表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/123

第87話 待ち人、向かう人

ミリア編・セナ編・ガイア編となっております。



「──ミリアさん? 大丈夫ですか?」


「はい......まぁ」


「しんどくなったら言ってください。心の休みも必要ですからね!」


「ありがとうございます」



 まただ。また授業中にボーッとしちゃった。

 私の隣の席は今も空席。生存だけが確認され、今どこに居るかも分からないあの人はまだ......帰ってきていない。


 あの日、アルラウネが現れて以来何も起きていない。


 何か起きて欲しい時に、何も起きていない。

 せめて、せめてガイアが健康でいるかでさえ、何も分からない。



「ミリアさん、やはりお休みした方が良いのでは?」



 昼休みになると、ルームメイトのセレスが心配してくれる。でも、学園を休んだところでどうにもならない問題なの。

 それならば、こうして友達と話して気を紛らわせる為に学園に来た方が良い。



「いいえ。きっとガイアもつらい思いをしているわ。だから私だけ休むなんて出来ない。心配してくれてありがとう、セレス」


「壊れてからでは遅いですわ。今、ツバキ様が大陸中を捜索しているのでしょう? それならば、時間が解決してくれます。(わたくし)も信じて待っていますわ」


「......ありがとう。本当に優しいわね、貴女は」



 つらい時に支えになる......とは言わないけど、その温かい気遣いが孤独じゃないと教えてくれる。



(わたくし)、ガイアさんに言われましたの。『前に進む力は、後ろに居る者を引っ張る力だ。お前が前に進もうとするなら、後ろに居る者も引っ張っているんだ』と。今、(わたくし)は前に進んでいます。ミリアさんよりも」


(わたくし)が前に進むということは、ミリアさんを引っ張る役目もありますの。さり気なく言われたあの言葉ですが、今でも(わたくし)の胸に刺さっております」



 そんなこと言ってたんだ......ガイア。

 カッコイイわね。お互いに前に進もうとすれば、必然的にお互いを引っ張り合いことになる。


 そうして2人で、仲間と一緒に前に進むんだと、そう言いたかったのね。



「ミリアさんは逆に、ガイアさんに何か言葉を貰いませんでしたか?」


「『生きろ』、その一言だけよ」



 貴方なら『待ってろ』でも良かったのに。

 毎日毎日、夢で貴方の人生を見る度に思うの。


 私へ向ける底無しの愛情。

 天井を知らない永続の努力。

 誰もを魅せつける天性の才能。

 そして、見付けるとつい抱きつきたくなるルックス。


 夢で見た後、私はいつも寂しい思いをしてる。

 1人で慰める日も、もう耐えきれない。


 貴方の大きな腕で抱きしめて欲しい。

 貴方の温かい手で撫でて欲しい。

 貴方の言葉で勇気が欲しい。 



「帰ってきて......ガイア......」



 私の零した言葉を聞いて、セレスが肩を抱き寄せた。



「帰ってきます。あの方はそういうお方ですわ」


「......そうね」



 信じるしかない。彼が元気に生きていると。

 そして私の元に帰ろうとしていると。




「愛してるわ。ガイア」




◆セナside◆




「はぁ......なんにも分かんなかったね。ご主人様のこと」


「仕方あるまい。今はただ、進むしかないんだ」



 イリス神国のおっきな教会も、おっきなギルドも全部行ったけど、ご主人様の情報はなんにも分からなかった。


 だからもう、セナ達は前に行くの。

 目的地は魔王領。そして極西大陸。

 これでご主人様が見付からなかったら、その時はもう、セナは──



「だね。それと明日、魔海を越えよっか。死ぬ気でね」


「遂にだな。生きて帰れるかも分からない土地か」


「大丈夫だよ。セナ達、強いもん」


「お前はガイア様が居るから強いんだ。腕を食わなかったらただの犬に過ぎん」


「うるさいなぁ。そんなこと言ってたらご主人様に嫌われるよ?」


「うっ......いや、俺は元々......」



 違うもんね。前のヒビキはこんなんじゃない。

 もっと優しかったし、チクチクしないもん。

 セナにも、ご主人様にも距離を取ってたもん。


 やっぱり、ご主人様が居ないとダメなのかな。

 いつもニコニコしてたヒビキに戻って欲しい。




「──船、2人で出すなら大丈夫だって。航路? とか言うのが分かるなら、もしかしたら行けるかもって」



 港に居たおじちゃんにお願いしたら、ものすんごい勢いで反対されたけど、なんとか船を貸して貰えた。


 ううん、違う。帰ってこないのが前提。だから廃船になるボートを貰ったの。元より返ってくると思われてない。



「航路なら分かる。俺は過去、スタシス魔女公爵に会ってるからな。今も薄い魔力の繋がりで、何となく方向が分かる」


「へぇ。ご主人様の魔力は?」


「......あの方の魔力は異次元だ。俺に追えるほどの不純物が無い。綺麗すぎる」


「そっか。あ、そうだ! ご主人様に会えた時のために、お土産買って行こうよ! 絶対よろこんでくれるよ!」


「はぁ......勝手に行くな!」



 いいもん。帰ってこれないならそれで。

 セナはご主人様の傍に居る。

 それがセナに許された、魔物としての在り方だから。

 ご主人様が居ないなら、セナも消えるだけ。




「今行くからね、ご主人様」




◆ガイアside◆




「帰る前にお土産買ってくか! ミリアは分からないが、食べ物ならセナが喜ぶし、魔王領の物ならゼルキアも喜ぶだろ」



 船の手配を幹部達が進める中、やれる事が無い俺達は4人でお土産巡りを計画した。


 エメリア、アンさん、レヴィはミリアに挨拶する時の手土産として。

 俺のは、友達や家族に『魔王領に行ってきた印』として、だな。


 あぁ、そうだ。国王にも買わないとな。

 義父に当たる人なんだし、家族にお土産を買うのは当たり前だ。



「王様、楽しそうだね〜」



 小物店で悩んでいると、横からレヴィが生えてきた。



「楽しいぞ。家に帰れるってのは、俺にとって至上に近い喜びだからな。それに、大切な人が待ってるんだ。早く帰りたいんだよ」


「女王様〜? 王様のこと、忘れてな〜い?」


「忘れてるかもな。俺のしでかした悪事を忘れて、善い行いだけで俺を美化してるに違いない。早く会って、『俺はワルなんだぞ!』って示さないと」



 別にワルではないけどな。

 ただ、自分のしたことが100パーセント善行とは思っていない。

 俺は神でもお偉いさんでもないんだ。

 自分正義じゃ他人不義にもなる。


 また......ありのままの俺を受け入れて欲しい。

 心の底から愛しているからこそ、お互いの再認識も頻繁に行いたい。



「レヴィは何か買ったか?」


「レヴィはね〜、お洋服を渡すの〜!」



 そう言って大きな布袋を見せるレヴィ。

 確か、布袋に入れられた服はダンジョン産の服だとかユーディルゲルが言ってたな。


 日本製かレガリア帝国製か、どっちだろ。



「良いじゃないか。きっとミリアも喜ぶ」


「うん! 信じてる〜!」




 そうしてお土産選びで一日を潰すと、翌朝にユーディルゲルから今日出港すると言われ、大慌てで荷造りをしている。



「──ま、そもそも物が無いから荷造りも無いけど」


「じゃな。久しくこの大陸を出んかったからの。余もワクワクドキドキムラムラしておるぞ!」


「最後のは要らないだろ? 全く......行こうか」



 部屋の掃除をした俺達は、宿屋を出て港へ向かう。

 道中で大量の荷物を抱えたアンさんから荷物を受け取り、影に入れてあげた。


 そして今、俺達の前に1人の少女が居る。


 深い蒼の長髪に、紫紺の瞳を持つ少女だ。

 名前を『シアン』と言い、病気に臥す魔王の娘とのこと。


 この人が来た瞬間、俺とエメリアとレヴィ以外が跪くから何事かと思ったが、王女とならば仕方ない。



「ま、俺は跪かないけど」


「ガイアがせぬのなら余もせぬ」


「この子、偉いの〜? 王様より〜?」



 傍から見れば同年代の4人だ。

 跪かない方が自然ってものだろう。



「シ、シアンです! よろしくお願いします!」


「ガイアだ。よろしく」


「エメリアじゃ。ドラゴンじゃぞ〜」


「レヴィ! 王様のメイドさんになるの〜!」



 行儀正しく俺達に握手するシアン。

 俺は目に魔力を集中させ、シアンの持つ魔力を丸裸にして見てやったが、魔王の娘だけあって魔力の質は高いが、ゼルキア程の強さは無いことが分かった。


 きっと、ゼルキアに後継が居なかった結果だろう。



「行くぞ、皆。魔族も人間も等しく命。互いに手を取り合う未来を選んだなら、共に死ぬ気で歩み寄るんだ」


「あ、あのガイアがまともなことを言ってる......!?」


「そこの騎士、うるさい。ともかく船に乗れ。早く帰りたいんだ」



 さぁ、出港だ。


 和平交渉組と帰宅組を乗せた大きな帆船は、魔術による推進力を得てグングンと西へ進んで行く。





「バイバイ、魔王領。また遊びに来る」

ここまで長かった.....!

死の荒野から始まった帰り道、ようやく折り返しです!


次回予告はしません! 楽しんでくれると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ