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011 シャルルの家②

シャルルが料理を終えて優斗の方にやってくる。料理が入った木の皿を持っている。この世界の一般的な器は木でできている物を使っているようだ。シャルルはテーブルの上に料理を並べる。そしてテーブルの上にあるケーキに気付いた。


シャルルは美味しそうな匂いのするケーキに興味を示す。


「優斗さん。それはなんですか? 美味しそうな匂いがします」


「ケーキというお菓子です。白くて赤い果物がのっているのがショートケーキ、茶色いのがモンブラン、果物がたくさんのっているのがフルーツタルトというケーキです。食事の後に食べようと思って亜空間倉庫(インベントリ)から取り出しました。シャルルさんの分もあるので一緒に食べましょう」


優斗はシャルルに等価交換のスキルのことは内緒にしておこうと思った。叡智が言うには等価交換は優斗だけが持っているスキルで珍しいものだから内緒にしておいた方が良いという意見だった。


シャルルの顔がぱっと明るくなる。シャルルはお菓子なんていうものを初めて見た。シャルルだけでなくこの村に住んでいる者でお菓子なんて見たことがある者はいないだろう。


「ケーキと言うんですね。私お菓子なんて生まれて初めて見ました。食べるのが楽しみです。優斗さんはお金持ちなんですね」


この世界では農民がお菓子を食べるという習慣がない。興味深そうにお菓子を見るシャルルを見て優斗は微笑ましく思った。早く食べてもらいたいが食事の後までお預けだ。我慢してもらうしかない。


シャルルはお菓子を亜空間倉庫(インベントリ)から取り出してシャルルに振舞うくらいだから優斗はどこかの御曹司か貴族だと思った。優斗の着ている服も麻でできた服ではなく高そうな生地が使われているのも優斗が貴族と間違われる原因となっていた。


「俺はお金持ちなんかじゃないですよ。俺の国では誰でもお菓子をたべることができるんです」


日本では誰でも食べることができるお菓子を初めて見たということを聞いて、優斗は自分が恵まれた国に生まれたんだなと思った。そしてアフリカのとある国のカカオ農園で働いている子供がチョコレートを食べたことが無いというニュースをみたことがあったなと優斗は思い出した。


地球でもそういう国がいまだあるということを再認識した。ますますシャルルにケーキを食べてほしいと思った。


シャルルは優斗の国では庶民でもお菓子が食べられると聞いて驚く。シャルルが住むウクライーナ王国では一般庶民は平民でもめったにお菓子を食べることができない。一生お菓子を知らずに死んでいく人が殆どだ。


「誰でもお菓子を食べることができる国なんて羨ましいです。優斗さんの生まれた国は豊かな国なんですね」


シャルルは本当に羨ましそうに優斗を見ていた。シャルルからしたらお菓子を国民のみんなが食べられるような国なんて夢のような国だ。優斗はそんな国から来たという。


優斗の住む国は御伽噺に出てくる楽園のような国だろうとシャルルは想像した。シャルルはそんな国があるなんて信じることができなかったのだからそう考えても仕方がないことだった。


「俺を泊めていただければ、その間は夕食後にシャルルさんが食べるお菓子を用意しますよ」


その言葉を聞いてシャルルがほほ笑む。シャルルにとってはとても良い申し出だった。宿屋で一泊分の料金を貰うよりもケーキというお菓子を買った方が高いのではないかとシャルルは考えた。


それだけお菓子という食べ物は高価なものだった。ウクライーナ王国の下級の貴族でもめったに口にできない食べ物だ。


「本当ですか? それならこの村に優斗さんがいる間はこの家に泊まってください。そして、私にお菓子食べさせてください」


そう言い前のめりになり優斗に顔を近づける。シャルルは嬉しいあまり優斗と顔が近づいていることに気が付いていない。優斗は顔が熱くなるのを感じた。


「分かりました。分かりましたから離れてください。この村にいる間はシャルルさんの家にお世話になります。その間はオークの肉もあげますのでよろしくお願いします」


シャルルは今の自分の体勢を理解した。そして、顔を赤らめて優斗から離れる。シャルルは自分の大胆な行動にびっくりした。10は年下の優斗に対して顔を赤らめたことに恥ずかしさを感じた。


「それは有難いです。残りの料理も運んできますね」


シャルルはそう言って竈に向かう。シャルルが準備した料理はオークの肉が入った野菜炒めとオークの骨付き肉でだしをとって野菜の入ったスープとナンのような小麦粉でできたパンだった。


料理がテーブルの上に並べられて直ぐに食事となった。シャルルは野菜炒めを口に頬張りナンのようなものを一口サイズにちぎって食べている。優斗もシャルルの真似をして同じように料理を食べる。


野菜炒めとスープは塩で味が調えられていた。塩味だけにしては美味しいと優斗は思った。


「美味しいです。シャルルさんは料理が得意なんですね」


「それほどでもないですよ。でも今日は半年ぶりにお肉が入っているので美味しく作れました。それに使っている肉がオークの肉だから美味しいんですよ」


優斗はその話を聞いて驚いた。現代日本人だと食べたいときに肉を食べられるのは当たり前だ。その当たり前のことがこの世界では違うのだと優斗は思った。


そして、豚肉よりも美味しいオークの肉に夢中になる。こんなに美味しい肉を食べたのは初めてだった。


(叡智、オークの肉は美味しいな)


(マスター、この異世界では魔力を多く含んでいる肉ほど美味しくなります。魔力を含まない豚肉より美味しいのは当然のことですよ)


優斗は叡智の言ったことに納得した。そしてラノベやネット小説で魔物の肉が美味しいと言っている創作物が本当のことを言っているのだと感心した。


「肉はそんなに貴重な物なのですか?」


「はい、肉は貴重ですよ。猟師はいますけど猟師でも倒せるホーンラビットは警戒心が強くてなかなか狩ることはできないんです。私は貧乏なので猟師が狩った肉を買うことができないんです。それに強いオークを倒せるような猟師はこの村には居ません。オークを狩ることができるのは門番のガンズさんだけですから。オークの肉はこの村では高級品です。それに家畜も祭りの日くらいにしか食べることはできません」


「そんなに喜んでもらえるなら喜んでオークを狩ってきますよ」


優斗ならオークが何匹現われても傷を負うことなく倒すことができるだろう。


「有難うございます。嬉しいです」


シャルルは美味しそうにご飯を食べている。優斗はそんなシャルルの顔を見て嬉しく思った。そしてまたオークを狩ってこようと心に決めた。

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