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モノクロダイアリー  作者: 忍忍
第一章 双子編
39/71

無題(流)

107

 霞みがかった夢は所詮夢のまま。

 

108

 ああ、今日は満月か。

 普段あんまり月とか見ないけれど、こういう時に限って見ちゃうんだよな。


 さてさて、このまま俺はどんなゲームに誘われるのかねぇ。


 「ここから先は、お一人で行ってくださいませ。会場はこのまま真っ直ぐ行ったところにございます」


 お、結構歩いてきたけれど、漸くか。

 それにしても、ここまで一言も話してくれなかったなぁ。

 まあ、別に何か期待していたわけでもないけれど。


 こいつは、おそらく造られた存在で、意志とか感情とかを無理矢理削ぎ落されてるんだろうな。

 普段の俺なら、こういうのに何かを感じたりはしないんだけれど、それでも知り合いの顔となると、流石に思う所はあるよなぁ。

 

 「なあ、お姉さん、名前は?」

 「••••••」

 「なーまーえー、あるなら教えてくんない?」

 「••••••?」


 いや、キョトンとされても。

 あのお姉さんの顔で、その表情はかなりグッと来るものがないこともないけれど、そんなことより、ここでは名前ですら呼ばれてないってことなのかねぇ。

 はぁ、気が滅入るというか、殺意が溜まるというか。


 「じゃあ名前はいいとしてさ、お姉さん少しだけお話に付き合ってよ」

 「そのような命令は受けていませんが」

 「俺を案内するのがお姉さんの仕事なんだろ?だったら、俺の悩みをスッキリ解決して、心置きなくゲームとやらに参加させるってのも、案内役としてやるべきことなんじゃねぇの?」


 流石に無理がある。

 自分で言っておきながら、こんな屁理屈通じるわけないとわかる。


 「そう、ですか。ではお話に付き合いましょう。それが済み次第、この先へと進んでくださいませ」


 あれ?

 通じるんだ、そっか。くはは。

 

 「お姉さんさ、この場所好きかい?」

 「質問の意味がわかりません」

 「んー、そうだなぁ、ここにいて居心地がいいと感じてるのかって聞いたらいいのかねぇ」

 「居心地ですか、私にそういう感情は存在していませんし、ここ以外の居場所を、私は知りません」

 

 そりゃ、そうか。

 白塔呑荊棘、あのお姉さんはどうだったのかねぇ。

 姉のために、姉の身代わりになって殺された、あのお姉さんはこの世界に希望なんてものを見出せていたのだろうか。

 くはは、なんだかセンチメンタルになっちまってるのか?この俺が?


 「外に出たいとは思わねぇの?」

 「出たい••••••ですか。わからないです」

 「そっか」

 「悩みは解決できましたでしょうか?」

 

 このお姉さんに、俺がしてやれることなんて何一つないのかもしれないけれど、それでも何かを望まれたら俺は応えちまうんだろうなぁ。

 本当、どこまでお人好しなのかねぇ、俺ってやつは。

 くはは、笑えねぇ。


 「そうだな、じゃあ最後に一つ。俺はさ殺人鬼って呼ばれる存在で、それ以外の何にもなれない男なんだけれど、お姉さん、俺に何か頼みたいことはないかい?」


 殺人鬼に願うことなんて、真面な願いではないのは聞かなくてもわかるけれど、でももし何かあるんなら、聞くくらいはしてやらないとな。

 あのお姉さんに、あっちで怒られちまう。

 

 「願い、ですか」

 「そ、願い」


 考えたりすることはできるんだな。

 感情が全くないってわけでもなさそうだし、後天的に削ぎ落とされたってことか?


 「何でも、よろしいのでしょうか?」

 「おう、言うだけならタダだしな」

 「そうですか、私の願い••••••」


 ここからの脱出、自分を造った人間への復讐、その辺りか?

 その後のことは、最悪、「シロ」に面倒見させりゃいいだろ。

 

 「私を殺してくれませんか?」


 は?


 「私は、ここで生まれここで死にます。それはそういう役割ですから、仕方がありません。しかし、この身体の素体となった方はどうなのでしょうか。既に亡くなられていると聞いていますが、私たちの中には『彼女』の記憶や癖が断片的に存在しています。私の中にも、それはあります。研究所の方々には隠していますが••••••。お姉様がいらっしゃるんですよね、『彼女』には。そして今、そのお姉様を傷付け、苦しめるために私たちには、とある指令が出されています。私は、感情など持ち合わせていませんが、存在しないはずの心が、その指令を、命令を拒絶しているのです」


 待て待て。

 ただの殺人鬼に背負わせるにゃ、重すぎんだろ。

 ったく、こういうのは俺の役回りじゃねぇ気もするんだが。

 いや、思い返せば、こういう役回りしかしてきてねぇか?


 「ですから、私の願いは••••••、『彼女』が大切にしていたものを壊すくらいなら、白塔梢様の知らないところで死にたいのです」


 あくまで虚ろな表情のまま、想いの篭った言葉を吐くんだな。

 そうか、ちゃんとあるじゃねぇか。

 だったら、俺にもできることがありそうだ。

 殺人鬼には、人助けなんてできやしない。

 俺にできることは、ただ殺すこと。

 

 「俺でいいのかい?」

 「はい、あなたならば信用できますから」

 「あ?そりゃ幾らなんでも言いすぎだろ」

 「私は、あなたを知っていたのですよ。私の中の『彼女』が教えてくれました。キミのことは信用できる、と」

 「っ!」


 キミのことは信用できる、か。

 くはは、こりゃ参った。

 それは、あの日俺がお姉さんに言われた言葉、そのまんまじゃねぇか。

 しかも、今の一瞬、言葉に感情が乗ってやがったな。

 そこにいるんだな、白塔呑荊棘。


 「く、くはは。そうかそうか、じゃあ俺から言うことはもう何もねぇな。お姉さんはどうだ?何か言い残しておきたいことはあるかい?」


 できるだけ痛みを与えず、一瞬で殺してやる。

 

 「••••••」 

 「遠慮なんかしなくていいぜ、どうせここには俺しかいねえ」


 出てきな、最期なんだ。

 あんたの声で、あんたの言葉で、その命に幕を引いてやれ。

 後のことは俺がなんとかしてやるからよ。


 「••••••」

 「伝言でも、頼み事でも、今なら何でも聞いてやりたい気分だから、気にすんなよ」


 これは、駄目だな。

 俺も、「シロ」のこと言えねえかもしれねえなぁ。

 感情に流される、怒りに染まる。

 殺意を抑えろ。

 今だけでいい、せめて目の前のこいつだけは、笑って殺してやれ。

 


 

 「梢と舞白、ひょうか姉のこと、任せてもいい?」

 「おう、任せな」

 

 「殺人鬼のキミにばかり、辛い役を背負わせてごめんね」

 「いや、好きでやってることだ、気にすんな」


 「舞白とはうまくやってる?」

 「どうだろうな、でも強く生きてるよ、あいつは」


 「キミとこうして話す日が来るとは思ってなかったよ、ふふ」

 「そうか?俺は何となくわかってたけどなぁ」


 「少し背伸びたね」

 「そりゃあれから五年経ってんだ、背くらい伸びるだろ」


 「みんな元気にしてるかな」

 「ああ、こんなところに戻ってきちまうくらいだ、元気に決まってるだろ」


 「キミは?」

 「あ?」


 「キミはちゃんと生きるんだよ」

 「••••••」


 「じゃなきゃ、舞白のこと任せられないよ?」

 「はいはい、お姉さんの言うことには従う殺人鬼君ですよ」


 「うん、最期にキミと話せてよかった」

 「可哀想なこったな、最期の瞬間に隣にいるのが俺みたいな殺人鬼なんてよ」


 「••••••ふふ、やっぱり死ぬのって怖いね」

 「そうか」


 「この身体の子には申し訳ないことをしたなぁ」

 「元はお姉さんのものなんだからいいだろ」


 「ふふ、本当に天邪鬼だよね、キミ」

 「くはは、違いねえ。殺人鬼なんてやめて天邪鬼として生きていこうかな」


 「ありがとう」

 「くはは、何だそりゃ」


 「キミになら、皆のことを任せられる」

 「そこまでの信用を勝ち取った記憶はねぇけどな」


 「いいんだよ、私がそう思ってるだけで」 

 「そういうもんか?」


 「うん、そういうもん」

 「そっか」


 「••••••」

 「••••••」


 「じゃあ、そろそろ」 

 「卑怯だな、お姉さんは」


 泣いてんじゃねぇよ。

 未練なんか残して、死のうとしてんじゃねえよ。

 俺は、目の前の命を助けることはできない。


 殺すだけ、ただ殺すだけ。


 「キミでも泣くことあるんだね」

 「••••••うるせえ」


 「私はもうすぐ意識を手放すことになる。そうなったら、この子はこの子のままで殺されなきゃいけなくなる。だからね、私がここにいるうちに、ね?」

 「ああ、そうだな」


 「キミの涙を見れるなんて、こうして出てきた甲斐があったかな」

 「性格悪いな、お姉さん」


 「ほら、笑おう?」

 「お姉さんだって、泣いてんだろ」


 顔面ぐしゃぐしゃになるくらい。

 そんなに泣けるんなら、と願うのは筋違いなんだろうな。

 

 「くははーだっけ?」

 「真似してんじゃねえよ」


 何だよこれ。

 何で、こんなところまで来て、こんなことになってる?

 まだまだ考えなきゃいけないことだらけだってのに。

 このお姉さんは、またデカいもんを俺に託すんだな。


 「さぁ、早く行かないと皆のとこ行けなくなるかもよ?」

 「いいんだな?」


 「うん、いいよ」

 「あいつらに会いたくねえのか?」


 「会いたいよ」

 「だったら••••••いや、悪い」


 「優しいね、キミは」

 「後のことは任せな」





 「うん、頼んだ!」


 ーーヒュッ

 

 ーーゴトッ



 あんないい笑顔できんだな、あのお姉さんでも。

 あんたに託されたもんは、しっかり守ってやるよ。

 あんたを殺した俺は、一体何を背負ったんだろうな。

 

 この先に何が待ってんのか知らねえが、全部まとめて殺してやる。

 

 くはは、久しぶりだな。

 感情に任せて、殺意を解放すんのは。

 

 《この先、第一の試練。全てを殺せ》


 丁寧に看板なんか立てちゃって、暇かよ。

 でも、そんなことはどうでもいいな。

 

 俺は俺を全うするだけだな。

 この辺にいるであろう「シロ」や白塔梢の捜索と、靴谷氷花の回収。

 加えて、枠綿の関係者の皆殺しだな。

 

 

 ん?ここはグラウンド?

 あの部屋のモニターに映ってたよな。

 ここで《全てを殺せ》か、何を企んでのかねぇ。


 にしても、ここ広いな。

 見渡せるだけでも相当の広さだな。

 誰もいねぇけど。


 いや、誰もいねえわけじゃねえな。

 二人か?

 この気配の殺し方は、殺し屋か。

 いいぜ、幾らでも相手してやるよ。

 

 「貴様が最初の試練か、恨みはないが殺す」

 「貴様が最初の試練か、恨みはないが殺す」


 声をかけてくるなんて、律儀だねぇ。

 殺し屋特有の拘りなのかねぇ。


 「我は千切原真冬、殺し屋」

 「我は千切原真夏、殺し屋」


 いちいち同時に喋りやがって、聞き取りずれぇ。

 それにしても、「千切原」か。

 割と有名どころじゃねぇか、そんなヤツらまで飼い慣らしてんのかよ。


 獲物は鎌と鉄扇か、なるほどね。

 同時攻撃がメインか、うざったいな。

 

 

 第一の試練とか言って、何個試練を準備してんのかねぇ。

 時間かけるメリットはなさそうだし、さっさと殺すか。

 

 白塔呑荊棘、ちゃんと見とけよ。

 あんたが二度も願いを託した殺人鬼が、どれだけ狂ってるのかを。

 安心して後悔しな。

 殺して殺して殺して、殺し尽くしてやるからよ。


 「貴様は名乗らないのか、別に興味もないが」

 「貴様は名乗らないのか、別に興味もないが」


 うるせえなぁ••••••。


 「いいだろう、こちらがやることは変わらない」

 「いいだろう、こちらがやることは変わらない」


 くはは、いいねぇ。

 これくらいシンプルな方が、俺向きだよな、やっぱり。




 「来な、命の全てを殺してやるよ」

 

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