帰省
東京と秋田をつなぐ秋田新幹線こまち号は秋田、大曲間を乗客から見て後ろ向きに走行する。また、在来線と同じ線路の上を走る変わった新幹線である。
もっとも私がそのヘンテコ加減に気付いたのは長じて後のことである。
8月13日、私たち一家はこまち号に乗り父の故郷である秋田に帰省した。車内で食べる牛タン弁当が私の毎年の楽しみである。帰りに食べる横手焼そばも好物だ。
乗車率100パーセントのこまち号から吐き出された人波に流されて改札前に出ると、混雑の中に祖父母の顔を見つけた。
向こうもこちらに気付き、顔をほころばせた。
近づくと「よく来たね」と言って頭をなでられたが、こちとら既に11歳、早い者では髭が生えてこようと言う年齢である。
人前で頭をなでるのは勘弁してほしかった。
祖父の車で父の実家に向かった。秋田市を南北に貫く大動脈である横山金足線を南に向かって走る。新興住宅地になっている台地を越えてしばらく走ると広大な田園が目に飛び込んできた。
この時期の青々とした田んぼを眺めるのが私は好きだった。
ふと、田んぼの向こうのこれまた新興の街になっている台地が目に入った。開発されているのはその土地の一部に過ぎず、ほとんどが木々に覆われていると言っていい。
カブトムシがよく獲れそうだな。私はそう思った。