第96話 朝帰り
100話も近くなってきましたね〜
「あ〜! ご主人様が朝帰りしてる〜!」
ヒビキ達の泊まった宿に帰ったところ、開口一番にセナが叫んだ。
否定も出来ない事実だし、ヒビキから伝えてもらったとはいえ、勝手に2人で出て行ったのも本当だからな。だけどこれだけは否定したい。
「セナを置いて、えっちなことしたんでしょ!!!」
「してねぇわこの発情ワンコがぁぁ!!!!!」
断じてそのような行為はしていないのだ。
確かに温泉では触れ合ったけど、背中とか首程度の場所にしか触れてないし、その後も宿ではグッスリ眠ったからな。
「ガイアと2人っきりの夜というのは、良いものじゃった。セナも今度、頼んでみるとよい。きっと快く受け入れてくれるはずじゃ」
「ほ、本当......?」
「俺を見て言うなよ。まぁ......タイミングが合えばな」
「やった〜!!!」
全くこの子は、人になってから変わりすぎだろ。
可愛さが上がった反面、人間の抱く感情をより強く表に出してくるから、以前のようにペット扱いしたら怒りそうなんだよな。
ただ変わらないのは、ペットであろうと人であろうと、セナは俺の大切な家族ということだ。
「サティス......」
「ガイア様。いけません」
「分かってる。深くは考えてない。大丈夫だ」
家族という言葉に、自分自身が過剰反応してまった。
もう余裕が残されていないし、ギドさんと戦ったらすぐに王国へ帰ろう。そして諸々のことを終わらせたら、皆で精霊樹の森に帰りたい。
爵位は国王と相談する。俺やエメリアの力は、あの国に居ては危ないから。
「俺は......何の為に生きているんだろうな」
「これ、何を考えておるんじゃ」
溢れ出た思考にエメリアが拳骨を落とした。
「お主はミリアの為に生き、余の為に生き、この場に居る全員の為に生きるのじゃ。死ぬことだけは許されん」
「どうして? どうして死んだらダメなんだ?」
「それは......残された者達が寂しいからじゃろう」
「......そうか。ごめん、変なこと言って」
「よいよい。死ぬ時は余も一緒じゃからな」
優しいな、エメリアは。愛が伝わるよ。
にしても、残された者達、か............難しい話だな。
何か都合の悪いことがあったらポンポン死んでた記憶がある俺には、少し分かりにくい感覚だな。
きっとこれは、失わないと気付かないのだろう。
「それじゃ、イベントのエントリーに──」
「余が済ませておいたぞ。皇帝に直接会ったからの。ついでにガイアの出場も頼んでおいた」
「え? 好き。ハグする?」
「する〜!」
凄まじい手際の良さだ。既に済ませていたとはな。
「あ〜! ずるい! セナもセナも〜!!」
「はいはい。あと、イベントの詳細をチェックしたいし、色々と教えてくれるか? エミィ」
「すまぬ。詳細までは知らないのじゃ。ただ会議の時に聞こえたギドとやらと戦うヤツと言ったところ、了解を得ただけじゃ」
「なるほど。じゃあ街で聞き込みかな。人数も多いし、何人かに別れて調査しよう」
そうしてジャンケンやら賄賂やらで話し合った結果、俺はセナとアンさんの3人で、ヒビキとエメリアとレヴィ、スタシアさんの4人に別れた。
個人的にはエメリアがすんなり引いたことに驚いたが、昨日は一緒に温泉に行ったからかな。優しいお姉ちゃんの雰囲気を放っていた。
それに対しセナは、噛みつきはしないが唸り声を上げる妹って感じだった。この2人、中々に面白いかもしれん。
「──で、ですよ。誰に聞くんだいってコト。因みにこれクイズ。思い付いた人からセイッ!」
まずは適当にブラブラ散歩していたが、目的も無く歩いていては欲しい結果も得られない。こういう時は早めにゴールを設定しておくことで、道中が安定するってもんだ。
「ん〜、そこら辺の人〜?」
「お店の方、でしょうか」
「ブッブー! 2人とも不正解で〜す。この街には何があるか、よ〜く考えてみて欲しい。ヒントは俺とエミィがどこに行っていたか、だな」
ヒントというか、ほぼ答えだけど。
「分かった! セナと朝帰り〜!」
「デ、デート......でしょうか?」
「......2人ともポンコツかな? どう考えても温泉でしょうが! オ・ン・セ・ン! 公衆浴場で裸の付き合いをしながら情報収集ってのが、温泉のある街では鉄則でしょうが!!!」
「「へ、へぇ〜......」」
温泉好きな俺は、源泉のように熱く語った。
そのせいで二人が若干や引いてる気がするが、きっと気のせいだろう。
「帝国は武力に強い国と言われてるそうだ。その理由のひとつに、温泉に入ることで健康維持をしている、ということも挙げられる」
「つまり、兵士や傭兵の方が多く訪れるから、より高頻度に質の高い答えが得られる、と?」
「ザッツライッ!!! 女湯でもそれは同じだから安心してくれ。見回りの兵士や門番に女騎士も多い」
アンさん、素晴らしい。エクセレンッ!!!!
ただのイベント調査に何を本気になってるのか分からないが、温泉に入れて誰かと喋れるならそれでいい。
石鹸のお裾分けでもして魔王領の宣伝もしたいし、温泉という場は情報交換がしやすい場所なんだ。
故に俺は、最大限に活用したい。
「では行こう! レッツ温泉!!!」
「レッツおんせ〜ん!」
「お、お〜?」
◇ ◇
なんということだ......どうして、こんな......
「オイ坊主。お前が武闘大会に出るって?」
「やめとけやめとけ。怪我するぞ。心がな」
「それより次の風呂行くぞ。坊主、来い!!」
どうして俺は、ムキムキのオッサンに担がれて街を移動してるんだ〜!?!?
それは遡ること20分前。
セナ達と一旦別れた俺は、昨日訪れた『翠の泉』を素通りし、街ゆく人に聞いた人気の温泉『力登泉』へとやって来た。
脱衣所に脱ぎ捨てられた服から汗の臭いで鼻が曲がりそうだったが、何とか浴場に来た瞬間、『お前、見ない顔だな』と言わんばかりに凝視されたのだ。
それからは隣で体を洗うオッサンに石鹸を分けて上げると、あれよあれよと言う間に集団の仲間入り。
服も魔法で綺麗にすると、お礼に濃い果実水を貰い、気が付けば次の温泉に入っていた。
「このお湯はにごり湯なんですね」
「あぁ。何か、近くの火山の魔力が染み出てるらしく、ここに入ると魔力が回復するんだとよ」
「へぇ......試してみます」
薄い赤色の湯船に浸かる前に、俺は右手を上げて魔力を集中させた。
体に流れる大量の魔力を一点に集め、人差し指の先に凝縮させる。そして現在魔力の9割ほどの魔力を直径3センチの球体にすると、オッサン達の顔が青ざめていることに気付いた。
「どうしました?」
「ど、どうしましたって、お前......それは何だ?」
「本能が警鐘を鳴らしてるぜ......その塊によ」
「これは魔力の塊です。本当に回復するか試すのに、魔力を使わないといけないですからね」
ビー玉の如く、空色に透き通る魔力の球体。
この球体が持つエネルギーは、きっと核爆弾クラスの熱量に相当するだろう。
そんな物が剥き出しで近くにあれば、本能が警戒するのも無理はない。
「では失礼して。あ゛〜、堪りませんなぁ〜」
オッサン達を放って温泉に球体を浮かべた俺は、まるで疲れた体を癒しに来たサラリーマンのような声を上げた。
そして少しずつ、本当に微量ではあるが、魔力回復能力が高まっていることが分かった。
「効能は本当ですね。体外からの魔力摂取が「ご主人様ぁぁぁぁ!!!!」ブッフェェェ!!!」
な、何かが俺の顔面に飛んで来た......何だ?
「ご主人様、大丈夫!? 襲われて......ない?」
「お、お前が襲ってきたんだろうが! 何で空から飛んで来るんだよ!!!」
飛んで来たのは、真っ裸のセナだった。
反射的に身体強化を使わなかったら、多分俺は死んでいた。そんな速度でコイツは突っ込んできた。
「だってこっちに強い魔力が......あ!」
「俺の魔力だよ。効能チェックの為に取り出しただけ。はい、もう帰りなさい。アンさんには異常無しと伝えるように。いいな?」
困るんだよ。男湯に女子の来場は。
3歳とかならいいんだよ? でもさ、10歳くらいの見た目の女の子は男湯に入っちゃダメなんです。
立派なレディなんだから、ね?
「えぅ〜」
「えぅ〜じゃない! 目のやり場にも困るし、さっさと離れなさい!」
「や〜だ〜! ご主人様の体洗うもん!」
「もう洗ったから結構だ。それより、怒るぞ? 宿で言ってた件、無しにするぞ?」
「......帰ります」
流石にそれはマズいと判断したのか、セナは俺から離れ、最後にギューッと抱きしめると、湯船に浮かぶ魔力の球体を口にポイッと入れた。
「ん〜! おいひい! まらね!」
「着地に気を付けてな〜」
「は〜い!」
飴玉みたく口で転がしながら跳躍したセナは、凄まじい速度で飛んで来た方向へと消えて行った。
「な、何だった今の子......」
「俺の家族です。皆さんみたいに、あの魔力に反応して来ちゃったみたいですね。お騒がせしてすみません。この後、酒場などで奢るので、さっきのことは水に流してください」
「「「「「いいのか!?」」」」」
「はい! こう見えてもお金だけはありますから!」
セナの裸を見た奴、酒で潰して忘れさせてやる。
もし『可愛かったなぁ』とか言ってみろ。貴様の眼球に穴が空くことになるぞ......
とまぁ、冗談はここまでにして、次は酒場で情報収集だな。
酒の席なら喋りやすいだろうし、俺は俺の役割を果たすだけだ。
次回は件のイベント回になればな、と思います。では!




