第91話 会議の時間だよ!
イリス神国に着いてから3時間後。
緊急会議と称し、レガリア王国国王、その第1王子。
ティモー帝国皇帝と第1皇子。
イリス神国教皇と司祭。
最後に、護衛として呼ばれた《幻級》の冒険者が、神国の大聖堂に招集された。
「ふわぁぁあ。眠......」
「あんなに遊ぶからじゃぞ? ほれ、余の膝枕を堪能するとよい。集まるまでもう少しかかるしの」
「ありがと......セナ〜、おいで〜」
会議室にいち早く集まった俺達は、集まるまでにかかる時間を考慮して、帰省組はイリス神国で遊んだのだ。
そのせいで長旅の疲れもあり、睡魔が訪れた。
あぁ、子犬モードのセナもモフモフだぁ......!
「が、ガイアさんは自由......ですね!」
「シアンは硬いんだよ。魔王代理だからって普段の行いまでキッチリしてると無駄に疲れるだけだ。ゼルキアだって、俺やミリアと遊んで息抜きしてたぞ?」
「ゼルキア様が!?」
「そうだ。それでもアイツは疲れてたがな」
ちょくちょく精霊樹の森に遊びに来ては、安部君に抱きつくだけ抱きついて、しれっと帰ることもあったしな。
「やっぱエミィの太ももは最高だな。すべすべしてて気持ちいい」
「こ、こら! 頬を擦り付けるでない!」
初夏前なのにスカートだから悪いんだ。
ミリアとは対称的な魅力を持つエメリアだからこそ、この膝枕は特別感があるのだ。
今日の黒いスカートに赤いリボンが付けれられた装いが、エメリアの優雅な大人っぽさを感じさせる。
そんな姿で膝枕ときたら......堪らねぇぜ!
「にしても、スタシア以外にも転移を使える者が居るとはの。それも人間とは」
「そうですね! シアンもビックリしました! 人間さんの魔力量で転移となると、本来なら1メートルぐらいで限界だと思うのですが......」
「最高の冒険者の1人なんだろ? ミュウとか言う」
あれだけの要人を招集するのに、馬車は遅い。
そこで名前が挙がったのが、『ミュウ』という《幻級》の冒険者だ。
彼女は魔法の腕のみで《幻級》に辿り着き、今は魔法と共に剣術の腕も磨いているそうだ。
実績としては、帝国で起きたスタンピードの鎮静化。
帝国と周辺諸国での戦争で、諸国側の要人を全員無力化。
後世の育成にも手を出しており、17歳の弟子現在、上から2番目のランクである《白金級》になっているらしい。
そんな人にもなれば、転移魔法も自分で作っちゃったそうな。
「転移の気配なら先程からしておるからな。捕まえられるぞ?」
「何で転移まで分かるんだよ。もうお前が最強だ」
そう言えばエメリアは、スタシアさんと一緒に転移している俺を捕まえたんだっけ。
おかしくない? 転移って、一瞬で移動することなんじゃないの? 掴めるものなの?
本人曰く、『ハエを捕まえる感覚』とのこと。
よく分かんないっすね。
『ご主人様、もっと撫でて!』
「りょ」
甘えるセナをワシャワシャと撫で回していると、会議室の大きな扉が『ギィィィ』と開けられた。
俺、実はこの部屋に鍵が掛かっていたことを知っているぞ。何かあった時の為だろうが、信用問題に関わる問題になるのは確定だ。
この会議、荒れるぞ〜?
「それでは始めようか。まず、魔王殿より挨拶を」
人間サイドの人達が全員集まると、教皇らしき人の声で会議が始まった。
「初めまして。魔王ラゼルの代理で来ました、娘のシアンと申します。魔王は現在、病に臥している為このような形になったこと、申し訳ありません」
おぉ、どう見ても子どものシアンがちゃんとした挨拶をしている。
流石に和平交渉には全力なのか、魔王もちゃんと仕込んでいたみたいだな。
「シャルロット・ノーブルです。シアンの護衛兼、魔王領にて公爵の位を授かった者です。本日は魔王の使いである私達の為にお集まりくださり、ありがとうございます」
し、静かだ! あの明るく元気なシャルロットさんが物凄く静かに挨拶している、だと!?
「スタシア・スタシスよ。愛する人の為に中央大陸に来たわ。一応、魔女公爵という地位だけど、私は物資輸送係とでも思ってちょうだい」
ぶちかましたぁぁぁぁ!!!!!
あのスタシアさんがぶちかましたぁぁぁ!!
おいおいおい、どうすんだこの空気?
さっきまで頷いていた要人達から、急にピリッとした空気が放たれてるんだが?
(ガイア、ガイア! お主の番じゃぞ!)
膝枕のまま顔を上げずに待っていると、エメリアに小声で自己紹介をしろと叩かれた。
......一応、義父に当たる人物と義兄になる人物が居るんだが、言った方が良い......のか?
「え、え〜......ガイア・アルストです。レガリア王国のアルスト男爵の者でして......まぁその、転移で極西大陸に飛ばされたもんで、帰るついでに人間と魔族の和平交渉の手伝いをすることになりました。なんか......すんません」
「ガイアだと!? 無事だったのか!!!」
「......生きてやがった......」
やっぱりな。レガリア国王であるアルガス・デル・レガリアと、カインの野郎が反応しちゃったよ。
2人の反応を見た他の国の要人達も、そして扉の前で控えている護衛の《幻級》の男女も、み〜んな俺を見ている。
注目されるって、恥ずかしいな。
「そう簡単には死なないので、残念でしたね。義兄さん。学園を卒業したらミリアと式を挙げるので、ちゃんと招待しますよ。安心してください」
「......チッ!」
適度な煽りも忘れずに。
和平交渉では仲裁に入りたいが、コイツとの会話だけは絶対に煽り散らかしてやる。
暗殺の件を公にしてないだけ、俺に分があるだろう。
「次は余じゃの。余の名前はエメリア。ガイアの第2夫人になる者じゃ。魔王との関わりは無い故、単純にガイアに着いて来ただけじゃ。あ、余は最強のドラゴンでもある故、ガイアに仇なす者は誰であろうと灰すら残さないつもりじゃ。よろしく」
Oh......エメリアサァン......
証拠と言わんばかりに翼を広げなくていいんだぞ......お前、一瞬で護衛に剣を抜かれたの分かってるのか?
「ふぅ、言ってやったのじゃ」
全然分かってませんね。満足そうです。はい。
「最後に、ヒュール・タルバンだ。普段は魔族の治療活動をしており、人間の病も治せるようになりたいと思っている。他にも、魔力に関する研究しているので、和平が結ばれたら積極的に意見交換をしたい。以上だ」
良かった......ヒュールさんは平常運転だった。
はぁ、危なかっかしい自己紹介はやめて欲しいものだ。
勇者が居ない今、魔王サイドの方が強力なのは分かるが、あの紹介の仕方だと関係性の悪化に繋がりかねない。
取り敢えず、人間サイドも紹介が欲しいところだ。
「アルガス・デル・レガリアだ。レガリア王国国王だ」
「カイン・デル・レガリアです。レガリア王国第1王子です」
え? 紹介それだけ? 自分の手の内も明かさないということは、もしかして和平に反対的な感じ?
「バン・ティモー。皇帝だ。そこの嬢ちゃんがドラゴンと聞いて、1度戦ってみたくなった。後で相手してくれねぇか?」
「おやめ下さい父上! 会議の場ですよ!? あ、私はルーク・ティモーと申します。第1皇子としてこの会議に呼ばれましたが、呼ばれた意味が分からない所存です」
分かる。どうして第1王子達が呼ばれたんだろうな?
会議だけなら各国のトップだけでいいはずなのに、何故王位継承権を持つというだけで呼ばれたんだ?
情報漏洩の危険もあるし、意味が分からない。
「私はハーロン。司祭です。以前より魔王が和平を求めることは神託にありました。本日は良い結果になることを、楽しみにしております」
つるっパゲのオッサンが司祭なのか。
何故かエメリアをジロジロと見ているし、要注意人物だな。
俺の女に手を出そうものなら、それ相応の代償を払ってもらうぞ。
「教皇のラックだ。公平な立場で会議を進めることを願う」
この人もハゲてんなぁ。
教会ってのは髪があったらダメな所なのか?
やたら煌びやかなローブを着てるし、ハゲと相まってキラキラ光ってんぞ。
「ではこれより──」
「ちょい待ち。そこの護衛さんは紹介してくれないの? 俺、《幻級》の2人に興味あるんだけど」
大事な人の紹介を忘れないで欲しいね。
この会議での俺の立場は非常に弱いが、公平な立場で会議を進めたい人の願いに応えたいから、自分の意見はガンガン言っていくぞ。
「『万象』のミュウよ。坊や、私に興味があるの?」
「いや? あなたではなく、あなたの魔法に興味がある。転移が本当に『魔法』なのか知りたいだけだ」
「......そう? でもお姉さんにも興味持って欲しいな、なんて......うふふ」
紅蓮の髪に翠の眼。腰の剣はレイピアと長剣。
右手に持つ杖はルビーのような宝石が付いている。
この人......何となく魔術師な気がする。
そしてミュウさんの隣に立つ男も、その出で立ちから歴戦の猛者であることが分かる。
姿勢、呼吸、視線。全てが研ぎ澄まされている。
茶色い髪に金色の瞳を持ち、背中の長剣は柄を見るだけでも分かるほど、使い込まれた業物だ。
「『剣帝』ギドだ。お前の強さが知りたい」
「そうですね。あなたより強い、と言ったら?」
「後で試す」
「ではまた後で。友達になりましょう、ギドさん」
これで《幻級》全員と知り合えた。
中央大陸で最強の冒険者と言われる人達と、だ。
『刀血』のツバキ、『万象』のミュウ、『剣帝』のギド。
技術、魔法、力と言ったところか? 3人と関わりを持てば、何か吸収できるものがあるだろう。
ミリアやエメリア、ヒビキや仲間を守る為にも、俺には力が必要だ。それ故に力に貪欲になりたい。
守る為の力が欲しい。それだけだ。
「もういいか?」
「はい。中断させてすみません。続けてください」
敬語を戻して会議の開始だ。
和平の締結を第1目標に、俺はエメリアの太ももを触っているとしよう。
太もも大好きガイア君。




