113 ダンジョン内のサーキット場
三人はそれぞれが選んだ車に乗り込む。そして車のキーを回す。しかし魔力で走る車なのでエンジン音や車が震えるようなことはない。とても静かにエンジンは始動した。その感覚に美香は感動する。車はブルブルいうとエンジンで震えるものだと思っていたからだ。
作った優斗でさえそう思っていたくらいだ。シャルルは実際に車に乗るのが初めてなので車と言う乗り物に乗ったことに関して感動していた。
そして美香が先に車を走らせた。
「凄い。走ったよ」
美香はギアチェンジをして更に加速していく。スタート地点から2kmくらい直線コースが続いている。車は物凄く加速していく。スピードメーターは少し走るだけで320kmを超え始めた。それでも美香は平気な顔で車を運転している。
運転技術Lv.10の効果と精神耐性Lv.10の効果で美香は怖いもの知らずになっていた。それに飛行魔法でなら美香はそれ以上に早く飛ぶ頃が出来るのでこれくらいのスピードに恐れることはない。
そしてカーブに差し掛かった時に少しだけ減速する。減速はしているがエンジンの回転数はそれほど落ちていない。美香は初めて運転するにもかかわらずカーブをドリフトして曲がっていった。
それを見ていた優斗は興奮する。そして優斗も車を走らせる。それに続いてシャルルも車を走らせた。優斗は日本では感じられない解放感に感動していた。そしてアクセルを思いっきり踏み込む。そしてストレートのコースの端までアクセルは踏みっぱなしだった。
そしてカーブに差し掛かり車をドリフトさせてカーブを曲がる。その時に横に押しやられるGを感じて感動する。そしてまた次のカーブがやってくる。そこでもドリフトしてカーブを曲がる。そして直線のコースに出る。すると躊躇わずにアクセルを思いっきり踏み込む。
そして、車はまた加速していく。以前に祈里とゲームセンターで遊んだレーシングカーのゲームとは全く違う乗り物だった。やはりゲームはあくまでもゲームなのだと思った。
シャルルは初めて運転する車に感動していた。ペダルを踏むだけで車が進んでいくことに驚く。でも、地球の知識で知っているし優斗に運転技術を叩き込まれているので車のギアをチェンジして加速させていく。そして地面を物凄い速さで走る車に感動していた。
シャルルもカーブに差し掛かる。知識で得ているドラフト走行でカーブを曲がる。そして反対に折れ曲がるカーブに対しても柔軟に対応してドラフトでカーブを曲がる。直線コースにでてまたアクセルを踏み込む。そして車のスピード感に酔いしれる。
美香も優斗も車のスピード感に酔いしれていた。そしてもっと早くコースを回ろうとアクセルを踏み込む。カーブでタイヤが摩擦しようと構わない。優斗が作った車は自動修復が付与されている。すり減ったタイヤも直ぐに元に戻るのだ。
車で10周ほどして美香は満足してピットインする。優斗とシャルルも美香がピットインするのを見て車を止めた。
「どうだった? 満足したか?」
「とても満足したよ。初めて運転したけどうまく運転で来たよ。スキルの効果ってすごいんだね」
「私も初めて乗る車に興奮したわ。初めてだったけど良い乗り物ね」
美香とシャルルは車にとても満足したようだ。優斗自身も車の運転が出来て満足だった。早く二十歳になって車の免許が欲しいと思ったくらいに楽しかった。
次に優斗はバイクを創造した。そしてシャルルと美香にレーシングスーツとフルフェンスのヘルメットを渡した。美香は赤い色、シャルルは黄色、優斗は黒にした。車の色で優斗が勝手に選んだ。
シャルルと美香はもう優斗が何をしても驚かない。三人は更衣室に行って着替えて戻って来た。美香は赤いバイクにまたがってエンジンをかける。やはり魔力で動くバイクなのでエンジン音はしない。
シャルルは黄色い色のバイクにまたがった。そしてエンジンをかける。優斗はあまった黒いバイクにまたがる。もう三人はそれぞれの色が固定されたようだ。
そして美香がバイクを走らせ始めた。凄いスピードで直線コースを走り抜けてカーブで膝がつくほど車体を倒して曲がり切る。いっぱしのレーサーのようにバイクを乗りこなしている。
実際にレースに出たら優斗達三人に勝てるような相手はいないだろう。それ程スキルの恩恵はすさまじいものがあった。ましてや三人のステータス自体が尋常ではないのだからしかたがない。
シャルルが美香に続いてバイクを走らせる。それに続いて優斗もバイクを走らせる。気が済むまでバイクを乗りこなして三人はピットインした。
「車も良いけどバイクは直接風が当たって最高だね」
美香は興奮しているようにそう呟く。シャルルも車と違った満足感に酔いしれていた。
「この乗り物だと細い道も走れるわね。リアースで乗れないかしら?」
「それはやめておいた方が良いよ。リアースの道は舗装されていないからガタガタして乗り心地が悪いと思うよ」
「そうなの? がっかりだわ」
「でも、ここでならいくらでも乗れるから良いじゃないか」
「そうね。ダンジョンで楽しむことにするわ」
「美香もまた車やバイクに乗りに来たいな」
美香も車やバイクを運転することに満足しているようだ。とても嬉しそうな顔をしている。優斗は二人の満足そうな顔を見て嬉しく思った。そして、この階層を作ったことが正解だったと思った。
「丁度いい時間だからお昼にしようか? ミゲルに頼んでオークキングのカツサンドを作ってもらっていたんだよね」
「美香もお腹がすいたよ」
「私も車の運転に夢中になりすぎてお腹がすいているのを忘れていたわ」
優斗は亜空間倉庫からダンジョン攻略の時に作っておいたテーブルと椅子を取り出してセットする。そして三人は椅子に座り食事を楽しむ。
「シャルルさんは飲み物何にする? 私は冷えたビールが欲しいわね。それに枝豆があったら欲しいわ」
優斗は冷えたビールと枝豆を等価交換で購入してシャルルに渡す。
「美香はどうする?」
「明日は日本に帰るんでしょ。なら私もお酒が飲みたい。日本に帰ったら吞めなくなるから」
優斗は昨日美香に出したジュースの様な味のする酒を美香に手渡す。美香は瓶のまま酒を呑み始める。
「なんだか大人になった気分」
「酒を呑んだだけで大人にはなれないけどな」
「お兄ちゃんは細かいなー。気分よ、気分」
「まあ、そういう気持ちは分からないではないけどな」
「私も日本ではお酒は禁止になるのかしら?」
シャルルは今は15歳になっているが実際は25歳で大人だ。酒を自由に飲む権利があると思っていた。しかし、日本では酒は二十歳からと決まっていることを知っている。
「シャルルさん、日本では酒は禁止だぞ。それに車やバイクの運転も禁止だ。ましてや酔っぱらって車の運転をするのは絶対にしてはいけないことだからね」
「分かっているわよ。日本では酒は飲まないわ。そのかわりに週に一度はリアースに帰ってくるようにしてね」
優斗はシャルルの言っていることは理解しかねるが酒が好きなシャルルのことだからリアースに来た時に酒を呑みたいのだろうと推測した。
「週に一度くらいなら帰ってきても良いよ。俺もその予定だから」
ダンジョンで楽しく遊べるのだ。来ない手はないと優斗は考えていた。
「美香も一緒にダンジョンに来るよ。置いてけぼりにしないでよね」
「分かっているよ。三人で来られるようにするよ。隣の領地にも早く行ってみたいしな」
「そうね。優斗はそんなことも言っていたわね」
「ああ、あの悪徳領主のいる領地のことだよね」
優斗は美香に異世界の話をするときに悪徳領主には気を付けるように話してあった。
「そうだぞ。その領地を見て見たいと思っているんだ。シャルルさんのいたトカ村とどれくらい差があるか知りたいんだ」
「私も興味があるわ。早く行けると良いわね」
「遅くても一カ月後には行くつもりだから。さあ、次の乗り物のところに行こうか」
優斗がこの階層に準備したのはサーキット場だけではなかった。優斗は二人を連れてサーキット場の外に出る。そこでシャルルと美香は大きな湖を目にした。




