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モノクロダイアリー  作者: 忍忍
第一章 双子編
69/71

無題(断)

169

 青春とは、いいものだ。

 大抵のことは思い出に昇華される。

 ある一部を除いて。



170

 さて、あの危なっかしいお姉さんと別れて、無禅とかいうおっさんを探し回っているわけだが、全く進んでねえんだよな。

 どうしたもんかね。



 さっきから、妙な視線を感じてはいるが、殺気を含んでない分、出所を当てにくい。

 はあ、やりにくい。

 殺りにくい、の方が正しいか、くはは。



 正義の味方のおっさんは、無禅の居場所を研究所の何処かだと言っていたけれど、どうなのかね。

 実験場も植物園も、確かに潜伏には向いてなさそうではあるが、研究所という空間も同様だと思うんだけどなあ。



「あー、めんどくさくなってきた。くはは。手当たり次第、殺して回れば何とかなると思ってたけれど、現実はそう甘くないってわけだ。鬼に厳しいね、全く」



 口に出してみたけれど、返事は勿論ねえよな。

 さっきから、何処かで覗いやがる誰かさんが応えてくれりゃ、幾らか面白いことになるんだけどな。

 


 研究所の上層部分は全て見て回った。

 あとは《会場》ってところと、地下通路のところか。

 現在進行形で視線が集まっている場所と、あからさまに隠されている場所、ねえ。

 殺人鬼の舞台として相応しいのはどっちかねえ、くはは。



 いや、悩むまでもねえか。

 答えは問いが発生する前から決まっている。



「地下、だな」



 俺のような殺人鬼にできた、奇妙な縁。

 同じく殺人鬼だった母親も、こんな気持ちだったのかねえ。

 柄にもなく、思い出に耽っちまうとこだった、くはは。



 にしても、この研究所違和感だらけで気持ち悪いんだよなぁ。

 こうして普通に階段を下るだけでも、その気持ち悪さは顕著に表れている。

 まあ、そういうのを言語化すんのは俺の仕事じゃねえから、その辺は置いておくとして。

 違和感は無視できねえ。

 こういう局面での違和感は、直接命に関わってくるからな。

 早めに潰していくか。



「違和感は二つ。さてさてどうしたもんかねえ」



 何となく口に出した。

 同時に殺気を解放する。

 相手なんか知らねえ。

 そもそもいるかどうかもわかんねえし。

 


 しかし••••••



「元気ね、うふふ」



 はあ、やっぱりこうなるのかよ。

 最初から信用しちゃいなかったが、こうも早く対峙するとは思わなかったよ。

 


「何か用? 水仙のお姉さん」

「うふふ、わかっているくせに」



 相変わらず、俺らに負けず劣らずの殺気だな、本当に。

 思わず笑えてくるわ、くはは。



「わからねえから聞いてんだよ、お姉さん。俺に思考力とか推察力とか期待すんなよ」

「手伝いに来てあげただけよ。ちょうど手が空いたからね」



「手合わせじゃなくて?」

「あら、私たちがするとしたら手合わせ程度では済まないでしょ? うふふ、そうしても全然構わないと言いいたいところだけれど、本当に手伝いに来たのよ。手伝いというより、導きと言った方が正しいかもしれないけれど」



「回りくどいな、俺に何をさせるつもりだよ」

「あら、気が立っているのかしら? 私と別れて、未だに有力な情報を一つも得られていない状況に、一体どんな不満があるというのかしらね、うふふ」



「えらく煽ってくんじゃん。焦ってんのはどっちだよ、さっさと言え。何があって、何が足りてなくて、何を望んでんだよ」

「うふふ、本当に君はいい子ね。殺人鬼なのが不思議なくらい」



「はあ、マジで何しに来たんだよ、お姉さん」

「氷花ちゃんがいなくなったわ」



 余裕の無さは、そこから来てたのか。

 想定外のことが起きたのか、予想以上のことが起きたのか。

 あのお姉さんの何が、こいつをこうも動かすのやら。



「••••••」

「白塔梢さんは無事よ、今は安全なところで休んでもらっているところ。大猫さんに関しては、君の連れと一緒にいると思うわ。全てを説明している時間はないの、だから端的に説明するわね」



「••••••」

「うふふ、そう疑わないでちょうだい。目的は違えど、手段は同じでしょう? それにね、私としても今の状況はあまり好ましくないのよ。氷花ちゃんは負けん気は強くて可愛らしい子だけれど、決して強い戦士はない。だから、この場所で逸れてしまうということは、そのまま氷花ちゃんの危険に直結してしまうわ。だから一旦聞いて頂戴」



 断ったとしても、好き勝手に話すつもりだろうに。

 でもまあ、あのお姉さんを助けるためには、話は聞いておいた方がいいだろうな。

 助ける、か。

 くはは。



「まず、氷花ちゃんを見失ったのは、地下の私室の近くの可能性が高いわ。あのアイという子と別れるタイミングでほんの一瞬、私たちは別行動をしてしまった。その隙を突かれたということになるのかしらね。私はその時、白塔梢と共にいたけれど、軽い襲撃を受けたわ。その際、私室から少し距離を取らざるを得なかった。言い訳のように聞こえてしまうかもしれないけれど、あのタイミングで仕掛けられた時点で、負けだったわ」



 ••••••。

 状況はわかった。

 このお姉さんでも対処できなかったってんなら、確かにどうしようもなかったんだろう。

 そこをどうこう言うつもりはねえ。

 しかし、俺は正義の味方でも、善人でもねえ。

 俺は殺人鬼だ。



「オーケー。改めてもう一度同じことを聞くけれど、俺に何をさせてえんだよ」

「うふっ、君とは仲良くなれそうだわ」



「おふざけはいいって。早く言ってくれ。俺はどこに行って、誰を殺せばいい?」

「君はこの施設を出て、君たちが最初に連れて来られた屋敷に向かって頂戴。枠綿無禅はそこにいるわ。そしておそらく、氷花ちゃんもね。氷花ちゃん以外は全員殺して構わないわ」



「ふうん。それで、お姉さんは何をするつもりなんだよ」

「氷花ちゃんとの約束を果たすわ。白塔梢の保護と、君の連れであり氷花ちゃんの妹である時野舞白の保護、ね。特に時野舞白、彼女は色んな意味で危険すぎるわ。だから私と大猫さんで彼女を守るつもりよ」



「まあ、了解した。委細承知ってやつだ。だったら、お姉さん、絶対守り通してやってくれ。これ以上あいつらに何かを奪わせんな」

「ええ、こちらも了承したわ。君も気をつけてね。私との約束も残っているんですから。うふふ」



 くはは、このお姉さんも余裕をなくすことがあるんだな。

 それが見れただけでも、この場はよしとしておくか。



「じゃあ、行ってくる」

「ええ、また後で」



 さて、殺人鬼は殺人鬼らしく。

 殺すことしか能がねえ存在である俺が、この局面で誰かに何かを託し、誰かのために他の誰かを殺す。

 こりゃなんて喜劇なんだ?

 


 まあいい。

 その悉くを平等に、均一に、一律に殺してやる。

 

 

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