111 シャルルと美香のダンジョン攻略パーティー③
セルゲイが優斗の下にやって来た。
「優斗様、用意が出来ました」
「そうか、直ぐにバルコニーに行くよ」
優斗は飲み物を飲んでくつろいでいるシャルルと美香を誘ってバルコニーに出た。そのバルコニーからは城の前に広がる湖の全体が見渡せた。
「ここは眺めが良いわね」
「美香も素敵な所だと思うよ」
ダンジョンの地下だと言うのに空に突きがあり星がきらめいている。とても不思議な光景だった。
「さあ、これからが楽しみだよ」
優斗がセルゲイを見て頷く。セルゲイは念話でどこかに合図をおくる。すると……。
ヒューーーー! ドカン! と言う音が響き大きな花火が夜空に咲いた。
「す、すごいわ。これが花火ね」
「綺麗だね」
それから花火が次々と夜空に上がっていきドカンと音を立てて花開く。美香は異世界で花火を見られて喜んでいる。日本にいたときは滅多に花火を見に行くことはなかった。美香が花火を見に行くとナンパされるのでそれが嫌だったのだ。
シャルルは地球の知識で花火は知っていたが初めて生で見る花火に唖然として言葉が出ないくらい感動していた。
優斗は二人の表情を見てシャルルと美香を驚かせる作戦がな功したと自信を持った。この日の為に農園で働いているミミックスライムに花火打ち上げ職人Lv.10を与えて練習させてきたのだ。花火や打ち上げる装置は優斗がスキル創造で作り上げたものだ。
次々に秋の夜空に花火が上がっていくそして花開く。花火は連続して上がっていく。そしてドカン! ドカン!と連続して花火が花開く。日本の夏祭りの花火大会と遜色ない量の花火が打ちあがる。
ウクライーナ王国は秋の三の月なので少し肌寒いくらいの季節になっている。城のある地下一階層は地上の森のダンジョンは外の季節と同じ季節になっているのでダンジョン内では少し肌寒く感じるような季節になっている。
優斗は今日の為に一万発もの花火を用意してあった。普通、日本でこれだけの花火をそろえると2億円はかかる計算になる。でも、優斗の場合はスキル創造で作った物なのでお金は一円もかかっていない。
湖畔には地下の農園や果樹園や農場や海と山で働いているミミックスライム達が花火を見るために集まっていた。そして、花火を見てみんなが大きな声だして喜んでいるのが城にいる優斗にも分かった。
シャルルと美香は花火に夢中になっている。花火は湖面にも映っていて二倍綺麗に見えた。1時間も花火が上がりそれが終わると二人は満足したような顔をしていた。
「お兄ちゃん、花火、凄かったよ。今度はお母さんたちにも見せてあげたいな」
「優斗、花火を見せてくれてありがとう」
「今度はうちの家族も連れて来てまたパーティーをやろうな」
そう言って優斗はシャルルに近付く。美香は花火が終わると自分の席に先に行ってしまった。今、バルコニーには優斗とシャルルに専属メイド二人しかいない。
「シャルルさん、さっきは何故、悲しそうな顔をしていたの?」
「優斗は直ぐに気づいたんだね。実はビュッフェで用意されている食べ物の量を見て隣の領で食べ物が無くて苦しんでいる村人がいると言う話を思い出して居たたまれない気持ちになってしまったわ。私は優斗に会って恵まれた毎日を過ごしているの。それで良いのかと思うときがあるわ」
優斗は飽食の時代を生きている日本人だ。食べ物で飢えると言う事をテレビでしか知らない。
しかし、シャルルのトカ村も不作の年があった。その時には普段食べている量の半分にも満たない食べ物で我慢して次の収穫の時まで過ごしたことをシャルルは覚えている。
「それは、シャルルさんが気にするじゃないよ。俺も、俺の手の届く範囲の人は救おうと思っている。俺は今まで他人の暴力に屈してきた」
シャルルは優斗が他人の暴力に屈してきたとき聞いて驚く。今の優斗からはそのような光景が想像出来なかった。
「優斗は他人に屈したことがあるの?」
「あるよ。その時に、だれも俺を救ってくれる人はいなかった。でも今は違う。俺自身が強くなった。今では俺に暴力を与えていた奴らをやっつけるくらいに強くなった。俺が他人に暴力を振るわれているときに見て見ぬふりをしていた人たちのことをどうとも思っていない」
「そうなんだね。見て見ぬふりをしている人たちもいたんだね」
「そうなんだよ。人を助けるにはそれなりの力を持つ必要があるんだよ。その人たちは俺を救う強さを持っていなかった。だから俺を救うことが出来なかったんだ。でも、俺は今その力とお金を持っている。その力で俺の手の届く範囲でだけど困っている人を救おうと思っている。シャルルさんも力とお金は持っているだろ。これからは力を合わせて困っている人たちを一緒に救おうよ。だから今日はシャルルさんが楽しんで良いんだよ」
そう言い優斗はお金の入った袋をバルコニーの上に置いていく。その金額は総額で180億S以上の金貨や銀貨が詰まった袋と10億円が詰まったアタッシュケースだった。
「これはシャルルさんがダンジョンで稼いだお金だよ。受け取ってね」
「本当に受け取っても良いの?」
「ああ、だってこれはシャルルさんが魔物を殺して稼いだ金だよ」
シャルルはそう言われ優斗がそう言いだした。でもシャルルは優斗に言われて魔物を狩っていただけで自分がお金を稼いでいたなんて思ってもいなかった。
「こんなに私は稼いでいたのね」
「当然だよ。ドラゴンとは一匹でもオークションに出すと1億2千万Sはするよ。そのドラゴンを美香と二人で178匹も狩ったんだよ。それ以外にも良い金額で売れる魔物を数多く狩っているんだ。その魔物を俺のスキルでお金に換金したんだ。それくらいの金額は稼いでいるさ」
シャルルは恐る恐るお金が入っている袋を開けて中を見る。その袋には金貨がびっしり入っていた。その他の袋にも同じように金貨や銀貨が入っている。
「ありがとう、優斗。力だけじゃなくお金まで手に入れることが出来て幸せだよ。優斗に付いて来てよかったわ」
シャルルはそう言い涙を流す。今まで村にいてこんなに幸せな思いをしたことが無かった。もし幸せだった記憶があるとすれば、まだ両親が生きていた時に一緒に食事をしたりピクニックにいったりしていた時の記憶だ。
両親が死んでからは辛い毎日だった。シャルルはその時のことを振り返り今の幸せをかみしめる。シャルルは優斗と出会ったことを神に感謝した。
「さあ、このお金を受け取ってよ」
「分かったわ。優斗には感謝してもしきれないほどのものを貰ってしまったわね」
シャルルはそう言ってお金を亜空間倉庫に仕舞う。そして食堂に二人で戻る。食堂で美香にもお金を渡す。
「美香はこんなに稼いだの?」
「ああ、さっきシャルルさんにもお金は渡したよ。これは美香の分だ。リアースのお金を大目にしてある。リアースでの生活の方が長くなるだろうからな。日本のお金は50億円あれば遊んで暮らせるし美香の子孫にも財産を残すことが出来るだろ」
美香は目の前のお金を見て驚いていた。宝くじの2億5千万もどう使おうか悩んでいるのにさらに50億円のお金が舞い込んできた。それにリアースのお金は140億S以上もある。
500歳まで生きるならリアースのお金は140億Sあってもそれくらい使うことが出来ると考えている。
「50億円も使う予定はないんだけどな」
「退魔師になったら確定申告しなくてもいいらしいから退魔師になって土地を買うと良いよ。土地を買って賃貸マンションやアパートを建てるんだよ。俺が作る不動産会社でアパートやマンションの管理はするよ」
美香は優斗に全てを任せることにした。美香自身お金の使い道にいい考えが浮かばなかったからだ。
優斗は美香の子孫の為に資産を増やすつもりでいる。そうすれば優斗と美香がリアースに行った後でも子孫は日本で裕福に暮らすことが出来ると考えたからだ。まあ、その子孫も100歳を超えたらリアースに連れてこようと考えている。
そうしないと子孫が長生きだと日本政府に知られてしまうからだ。そうならない様に手は打たなくてはいけない。そのためにも退魔師である成神家の力が必要になると優斗は思っている。
「今日はこれでお開きにしよう。明日は城で一日休みにしようと思う。それぞれ城で自由にしてくれ」
「お兄ちゃんはどうやって過ごすの?」
「俺は新しい階層を作って遊ぶつもりだよ。興味があるならシャルルさんも美香も新しい階層に一緒に来てみるか?」
「うん、美香は暇だから、お兄ちゃんと一緒に行く」
「そうしたら、私も行くわ」
結局、明日も三人で過ごすことになった。優斗は前から考えていた計画を新しい階層で試すことにした。




