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モノクロダイアリー  作者: 忍忍
第一章 双子編
50/71

無題(堕)

131

 孤独は人を強くするが、優しくはしてくれない。



132

 さてさて、シロはちゃんとお姉さんのところに行けたのかねぇ。

 微かに聞こえた、おそらくは白塔のお姉さんの叫ぶ声だった。

 その瞬間、シロのスイッチが入っちまった。

 こんな状況だし、シロの暴走も少しは多めに見ておかないと、本当にこっちが全滅しちまいそうだ。

 くはは、ヒリヒリしてきたなぁ。



 俺は、乱暴刑事のお姉さんと合流してぇところではあるけれど、あの正義のおっさんの気配がねぇんだよな。

 ここから、一旦屋敷に戻ってみるのもありっちゃアリかもな。

 


 シロを置いていって、本当に大丈夫か?

 シロの神経は、もう既にかなり擦り切れている。

 さっきの戦闘でも、危うい場面は何度もあった。

 今のシロは、限りなく殺人鬼に近づいていて、いつ成ってもおかしくないところまで来ちまってる。



 お姉さんんを、おっさんに任せたままで大丈夫か?

 純粋な殺し合いなら、おそらく俺の方が強い。

 でも、誰かを守る闘いにおいては、あのおっさんの方が圧倒的に強い。

 おっさんの気配が感じ取れない今、俺が行くべきか、信じて俺のやるべきことをやるべきか。



 くはは、全く。生きるって面白いことだらけじゃねぇか。

 面倒臭いことだらけで、煩わしいものに囲まれて、面白おかしく盛り上がってんなぁ。



 呑荊棘のお姉さんとの約束もあるし、こんな所で足踏みしてる暇はねぇんだけどなぁ。

 


「殺し合いの最中に考えことかい? 流石は殺人鬼といったところですね。非常に妬ましくて腹立たしい」



 うるせぇな。だいたい誰だよこいつ。

 シロが駆けて行った直後に現れて、いきなり襲ってきやがった。

 大した脅威もなさそうだから、適当にいなしながら観察してるけれど、こいつ程度なら一瞬で殺せる。

 それよりも、今後のことだな。

 俺がいるのは実験場、おっさんは研究所に向かうっつったけれど、こりゃ屋敷の方に行ってるのかもしれねえな。

 俺がやるべきこと、それは誰を殺すか見極めることだろうな。



「死になさい、殺人鬼っ。あなたを殺して、あの方に認めてっーー」



 本当にうるさいな、こいつ。

 反射的に殺しちまったじゃねぇか。

 枠綿ってやつの居場所と、あいつの居場所を聞き出そうと思ってたってのに。

 俺もまだまだだな、なんか凹むなぁ。

 


 取り敢えず、先に進むしかねぇよな。

 殺人鬼は殺すしかできねぇ、それはどこまでいっても、どこまで堕ちてもかわらねぇ。

 くはは、くはははははは。



「お待ちしていました」



 おっと、油断しすぎた。

 一人で高笑いしてるところ、見られちまったかな。

 恥ずかしいじゃねぇかよ、ってまたこの顔か。

 お姉さんの顔は、さっき嫌という程見たばっかりなんだけれど、何の因果かねぇ。

 俺、お姉さんに呪われてんのかねぇ、くはは。



「俺を待ってたって? どこに連れてってくれんの?」

「枠綿水仙様の所へ、お連れする様仰せつかっています」



 おいおい、また新キャラかよ。

 水仙っつったか、なんか聞いたことあんだよな。

 どこだったかな、水仙って名前のプレイヤーと会ったことある気がすんだけれど。

 まあ、会えばわかることではあるか。



「いいよ、案内頼むわ。それとも、お姉さんとも殺し合ってからの方がいいかい?」

「いえ、その必要はございません。あの催しは貴方様ではなく、もう一人のお方のためのものでしたので」



 そりゃそうだろうな。

 俺に、あの類の攻撃は効かない。

 あれに何かしらの目的があるとしたら、それはシロを揺さぶることだろうな。

 その結果なんか、最初から考えてないんだろうなぁ。

 


 あいつが暴走して、完全にその線を越えちまったら、ここにいる人間は誰一人生き残れない。

 断言できる、俺ですら殺されちまうかもな、くはは。

 完全に覚醒した殺人鬼の前で、姿を隠し切るなんて不可能に近い。

 わずかな命の気配すら、殺人鬼は掴めてしまう。

 そんな存在にあいつをする訳にはいかないよなぁ。

 いろんなやつに守られてるシロなら、まだ戻れるはずだから。

 俺が捨てた、諦めた未来を、シロなら歩けるかもしれない。



 それを邪魔するやつは、俺が全員まとめて殺してやる。

 俺たちに関わったことを後悔するだけじゃ足りねぇ、生まれてきたことすら後悔する程の恐怖を与えてやる。



「あの、そろそろ向かいましょう。水仙様は大変気難しい方ですので。それに貴方の知り合いの方もお待ちになっているそうです」

「あそ、じゃ行こうか」



 知り合いねぇ、靴谷氷花以外ねぇだろ。

 おっさんは間に合わなかったってことか?

 それか、負けたか。



 どちらにせよ、お姉さんが人質になってるってんなら、俺に選択権はねぇな。

 大人しく言いなりになるつもりはねぇが、どうしてくれようかねぇ。



「水仙様は、お屋敷にいらっしゃいます。お手数ですが、そちらまでお付き合いくださいませ」

「お姉さんと歩くのは、嫌いじゃないからいいよ」



 呑荊棘の姉さんは、またそこにいたりすんのかねぇ。

 だとしたら、説教されそうだな、くはは。



「他の私とも、お話をされたのでしょうか」

「ん? お話って程でもねぇけど、俺にとっちゃ懐かしい顔なんでね」

「嫌な気持ちに、させてしまったでしょうか?」



 人造人間、完全なる人工の命。

 それでも、人の思いってのはそこに残るってことなのかねぇ。

 あのお姉さんも、そうやって人に優しく生きてきたんだろうな。

 妬けるよ、ったく。



「気にすんなよ、俺はお姉さんのこと嫌いじゃねぇからさ。それに、こうして何にもねぇ道中、会話に付き合ってくれるだけでもありがたいよ」

「私は、私たちはここで生まれ、ここで死んでいくのみです。稀に外の世界に出荷されることもある様ですが、それを望む者は、おそらくいないでしょう。私たちはそれぞれの感情や記憶を共有できる様です。その結果、外の世界で私たちが、どのような使われ方をしているのか、その全てが流れ込んでくるのです」



 共有、共鳴、共振。

 その感覚は、俺ら殺人鬼にも共感できる。

 しかし、こいつらのそれは、覆すことのできない現実として、争うことのできない運命として流れ込んでくるってことか。

 面白くねぇよな。



「俺にその話、していいのか?」

「貴方様は、私の願いを聞いてくださいました。正確には、私たちの中に分散して存在する、白塔呑荊棘様の願いでしょうけれど。しかし、それだけでいいのです。それだけで、ここにいる誰よりも信用に値する人間だと、私たちは希望を持てるのです」

「あんまり、殺人鬼に期待するもんじゃねぇぞ。俺にできることは••••••」

「殺すことのみ、ですよね」



 うーん、お姉さんのことは嫌いじゃねぇし、少なからず好意的に思うけれど、これはこれでやっぱりやりづらいもんがあるんだよなぁ。

 


「この辺りでしたか、貴方様が白塔呑荊棘様と、お話をなさったのは」



 そうだ、ここで俺はお姉さんと話して、約束して、そして殺した。

 


「安心してくださいませ、私の中に白塔呑荊棘様はいらっしゃいません。記憶としては引き継いでいますが、意識が内在する程には、適合していない様です。ですから、貴方様がもう一度私を殺す様なことは起きませんよ」

「そんなことで、悩んではねぇよ」



 俺が考えてんのは、もっと自分勝手なことだよ。

 どうしようもなく終わっちまってる俺が、誰かのために闘うってこと自体おかしいんだからよ。

 


「優しい方なのですね、お話しできてよかったです。水仙様は、彼岸様と同格の強さだと聞いております。殺人狂というのでしょうか、人を弄ぶことに悦びを感じるお方です。十全に警戒くださいませ」

「彼岸ってのが誰なのかは、知らねぇけど、大丈夫だろ。俺の知り合いに手出してんだ、相手がどこの誰だろうが、殺すだけだよ」



 彼岸、おそらくはあいつのことだろうな。

 あれと同格ってのがどこまで真実なのかは置いといて、お姉さんが何をされてんのかが肝だな。

 操られて、俺と殺し合うこともあり得る。

 考え得る最悪を準備しておけ。

 どうせ、俺に都合のいい展開にはならねぇ。



「着きましたね、お屋敷です。このお屋敷の地下に、水仙様はいらっしゃいます。私の案内はここまでとなります」

「おう、ありがとな」

「行ってらっしゃいませ」

「ん、行ってくる」



 変な感じだよなぁ。

 俺の中のお姉さんは、こいつじゃない。

 それでも、不思議と受け入れちまう。

 分散して、存在してる、か。

 白塔梢に、あんたが命をかけて守りたかった姉に、会えるといいな。

 それは、俺の役割じゃねぇ。

 それは、あいつの仕事だ。



 俺の仕事は、こっちだよな。

 枠綿水仙、殺しに長けた相手ってならこっちもやり易い。

 無様に捕まっちまってるお姉さん助け出して、枠綿水仙ってのを殺して、さっさとシロのところに戻るとするかね。



 俺は殺人鬼。

 殺すことしかできない、殺すことでしか存在できない。

 遠慮なく、深慮なく、暴虐の限りを尽くして。

 手心もなく、真心もなく、凄惨な死を。


 お前らの好きな、命懸けの宴だ。

 くはは、楽しくなってきた。



 


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