恋の白いビートル
今私は愛車を運転し高速道路を北上している。
車は大学時代にアルバイトで貯めた金で中古で一括で買った。
納車され、両親にお披露目した際父が「血は争えんな」と言った。
社会人1年生の私は盆休みをたっぷりともらったので、大学入学以来ご無沙汰だった秋田の父の実家に顔を出すことになった。ちなみに祖父母とも健在である。
私は敢えて自動車で帰省することを選んだ。6百数十キロの道のりである。父はこまち号で秋田に向かい、母は留守番だ。
帰省ラッシュの渋滞も気にならずほぼ予定通りに秋田中央インターチェンジから一般道に降りた。
西方向に走ると横山金足線とぶつかったので左折し、南に進んだ。しばらく進み台地を越えると、広大な緑の田園地帯が見えてきた。青々とした稲の1本1本が作りだすこの景色が相変わらず好きだった。
私はこれが黄金色に変わるところをまだ知らない。春に水が張られ、空の青さを映すところを知らない。
もっとこの土地を知りたい。この土地に生きる人のことを知りたい。そう思った。
やがて父が育った村に入った。私が向かったのは公園だ。芝生の上に雑に車を停め、遊具のほうへ歩いて行った。
1人の他は誰もいなかった。その1人はブランコに座っている女性だ。私が近付くと「白いカブトムシ、見つかったみたいだね」そう言って笑った。
「展示会、開くの?」
車まで一緒に歩きながら彼女が尋ねた。
「あんなもん、ただの車だよ」
私は助手席のドアを開けて彼女を促した。ラフな格好の彼女がしゃなりとお辞儀をして乗り込んだのが可笑しかった。
「さあ、どこに連れて行ってくださるのかしら」
私が運転席に乗り込むとそうやって訊いた。
私はエンジンをかけて、車の時計を示した。
「もう夕方の4時だ。お寺に行く時間だよ」
公園から寺まで徒歩で5分もかからない道のりを、私はことさらにゆっくりと恋の白いビートルを転がした。
1ptでもつけてくれると嬉しいです。