて、この村にしばらくやっかいになることを伝えることにした。村長の家は村の真ん中付近にあった。他の家に比べて大きいので優斗は直ぐに分かった。



村長の家に着くと木戸をノックする。すると年配の女性が出てきた。


「シャルルです。奥さん、村長はいますか?」


「ああいるよ。なにかようかい?」


「はい、こちらの優斗さんがしばらく村にやっかいになりたいそうなので案内してきました」


「こんにちは。優斗と言います。しばらくこの村でやっかいになろうと思っています。よろしくお願いします」


「こんにちは、私はアンナだ。旦那に用事があるんだね。いるからちょっと待っといておくれ」


アンナが家の中へみえなくなってからしばらくして60代くらいの老人があらわれた。


「やあ、シャルル。今日も薬草を持ってきたのかい?」


「いいえ。今日薬草は取れませんでした。ゴブリンに襲われてしまって……」


「見た感じ怪我はしていないようだね。無事なようで何よりだ。魔物には気を付けるんだよ」


「はい。気を付けます。こちらにいる優斗さんに助けてもらいました」


「そうなのか。私はダンテスと言う。この村で村長をしている。優斗君、シャルルを助けてくれてありがとう」


「いいえ、通りかかったところでシャルルさんが襲われていたのをたまたま助けただけです」


「それでもありがたいよ。良く助けてくれた。それで何か用事かい?」


「はいしばらくこの村で過ごしたいと思います。その間シャルルさんの家でやっかいになりたいのでご挨拶にお伺いしました」


「そうかいそうかい。遠慮なしに村に滞在すると良い。シャルル、優斗君の世話は任せたよ」


「はい、お任せください」


「これは俺の故郷の酒です。つまらないものですが飲んでください」


優斗は村長への土産と思って等価交換してあった日本酒を村長へ渡した。村長は酒を貰ってご機嫌になった。


村長は優斗の噂を村の主婦たちから聞いていた。内気なシャルルが見たこともない美少年を村に連れ込んだという噂は直ぐに村中に広まっていた。


「……あ、ありがとう。遠慮なく頂くよ。優斗君はオークを倒したそうだね。村で噂になっているよ」


村長は優斗に貰った透明な瓶に入っている酒を見て驚いた。ガラス製品なんてとても高価なものだ。そのガラスの瓶に入っている酒が普通の酒だとは思えなかった。


「どうしてそれを……」


「シャルルがオーク肉と野菜を交換した時に優斗君の話をしたみたいでね。みんな久しぶりのオークの肉だったので噂していたんだよ。そのあたりの話しを聞きたくてね。少し話をしないかい? シャルルは先に帰っていていいから」


「そうですか。私は先に帰っています。優斗さんは話が終わったら私の家に来てください」


「分かりました。それではお邪魔します。シャルルさんまたあとで」


優斗はダンテスの手招きで彼の家に入った。


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